お母さんに報告しましょ♪ ワガママについて、考えてみた。
お家に戻って、お風呂に入って、ちょこっとお腹が空いたので、お夜食を皆でいただきました。
お夜食には、クラッカー。
生ハムやチーズ、プチトマト、アボカドにブロッコリー。
バナナ、イチゴ、マーマレードに、カスタードクリーム。
チョコレートソースも。
お好みで組み合わせて、果実水で乾杯しました。
歯磨きトイレを済ませたら、毎日のお楽しみ。
お母さんに報告♪ 報~告~♪
『─でね、明日はお爺ちゃんも一緒に、リムのお家に遊びに行くの』
『あらあら、素敵ね。出来る事なら、私も一緒に行きたいくらいだわ』
今日1日にあった、楽しかった事、悲しかった事、嬉しかった事を一気に報告します。
次から次へと移り変わる私の話しを、お母さんは楽しげに相槌を打ちつつ、静かに聞いて居てくれます。
『えへへ。私もお母さんと一緒だと嬉しいな。でも…』
『…ゴメンね』
『ん~ん。大丈夫。寂しい時もあるけど、レグルス達やお父さんが居てくれるもん。
お母さんやお姉ちゃん達が、大事なお仕事してるの知ってるもん。
お母さん。私ね、頑張ってるお母さん達が大好き。
だから、私も頑張るよ!』
『ユナ…。ありがとう。私も、もっともっと頑張るわね』
『ん。一緒に頑張る! …ぁ、でも、無理はしちゃ駄目だからね?』
『フフ。ユナこそ、無理しちゃ駄目よ?
貴女は、まだまだ小さな子供なの。
私とラズの大切な愛娘で、フォーレ達三柱の女神の可愛い妹なの。
まだ暫くは、甘えん坊で居ても、誰も文句なんか言わないわ♪
いいえ。むしろ、どんどん甘えて欲しいの♪』
『…嫌にならない?』
『まあ! それを気にしていたの?』
『我儘ばっかりだと……嫌われちゃうよ?』
『フフ。そう。そうね、我儘ばかり言われたら、家族でもちょっと疲れちゃうかもね』
お母さんに我儘を推奨されて、ずっと不安だった、我慢の原因をポロリと溢してしまった。
うん。
私は、元々良い子ではない。
以前居た世界で、叶えられる事の無かった小さな我儘。
お母さんに甘えたい。お父さんに甘えたい。
それは、全て弟妹が与えられる物で、姉であった私に許される物ではなかった。
私の細やかな我儘は、「お姉ちゃんなんだもの大丈夫よね?」の一言で総て却下されていた。
“それでも”と強くねだると、困った顔をされたり、最悪な時は面倒だとハッキリ拒絶されていた。
あの頃の事を覚えている以上、私基準で大丈夫だとしても、少しでも『我儘かな…』と感じる言葉は、私の奥へと押し込めてしまっていた。
この世界に来て、私は少し我儘になった。
レグルス達やお父さん、お姉ちゃん達やお兄さんズと接して、お母さんに受け入れられて、漸く本来の私が顔を出し始めたのだと思う。
それでも、『家族に嫌われる』ことは、怖い。
嫌われるくらいなら、我慢する方がずっといい。
『でもね、ユナは我慢し過ぎよ?
ユナが言う我儘は、本当に些細な物ばかり。
そんな我儘なら、幾つ言われても、嫌いになんてなれないわ』
『でも…』
『誰かを傷付ける我儘や、何かを壊す我儘、最初から悪意を持って願った我儘じゃなければ、親は叶えてあげたいと思うのよ。
勿論、状況や立場、権威なんて大人の事情で、叶えられない事もあるわ。
それでも、ちょっとした小さな我儘なら、幾つだって叶えてあげたいと思うの。
だから、ユナはもっと我儘を言っても良いのよ』
私の不安を、お母さんはサラッと否定して、我儘を推奨してくれる。
私の家族は、本当に私に甘いなぁ。
お母さんが良いと言ってくれるなら、もう少し我儘言ってみようかな…。
誰かを、何かを傷付ける様な我儘は、私自身が言いたくない。
なら、一緒に居たいとか、行ってみたい場所に連れて行ってとか、難しいから教えてとか、そんな相手の時間を拘束する様な我儘から始めてみようかな。
うん。
今までも、そういう我儘なら、言葉にしなくても、叶えてくれていたと思うし。
気が緩んでたのか、自分からおねだりした事もあった気がする。
…というか、めちゃくちゃおねだりしてますね!
ぅわぁ…私ってば、クラウディアに来てから、大分我慢が下手になってるのかも。
ダメダメだぁ……。
『ん。分かった。今までも、そこまで我慢が出来てた気はしないけど、今度から怖がらないで言葉にしてみるね』
『ええ。そうしてくれたら嬉しいわ♪』
それから、明日の予定を話して、竜のすみかについて色々聞いて、気が付いたら大分時間がたってたみたい。
『……それ…で…───』
『ユナ、ユナ、眠いのでしょう? そろそろお休みなさいな』
『むぅ~、やだぁ~、まだ…お喋り……する………のぉ…────』
お母さんの声が遠退く。
まだ、お喋りしてたいよ。
あぁ、でも、睡魔の誘惑に勝てそうに無いなぁ。
もう少し、あとちょっとでいいから、お喋りしてたいのに…。
*~*~*~*~*
夢の中、お母さんやお姉ちゃん達、家族皆が揃った団欒。
私は、幸せな時間を享受する───
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─ラズヴェルト視点─
明日の準備を済ませ、寝室へ戻ったら、妻の姿を模した女神像の前、可愛い末娘が床に突っ伏して眠っていた。
「おや、また話の途中で、寝ちゃいましたか」
最近、寂しさ故か、ユナは眠気に勝てなくなるまで話し続けてしまう。
毎日の報告でしか、母親を感じられないのは、3歳児には寂しいだろうな。
小さく軽い娘を抱き上げ、ベッドへと運ぶ。
早くも、これが日課になりつつあるのが、嬉しくも情けなくもある。
『ラズ、ラズ。聞こえますか?』
眠る愛娘の顔を眺めて、感慨にふけっていたら、女神像から愛しい妻の声が届く。
『聞こえているよ、シア。ユナはまた寝てしまったみたいだね』
『ええ。大分寂しがらせてしまっているわよね…。
母親として、腑甲斐無いばかりだわ』
『あまり落ち込まないで。私こそ腑甲斐無いのだから』
この世界の【管理者】であるフェリシアには、制約がある。
無理をすれば、世界が崩壊しかねない以上、仕方がない。
それよりも、制約の少ない私こそ、娘の力になれるはずなのに…。
可愛い妹を寂しがらせ、愛しい妻を落ち込ませている。
本当に腑甲斐無い。
『……さて、ユナから聞いたかい? 明日は───』
落ち込んでいても、何も始まらないし、進まない。
気持ちを立て直し、愛しい妻との会話に集中する事にしましょう。
声のやり取りだけとはいえ、愛しい妻との逢瀬は、私の最大の癒しなのですから。
明日の予定を考えると、夜更かしは大敵ですが、出来るだけ──許される範囲で──繋がって居たいものです。
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