閑話・また会えた。思い出は鮮やかに、悪友は死して尚、俺を笑わせる。
明けましておめでとう御座います。
新年最初の投稿です。
スミマセン。
今年も、キャラクターに乗っ取られました。
去年は大丈夫だったのに…。
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─【エル・ディオン・ロッソ】村長・ベリウス視点─
長いエルフ生に於いて、こんなにも嬉しかった事は、初めてだ。
また、アイツに会えた。
いや、正確には違うが、アイツに良く似た、懐かしい雰囲気の孫息子は、私の──俺の隣で笑ってる。
なぁ、悪友?
お前との連絡が途絶え、諦めていた俺に、こんな嬉しい驚きを遺してあるなんて……もっと早く教えておけよ!
人が悪いにも程があるだろう!
*~*~*~*~*
アイツに出会ったのは、村長として結界の維持をし続ける事に飽きていた頃だった。
村長の役割とは、結界を維持し同胞の『平穏な日常』を守護するというものだ。
確かに責任の重い大切な仕事なのだが、魔力操作に長けた者にとって結界維持は、実は割りと簡単なものだったりする。
責任の重さを無視すれば、片手間にこなせる仕事なのだ。
………そりゃぁ、飽きるだろ………。
歴代の村長達の中にも、役目に飽きて弾けた奴が、何人もいたらしい。
その為、先代や先々代が存命であれば、多少の融通は利く。
一時的にではあるが、村長の役目から離れる事が可能なのだ。
なので、この時の俺は、村の外へ出ていた。
*~*~*~*~*
「ぅわあああぁぁぁぁぁっ。に、逃げろっ! ワイバーンだ! ワイバーンの群れがっ!」
「きゃあああぁぁぁぁぁっ」「ぎゃあああぁぁぁぁぁっ」
「誰か助け─」「子供がっ! うちの子が居ないのっ!」
「逃げろっ!」「どこにだよ!?」「知るか!」
立ち寄った小さな町は、物見台からもたらされた情報に、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
慌てて町を出ようとする者、自宅へと駆け込み財産を持ち出そうとする者、家族を探し右往左往する者と、多種多様の統制の無い動きに、俺は呆気に執られていた。
エルフの村では、緊急時の動きは決められていて、ここまでの騒ぎに発展する事態は、なかなか無い。
その為、自分の行動を決めかねたのだ。
アイツに気が付いたのは、そんな時だった。
混乱が支配する町中にあって、アイツの行動は異質だった。
焦るでも無く、急ぐでも無く、ただ物見台へと向かって行く。
その行動に興味を引かれ、つい目が追ってしまった。
本来なら、他の者達と同様に、逃げるのが正解だろう。
一体でも脅威であるワイバーンが、群れで近付いて来ているのだ、逃げ場が無くとも、出来る限り逃げたいと思うのが当然だ。
だが、アイツの落ち着き払った行動が、俺の琴線に触れていた。
───何か面白い事が起きる。
俺は、本能的にアイツの背中を追って走っていた。
「おいっ! 何をする気だ!」
綺麗な長い銀髪を揺らす背に、咄嗟に声を掛けながら。
*~*~*~*~*
「空飛ぶ蜥蜴風情が、調子に乗るものではありません。其処に直りなさい。身の程を弁えさせて差し上げます」
アイツはワイバーンを見据えて、ぼそりと呟いた。
背後の俺を無視したままで。
物見台にたったアイツは、威圧のみでワイバーンの群れを墜落させた。
威圧に当てられ、次々と落ちるワイバーンに、俺は呆然とした。
いや、おかしいだろ!
ワイバーンの群れだぞ!?
一般的には、災害級として知られる魔物だぞ!?
魔獣化していないとはいえ、ただ横切るだけで風害を振り撒くワイバーンの群れを、威圧で黙らせるって………。
「ん? どなたですか?」
沈黙したワイバーンの群れを、何事も無かったかの様に視界から外し、振り返って初めて俺に気付いたらしく、アイツは不思議そうに俺を見た。
アイツは、正面から見たら、とんでもなく整った顔立ちをしていた。
美醜の基準が人族のものとは違うらしい俺からしても、綺麗だと思える面立ちなのだ。
人族であれば、『言葉を失う美しさ』なのではないだろうか…。
「ぁ、すまん。俺はベリウス。旅人だ。あんたが何をするのか気になって…」
「あぁ、そうでしたか。私はルトヴィアスと申します。駆け出しの冒険者ですよ」
「は!? 駆け出し? ベテランじゃ無く?」
「? えぇ。先日ライセンスを取得したばかりです」
「………マジ…か………っ、有り得ねぇぇぇっ!」
*~*~*~*~*
アイツ──ルトヴィアスは、どこか浮世離れしていて、話してみると、とんでもなく面白かった。
村長なんて引きこもりをやってる俺ですら知ってる常識を、ルトヴィアスは軽々と飛び越え、非常識さえ混ぜっ返して、常識と差し替えた。
ドラゴンの棲みかに「鱗を採取しに行く」と言うので同行すれば、そこの若長──勿論、ドラゴンだ──に喧嘩を売られて、返り討ちどころか、ボッコボコのタコ殴りの末、他のドラゴン達に怯えられたり。(鱗は当然の様に、いつの間にか採取していた)
緊急依頼の特殊な薬草採取の途中、群生地で暴れていたガキども──後で自称魔王と自称勇者だったと判明した──を無手で無力化し、簀巻きにして、冒険者組合に「貴重薬草の群生地荒らしだ」と突き出したり。(採取依頼は何事も無かったかの様に完了させてた)
“駆け出し”って言葉の意味を、再確認したくなるような行動ばかりが重なり、気が付いた時には、ルトは高位冒険者と成っていて、俺まで冒険者登録させられ、様々な面倒事に巻き込まれていた。
後から思えば、駆け出しの冒険者は、ドラゴンの棲みかになんか行かない──正確には『行けない』──し、貴重な薬草の採取なんて難しい依頼は受けない──というより、組合が許さない──はずだ。
なのに、ルトだと『それが当然』だと思えて、当時は疑問にすら思わず、仕事に付き合っていた。
*~*~*~*~*
お互いがお互いを親友──いや、悪友だと認識し、好き勝手に思うがまま冒険者を楽しみ、やがて別れの時が来た。
「そろそろ村に戻らんと…」
「そうですね。私も最愛の女性の元へと帰ります」
「ブフッ。あぁ、お前のベタ惚れ相手な。いつかは、会わせろよ?
お前の爆笑武勇伝を披露してやるから。ククッ」
「御免被ります。彼女に会わせて、万が一にも惚れられては困りますし。
貴方と本気で殺しあいをするのは、疲れそうですしね」
「なんだよ、その子は惚れっぽいのか?」
「阿保ですか? 惚れるのは、貴方が彼女にですよ。
相思相愛の私達に、貴方が横恋慕するのが困ると言っているのです」
「…ぁ、そう。まぁ、好きに言ってろ。お互い連絡くらいは取り合おうぜ?
俺としちゃ、お前の近況が気になるし♪」
「…まぁ、良いでしょう。連絡くらいはして差し上げますよ」
エルフと人、生きる時間の長さが違う。
俺にとっての一瞬も、ルトにとっては数年だ。
別れれば、再び出会える可能性は、皆無に近い。
けれど、何故だろう。
多少の寂しさはあれども、哀しみは感じない。
理由も無いのに、確信だけが強く在る。
──ルトとは、必ずまた会える。
俺達は、別れた後も、ルトからの連絡が途絶えるまで、お互いがお互いを悪友だと笑いあえた。
連絡が途絶え、十数年が過ぎた頃、ルトの死を疑い調べた。
ルトの出身である隠れ郷は、エルフの村よりも厳重に隠蔽されているらしく、結果としては『ルトの生死は不明』だった。
そして、数十年の時が流れる───
*~*~*~*~*
ルト。お前も、やはり死んでしまったのだな。
お前の死は、俺にとてつもない衝撃を与えたぞ。
それと同時に、お前に良く似た孫息子なんていう、驚きと喜びを用意しているなんぞ、まったくお前らしいな。
お前を思い出して泣くことすら許さないとは、我が悪友は実に人が悪い。
だが、そうだな。
お前を思い出すのなら、泣くより笑っていたいと思うよ。
お前の事だ、今頃あの世で、俺の驚きと喜びを肴に、孫息子と良く似た悪戯者の笑顔で、楽しく酒盛りでもしてそうだ。
ならば、俺も笑っててやろう。
悪友に良く似た孫息子と一緒に。
孫息子もきっと、俺を笑わせてくれるだろうから。
いずれ、また会える時を楽しみに、俺も笑って生きてやる。
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微妙にシリアス…かな?
いえいえ、エルフのお爺ちゃんは、お茶目さんのはず…。
まぁ、何はともあれ。
今年も宜しくお願い致します。