挨拶は元気に! 新しいお友達…じゃなくて、家族? が出来ました。
「こぉ~ん~にぃ~ちぃ~はぁ~」
「村長殿ぉ~約束通りぃ~遊びに来たぞぉ~!」
結界の一歩手前。
エルフさん達が教えてくれた目印の樹に触れて、ヒュー様と2人で大きな声で呼び掛けます。
今日は、昨日の騒動の謝罪と、迷子だった私達を保護してくれた事への御礼、お兄さんズとの合流前に仲良くなった村長さんとの約束を守る為に、保護者同伴でエルフの村に訪問します。
エルフの村【エル・ディオン・ロッソ】に行くためには、幾つかの約束事を守らなきゃいけません。
ひとつ、通信樹を通して村長の許可を得ること。
ひとつ、エルフである村人の誰かの案内を受けること。
ひとつ、友好の証・魔道具【種族を越えし絆】を所持した者が同伴していること。
この3つを守らないと、村へは辿り着けないし、下手をすれば廃人になっちゃうんだって。
こ、怖いぃぃぃ~~~。
廃人になんて、誰にもなってほしくないし、私だってなりたくない!
なので、良い子で約束を守って訪問します。
「おじぃちゃん、きこえたかなぁ」
「ユナ、ベリウス殿は御老体ではないだろ!? お爺ちゃんて……」
「う? おじぃちゃんが、そうよんでって、いってたよ?」
元気に呼び掛けた後、案内役のエルフさんを待ってる間に、ちょっと不安になって呟いたら、クリスお兄ちゃんに突っ込まれた。
でも、「おじぃちゃん」呼びは、村長さんからのリクエストなんだけどなぁ。
駄目? 駄目かな?
「………まぁ、当人のリクエストなら、いんじゃね?」
「………そうだね。気にしたら負けな気がする………」
エディ兄さんがちょっと遠い目をして、結論を出してました。
クリスお兄ちゃんも納得したみたいなので、呼び方はこのままで良いみたい。
良かった~♪
*~*~*~*~*
「!? そなた! ルト!? ルトではないか! 生きていたのか!」
案内役のお兄さんと一緒に村に到着した直後、村長さんの絶叫が聞こえた。
………。
村長さんが指差す先を辿ったら、そこに居たのはお父さん。
驚愕する村長さんとは違い、いつも通りニコニコ穏やかなお父さん。
「おとぉしゃん? おじぃちゃんと、ちりあい?」
「いや、初めてですよ。ふふ。はじめまして、村長殿?
私は、ラズヴェルト・オーリシェンと申します。
この度は、娘達がお世話になった上、村を騒がせたと聞き、謝罪と礼をと参りました」
私の疑問にサクッと応え、すんなりと自己紹介及び、本日の目的を伝えてます。
お父さん、動じてませんね。
「!? …人違いか? いや、面差しはルトそのものだ……。
ふむ。だが、色は…違うか……。ん?
そなた、今、オーリシェンと申したか?」
「はい。村長殿が仰った“ルト”というのが人名で、その方が私と似ているのであれば、ルトヴィアス・オーリシェン……私の曾祖父かと」
「なんと!? そなた、ルトの曾孫か!」
曾孫?
お父さんは、お母さんと同じ【管理者】さんだよね?
神様に、曾祖父ちゃんが居るの?
『ユナ、ラズヴェルト様の仰った“曾祖父”は、ラズヴェルト様本人だ。
以前に使用していた“転移体”の事だ』
『ユナは、フェリシア様から聞きませんでしたか? “転移体”には寿命があると』
『“転移体”の寿命が尽きると、クラウディアで死を迎えた事になるんだよ~。
ラズヴェルト様は、数十年から数百年毎に“転移体”を変えてるって、前に言ってた~』
頭を疑問でいっぱいにしてたら、レグルス達が念話で教えてくれました。
成る程。納得です!
それだと、同一人物でも、肯定は出来ませんもんね。
でも、なんだか不思議です。
つまり、お父さんは、記憶を持ったまま、クラウディアで転生を繰り返している様な状態……なんですよね?
「はい。エルフの村【エル・ディオン・ロッソ】については、曾祖父の残した日記で知っています。
それと、もし訪れる機会があればと、こちらの返却をとも書かれていました。
近くに越してきたというのに、挨拶が遅れ、申し訳ない」
お父さんが、魔道具【種族を越えた絆】を村長さんに手渡します。
私とヒュー様、リムが貰った物よりも、ちょっと古い物。
多分、お父さんが前の“転移体”を使っていた頃に貰った物。
「あっはっは。気にするな。このリシャの森に暮らすのならば、誰もが善き友として平等。挨拶の有る無し程度、誰も気にせん。気にせん。
そうだな、ルトと会わなくなって数十年……人族であるルトが生きて居る訳が無い。
騒がせて、すまなかった」
魔道具を受け取り、ほんの少し寂しそうに笑って、村長さんは懐かしそうに、幸せそうにお父さんを見つめています。
「……私が生まれるよりも、大分前に亡くなったと聞かされています。
私自身は顔も知りません。
ですが、郷の者達から、私は曾祖父に面差しだけでなく、中身まで似たと、よく言われて育ちましたよ。
祖父母や両親も、幼い頃に亡くしましたから、曾祖父の日記は、私にとって数少ない家族の縁で、そこに書かれた貴方とのやり取りは、楽しくて何度も読み返していました」
「そうか、そうか。ラズヴェルトと言ったな?
これは、そなたが持っておれ。懐かしい悪友の曾孫だ、そなたもまた、我が友。
いつでも、遊びに来るが良い」
村長さんは、一度受け取った魔道具を、お父さんへと再び贈ります。
一瞬驚いたお父さんが、嬉しそうに受け取り、大切に布に包んで懐にしまいました。
「…有難うございます。娘や弟子達を連れて、遠慮無く伺わせていただきます」
「ははは。堅いなぁ。ルトもそうだったが、そなたも堅い!
こんな爺に、畏まらずとも良いだろうに。なぁ、ユナ。
爺ちゃんも家族に入れてくれ。
ははは。これで、悪友そっくりの曾孫と、可愛い玄孫が出来た♪
いつでも、遊びに来い! 絶対だ!」
私をお膝に抱き抱え、村長さんが幸せそうに笑ってます。
お父さんも、やんだか楽しそう♪
今度は、お母さんやお姉ちゃん達も一緒がいいなぁ。
取り敢えず、新しい家族? が、増えました!