ひなたぼっこは、睡魔の落とし穴。うっかり気を抜くと、コロッと落ちます。
『このままでは、風邪を引くな』
『掛ける物を用意しましょう』
『なら、僕が貰ってくるよ~♪』
意識の外で、レグルス達の声がします。
あれ?
私…寝てますか…?
む~~~。
………ん?
とん、とん、とん、とん。
お腹の上を、優しく撫でる様なリズムで叩かれてます?
なんだかホッとしますねぇ。
あ~~~。
睡魔が……睡…魔…が…………。
*~*~*~*~*
眠気に負けて、暫し記憶が抜け落ちて、次に気が付いたのは、お兄さんズの声がきっかけだった。
「せいっ!」「やっ!」
「遅い遅い! この場合は、受け流して反撃。受け止めるなら、剣技だけじゃなく、魔法も使う!」
「………流れが止まって、型が崩れとるな。ルトの剣に良く似てる分、兄さん達はまだまだ粗が目立つ」
お兄さんズの掛け声に、剣と剣がぶつかる音。
お父さんの指導と、お爺ちゃんの呟き。
近くには、私のよりもゆっくりな呼吸音。
「うにゅ…」
『起きたか、ユナ』
『『おはよう(ございます)ユナ』』
「ん。おはよ~、レグルしゅ、ちリウしゅ、アりゅタイゆ」
目を擦りつつ、状況を把握します。
上半身を起こしてみれば、お腹の上には柔らかくて軽いブランケット。
振り返れば、さっきまで頭のあっただろう位置に、枕代わりのクッション。
顔を戻すと、一面の空。
視線を下へ落とすと、直ぐ下で稽古中らしきお父さんとお兄さんズ。
私の左には、お爺ちゃんが座って稽古を眺め、右隣では、ヒュー様がいまだにお昼寝中。
ヒュー様の向こうに、ルクレヒト様が座ってて、やっぱり稽古を眺めてます。
レグルス達は、枕にしてたクッションの向こう。
小さくなったまま、皆一緒にお団子状態。
レグルスとシリウスは、お互いの背中? 腰? を枕にしてて、アルタイルは二人に挟まる様に潜り込んでます。
この体勢、大きい時にもやってますね。
私もアルタイルの隣に潜り込んで寝たりします。
もっふもふで、ふかふかで、温かい。
良い感じなんですよ♪
って、そうでなく!
え~と、え~と、ぁ、そうだ!
そうそう。
お爺ちゃんの昔話を聞きながらおやつを食べて。
お兄さんズが腹ごなしに稽古を始めて。
それをお爺ちゃんやヒュー様、ルクレヒト様と縁側で日向ぼっこをしながら眺めて。
………。
ここで記憶が途切れてますね。
たぶん寝落ちたんだと思います。
途中、意識が浮上した気もしますが、完全にお昼寝してましたね。
「ねちゃってた……えへへ」
自分の行動を思い返して、なんとも言えず気恥ずかしい思いから、へにょっと笑っておきます。
そんな私を見て、お爺ちゃんも優しく笑って、頭を撫でてくれました。
「子供は良く寝て、良く遊び、良く学ぶのが仕事だ。ユナもヒューも、ちゃんと出来てる。偉いな」
「ん~、じゃあ、わたち、こんどはおべんきょうしゅる!」
誉められたのが、遊んだこととお昼寝したことじゃ、ちょっと気まずい。
なので、お勉強もちゃんとしましょう!
「ん? 勉強?」
「ぁい。おじぃちゃん、やくしょうのごほんがあったら、かしてくだしゃい」
「ん? 薬草の本か? あるにはあるが、難しいのが多いぞ?」
「よいの~♪ むじゅかしくても、おかぁさんやおねぇたんたちにおしえてもらったのを、かくにんしゅるのよ」
「なんだ? もう、教わってるのか?」
「ぁい。オルねぇねがくわちいの!」
フォルお姉ちゃんには、薬草から毒草、茸や苔まで、色んな植物の利用法を教えてもらってます。
実地調査を兼ねたピクニックは、お姉ちゃんが帰ってきた時の必須行事みたいになってます。
遊び半分、勉強半分で過ごすので、楽しく覚えられて助かってます。
動物や魔物、魔獣や素材に詳しいのは、ラル姉さん。
鉱石や宝石、水晶や結晶なんかは、ベル姉様が適任。
世界で起こる色んな事象は、お母さんが物語に交えて教えてくれます。
お父さんからは、体術をちょこっと。
まだ小さいので、体術は本格的にはやっちゃ駄目なんだって。
身体が出来てないから、本格的に体術を学ぶと、負担が掛かりすぎるし、成長にも影響するかららしいです。
でも、お父さんも過保護気味なので、ホントのところはどうなんだろう?
「どれ、ちょっと待ってな。持ってきてやろう」
お爺ちゃんが立ち上がり、奥の部屋へと消えて行きます。
戻ってきたお爺ちゃんの腕には、5冊程の本。
薄いのから分厚いのまで、色々あります。
「この分厚いのが、薬草図鑑だ。一番新しい奴だが、発行元が人族の偉い奴らしくて、幾つか取りこぼしがある。
まぁ、竜の棲みかや切り立った岩壁、底の見えぬ谷底と、発芽条件の厳しい物だから、人族だと知らぬのかもな」
「エルフだとしってるの?」
「ははは。我等エルフは、人族よりも魔法に長ける者が多いからな。
人族だと行けぬ場所でも、魔法を使って赴く事が出来るし、長く生きる我等故に、薬効の研究も進む。
薬草に詳しくなるのも、道理だろう」
「そっかぁ。わたしがみても、だいじょぉぶ?」
「良い良い。ユナは、私の曾孫みたいなもんだ。どれ、爺ちゃんと図鑑を見よう。ほれ、ここにおいで」
こいこいと手招きされたので、大人しく従います。
では、お邪魔しましょう♪ よいしょっと。
胡座をかいたお爺ちゃんの足の間に座ります。
後ろから抱き込まれる形で、お爺ちゃんお膝で図鑑を見ます。
手書きのそれは、紙の上半分に大きく図解されていて、薬効や分布地、採取方法や栽培方法が下半分に細かく書かれています。
さて、お勉強しましょうか♪