突然の珍入者? からの、いきなり始まる鬼ごっこ?
───ドガッ、ゴッ。
──ガズッ、ドゴッ、ガラガラガラ……。
幾つかゲームを変えて、七並べの最中に、奥の壁──私にとって背後な位置──から凄い音がしました。
音に驚いて、咄嗟に正面にいたクリスお兄ちゃんの鳩尾に、勢い良く頭突きしたのは許してください。
ホントにビクッて身体が跳ねるくらい驚いたんです!
クリスお兄ちゃんにくっついたまま、恐る恐る振り返ってみれば、壁が蜘蛛の巣状に皹割れ、蜘蛛の巣皹の真ん中が崩れ落ちてますね。
「………」
ガラガラと崩れた壁の向こう側。
小柄で体格の良い、三つ編みお髭のおじさんと目が合いました。
「「「「………」」」」
我が家の男性陣がおじさんを凝視してます。
?
誰でしょうね?
「………」
ぁ、ツルハシ担いで、何事も無かったかの様に壁の向こうに引っ込んだ。
壁に穴を開けたのって、あのツルハシですかね?
「……誰じゃ?」
『……ドワーフだな』『……ドワーフですね』『……ドワーフだよ♪』
リムが小首を傾げ、レグルス達が見たままを告げました。
いや、そうでなく。
うん。
ドワーフさんなのは確か。
だと思います、多分…。
や、だって、ドワーフさんを実際に見たのは、今回が初めてなんですよ。
街中でも、見掛けませんでしたし。
「リ、リム? 家の壁、破壊されたようだが?」
「追わなくて良いのですか?」
「ハッ! 我が家の壁~っ」
ヒュー様とルクレヒト様のツッコミに、リムが状況を把握したみたいです。
てか、リムの今までの雰囲気は、現実逃避の賜物でしたか。
現実を直視したリムの怒気に、妖精さん達が反応して、ピリピリチカチカしてますね。
「って、知り合いじゃないのか?」
「知らんのじゃ! 待てい! そこなドワーフ! 壊した壁を直さんかーっ!」
リムが人化したまま、崩れた壁の向こうへと突撃して行きます。
リムに指摘したお爺ちゃんを放置して、壁へと近付いたリムは、勢いと力加減を間違えたらしく、皹割れた壁に激突し、瓦礫の山の下敷きになった………。
───って、リム!?
「リム!」
『『『ユナ!』』』
リムが瓦礫に潰されたのを見て、焦って駆け付けようとしたら、レグルス達に止められました。
『ユナ、大丈夫です。ドラゴンはあの程度の衝撃では、怪我ひとつ負わぬはずです』
『そうそう~。ユナが近付いた方が危ないから!』
『というか、ほれ。見てみろ』
シリウスとアルタイルに宥められ、レグルスに促されて瓦礫の方を確認したら、ガラガラと瓦礫を掻き分けてリムが姿を現しました。
「リ、リム! らいじょうぶ!? ケガしてにゃい!?」
「だ、大丈夫なのじゃ。あうぅ、穴を拡げてしもうた」
起き上がったリムは、元気に返事をしたあと、壁を見て凹んでしまった。
壁の穴は、頭を出せるかどうかだった大きさから、ちょっと屈めば子供の出入りは可能な大きさへと拡がってます。
「まぁ、取り敢えず、犯人追うのなら、拡げるしか通る方法が無いんだし、仕方無かったって事にしとけ」
「まったく……ユナを驚かせるとか。逃がしませんよ、あのドワーフ」
エディ兄さんが苦笑いでリムを励まし、クリスお兄ちゃんは苦笑混じりではあれど、なんか怖いです。
私を驚かせた事なんて、怒るような事じゃ無いですよね?
「リム、壁ならば後から魔法で直せます。ドワーフを追うのですか?」
「追うのじゃ! せめて謝罪のひとつは、あって然るべきじゃろ!」
お父さんが冷静に確認したら、リムが怒った理由が判明した。
穴を開けられた事より、謝らなかった事に怒ってたみたいです。
とにかく、ドワーフさんを追うことに異論が出なかったので、皆で穴を潜りました。
お父さんとお爺ちゃんには、ちょっと狭かったみたいですがね。
「ぬぅ。ドワーフめ、何処に行きおった…」
「「あっ!」」
「! 居たのじゃ! 待たんか! そこなドワーフ!」
穴を抜けた先には、坑道? らしき道があって、珍しさに辺りを見回していたら、ヒュー様とルクレヒト様が同じ方向を見て声を上げました。
ヒュー様達の視線の先を確認したら、ツルハシを背負った小柄な背中が、ヒョコヒョコと曲がり角へと消える所でした。
リムがその姿を追って走り出します。
坑道内には、妖精さん達がいっぱいなので、魔法を使う事は可能なんですが、これだけ居るとちょっと不味いかもです。
お母さんやお姉ちゃん達も当然ですが、お父さんも妖精さんや精霊さんに好かれやすいんです。
お母さんの娘である私も。
なので、妖精さんの多い場所だと、魔法の威力が…。
どれだけ調節しても、増幅されちゃうんですよね。
なので、妖精さんの多い場所では、攻撃系の魔法は不味いのです。
どうしましょう?
取り敢えず、追いましょう!
「ユナ、確り掴まっていてくださいね」
リムを追って走り出そうとしたら、ヒョイッとお父さんに抱き上げられました。
急な浮遊感ではありましたが、お父さんに抱っこされる時の感覚なので、すんなりとバランスを保つ為に、お父さんの肩付近の服を握り締めます。
本当なら、首に手を廻すのが正解なのかもですが、3歳児の私には、それだと力が入り難くて、ずり落ちる可能性があるんです。
なので、お洋服に皺がよっちゃうかもですが、今は許して貰いましょう!
お父さんの肩越しに後ろを見れば、ヒュー様がお爺ちゃんに私と同じ様に抱えられてました。
目があって、ヒュー様とお互いに苦笑します。
お父さんに抱っこされたまま、ドワーフさんとの鬼ごっこ開始です!