閑話・長いエルフ生においても、物語より奇なる出来事は、稀である。
スミマセン。
またもや閑話です。
クリスくん達と出会った、エルフ側の事情?
彼等が投降した理由は…。
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─見廻り隊(狩人組)・副隊長キエフ視点─
この地に生まれ、早くも200と57年。
エルフとしては若輩だが、多少なりとも世界の理を理解し始めた今日この頃。
あと500年程はあるだろう寿命を思えば、単調な日常は退屈この上無い。
だが、その日は、驚きの連続だった。
人族の間には、『人生とは、物語よりも奇妙である』などという言葉があるらしい。
私は、その日、その言葉を何度も思い出した。
人族以上に長い我々の生にも、物語よりも奇妙な出来事は、起こりうるのだなと、現実逃避に走る私を、諫める者は1人として居なかった。
*~*~*~*~*
午前中は、いつもと同じ変わらない1日。
昼飯を食べ、午後の仕事として、再び狩りへと向かう準備中に、最初の驚愕はあった。
キィィィィィ─────ッッッッッン。
ジジジジジジジ───。
「っ!? 警鐘だと!?」
頭の中に酷く耳障りな音が響き渡り、村中を覆う結界に、何者かの干渉があったことが分かった。
我らの村の結界は、数千年前に在った偉大な魔法使いによって、各々種類の違う結界を三重に張り、互いに干渉させ、強化してあるらしい。
魔法使いの死後も、結界を維持する為に、村長には魔力の扱いに長けた者が選ばれる。
今の村長は、歴代の中でも、魔力量・魔力操作に優れる方で、結界は彼の方が村長になってから、一度として揺らいだ事すら無かったのだ。
それなのに……。
結界は、我々エルフの血に反応する。
警鐘が鳴るのは、血を持たぬ余所者が結界に干渉した場合か、何か特殊な原因によって結界に不備が起きた場合だけだ。
今回は多分、結界の何処かに、ある程度大きな綻びが出来たのだろう。
警鐘も血に干渉し、頭に直接響く様になっている。
村中の同族は例外無く受け取っているはずだが、余所者には何も聞こえない。
同族だけを選別し、危険を報せてくれるのだ。
「エリル! 私は長の元へと向かう。お前は妹と共に緊急避難場所へと向かえ!」
私は妻へと指示を飛ばし、急ぎ村長の元へと向かった。
*~*~*~*~*
「長! この警鐘は、いったい!?」
2度目の驚愕は、村長の家へと飛び込んだ直後。
先に来ていたオルバ様が答えてくださった事態に。
「……キエフ。三重に張り巡らされた結界が、全て突破された様だ」
「な!? 全てですか!?」
外側1枚程度かと思っていたのに…。
結界は、外側から、排除・迷走・幻惑の三段階。
1枚目に触れれば、弾かれたと気付かれる前に、進行方向が反転されている。(気付けば結界の外に居る状態)
1枚目を突破出来ても、2枚目に触れれば、方向感覚に干渉され、村の周りを際限無く歩き続ける事になる。(道無き道を行く大迷路の探索人状態)
更に、3枚目は最悪で、無理矢理突破しようとすれば、脳内物質に干渉し、常時幻惑の世界に囚われる廃人と化す。(麻薬中毒者か精神異常者状態)
まぁ、3枚目の場合は、触れただけならば、多少の恐怖を味わうだけで済むのだが…。(触れたものの心的外傷を呼び起こす)
「何か偶然が重なったか……或いは、何者かが故意に侵入したか……どちらにしても、今現在、結界の一部が無効化し、穴の空いた状態らしい」
無効化されたというなら、相応の能力者が、村に無傷で入り込んでいるかも知れん。
それが害意ある者であるなら、この穏やかな村が壊滅する可能性があるのだ。
答えてくださった隊長も、私達のやり取りを静かに聞いていた村長も、それを危惧しているのだろう、難しい顔をしていた。
「可及的速やかに、住民の保護と状況の把握が必要だ。私は、急ぎ結界を紡ぎ直す。
狩人組で、見廻り隊を結成し、索敵にあたってくれ。
戦士組には、危急時の守りの要になって貰わねばならん。
狩人組の編成は、オルバ、そなたに任せる。頼むぞ」
「はっ!」
隊長は返事と共に行動を開始する。
私も村長へと略式の挨拶をして、隊長の後を追った。
*~*~*~*~*
4組に別れ、四方散開して結界内部に当たる場所を索敵する。
魔力の気配を探れば、思いの外あちこちに散っている様だが、複数の強い魔力を感知した。
大きなものの幾つかは、あちこちを移動している?
速すぎて感知が追い付かないが、残滓の様なものは確認できた。
取り敢えず、動きが鈍く、複数が重なる場所が、大小2ヵ所。
そちらを優先して確認するべきだろう。
小さな魔力でも、複数が重なっていると、単体よりも厄介な場合がある。
大きい方は結界内部、小さい方は結界の外ギリギリの位置に確認したので、魔力の大きい方には隊長達が、小さい方には私達が向かう。
私達が見付けた魔力は、他の大きなものと比べれば、微々たるものの集合体だったのだが、どうやら3人ほどの人族の様だった。
「───子供…か?」
私の呟きは、風が葉を揺らす音に掻き消された。
いや、それで正解だ。
気配を気取られる失態など、起こす訳にはいかん。
一瞬、気が緩みかけたが、森中に拡がるピリピリとした空気に、改めて警戒を強めた。
前方に居るのは、まだ身体が出来上がってはいなくとも、人族としては成人している可能性のある大きさの3人組だ。
我々エルフは、他種族とは成長のし方が違うらしく、判断は難しいが、前方に居る3人の人影が、結界の外とは言え、ギリギリの位置に居る以上、彼等が敵で無いという確証が必要だ。
まぁ、この辺りの結界に穴は見当たらないのだが…。
穴が空いた影響か、揺らぎが大きく、本来の役割は1割から3割程度しか果たされていない様だ。
結界の外での狩りが我等の本職。
確証が無い状態だ、警戒は解けない。
威嚇で確認させてもらおう。
敵意が無ければ、逃げ出すだろう。
一応、戦闘に移行した場合を考え、二手に別れて前後を押さえる。
そうして矢を射かけた次の瞬間、3度目の驚愕が待っていた。
!? 叩き落とした!?
我々を認識している!?
─っ!? 強い! 制御に長けた者だったか!
だが、我々であれば、勝機はある。
子供の様に見えた人族の殺気に、臨戦態勢をとろうとした途端、4度目の驚愕に襲われる事になる。
「ふ、副隊長! 巨大な魔力が!」
部下の焦った様な忠告に、魔力感知を行えば、圧倒的な魔力の塊が、物凄い速度で我々に迫っていた。
いや、既に三方から包囲されている。
魔力のあまりの大きさに、私達は既に戦意を失っていた。
なんだ…この巨大な魔力は……。
こんなモノが敵に回れば、我々どころか、村の全てが消えて無くなる…。
これに逆らってはならない。
私達は、敵意の無い事を示すために、急ぎ武器を下ろす。
まずは、先程の威嚇を謝罪せねば始まらんだろうな…。
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はい。
クリスくん達の後ろに、彼等が居ます。(笑)
中央にクリスくん達、その前後にエルフさん達。
そして…それをまるごと包囲する契約獣の皆さんです。
σ( ̄∇ ̄;)