エルフの村にお邪魔します。お兄さんズはどうしてるかなぁ…。
漸くの穴埋め投稿です。
………。
リムが結界をぶち破ったせいで、エルフの村が脅威に晒されてます。
いや、脅威っていうか、危険? かな?
「───と、まぁ、結界は魔獣や害意ある者を退ける効果のある物だったからな。
それが破られた今は、ちょっと警戒が厳しくなってるんだ」
「まぁ、これは言い訳にしかならないし、矢を射かけた事実は変わらん。
本当に悪か───ッ! 痛ぇぇぇっ!」
話を蒸し返しそうになったおじ様の1人が、問答無用で拳骨を落とされました。
………ガヅンって鳴った…。
凄い痛そう…。大丈夫かな?
舌噛んだりしてない?
「蒸し返したら、鉄拳制裁……だったよな?」
「……いや、言い出したのは俺だが、本当に問答無用だったな。
ユナが怯えるから、もう少し軽くて良い。
そっちのおじさんは、大丈夫か? 凄い音がしたが…」
私がオロオロしてたら、拳骨を落としたリーダーさんとヒュー様が、サクサク話をまとめてました。
おじ様達ときちんとお話ししてみれば、緊急時の最大警戒体制である村付近に、子供とは言え見知らぬ人族──人化している為、リムも人族に見えた──が居たのだ、威嚇射撃くらい当然だろう。
矢が射掛けられた時も、殺気は無かった──説明を聞いて、リムが納得してました──らしいです。
「むらは、だいじょぉぶ?」
「ああ。大きな危険は無い。結界も、破られたとは言え、消滅した訳では無い。
あと半刻もすれば、修復出来る。
修復さえ終われば、警戒体制も解除され、普段通りだ」
普段は、殺伐とした雰囲気は欠片も無く、のんびりほのぼのとした空気の村なんだそう。
取り敢えず、私達の事情──絶賛迷子中──を聞いて、村に招待してくれる事になりました。
村の近くで遊んでいたのならば、他の見廻り組みと接触している可能性があるらしく、運が良ければ、お兄さんズやルクレヒト様も、村に来てるかも知れないとの事でしたので。
お言葉に甘えます。
*~*~*~*~*
エルフの村は、ツリーハウスの集合形態でした。
巨大な大樹を根幹にして、その太い枝の一本毎に、一軒のログハウスがあります。
巨木の根元には、かなり大きめの虚らしきものがあるのに、枝上に何軒も家を抱えて、揺らぐことの無い巨大樹に、私達は圧倒されました。
「「「すごい〈のぉ〉…」」」
「ようこそ。我らの村、【エル・ディオン・ロッソ】へ」
◆◇─◆◇◆─◇◆
~その頃、お兄さんズは…~
「「ユナ~」」「ヒュー…何処に…」
森に佇む3人の人影。
エディ、クリスは、今にも泣き出しそうな情けない顔をして、実妹の如く可愛がっている3歳児の名を呼ぶ。
ルクレヒトは、従兄弟である義弟…いや、実弟と言っても過言ではない可愛い弟の居場所を求め、不安げに空を仰ぐ。
彼等は、あちこちを駆け回り、姿が見えなくなった3人の子供達を探していた。
魔道具は既に解除し、不規則な軌道からは解放されている。
契約獣達も、今は散り散りに分かれ、子供達を探しているはずだ。
彼等が3人で固まっているのは、安全面と精神面の問題である。
いくら、穏やかなリシャの森とは言え、契約獣達程の強者ならば兎も角、一般人と変わらないルクレヒトを、1人にする訳にはいかない。
冒険者であるエディやクリスも、個人行動に出れば、余計な手間が増える──お互いの位置確認や意思疎通の不備など──可能性がある。
その上、彼等は『妹・弟馬鹿な自分』を自覚していた。
弟妹の無事が確認出来ない今、焦りから判断ミスを起こす可能性を、否定できなかった。
その為、人族は固まったまま動き、契約獣達に率先して探して貰っている状態になったのだ。
「あ~くそっ! 目を離すんじゃなかった!」
「ユナ…無事かなぁ。怪我とかしてないかな…。1人で泣いてたり………」
「…ヒュー。せめて、3人一緒なら良いのですが…」
兄達3人が、リムを心配していないのは、彼女がドラゴンである以上、当然である。
だが、姿が見えなくなった時、子供達3人が一緒にいたかは確認出来ていなかった為、多少心配してはいる。
主に、弟妹が彼女の破天荒に巻き込まれるかも…といった方向ではあるが。
そんな3人の元にも、エルフの威嚇行為が迫っていた。
「「!? ルゥ! 動くなっ!」」
───カッ。トスッ。
何かに気付き、突然叫んだエディとクリスが、ルクレヒトを隠す様に、前後に移動している。
ルクレヒトの前に出たエディは、短剣を手に前を真っ直ぐ睨み付けていた。
背後に回ったクリスも、利き手に短剣を握って、辺りを警戒している。
何が起こったかと言えば、ルクレヒト目掛けて、多少ずらした位置に、矢が射掛けられたのだ。
それを、矢の軌道上に身体を捩じ込み、エディが短剣で叩き落とした。
軌道を逸らされた矢は、弾かれたままに、大地に深々と突き刺さった。
「出て来いや! 居場所は既に把握してるぞ」
「隠れて居ても無意味ですよ。僕達に喧嘩を売るなら、死ぬ気で来なさい。
僕は今、とても気が立っているんです。
威嚇とは言え、友人を狙うのならば、己の命で償って貰います。覚悟は良いな?」
「───っ!?」
背後から膨れ上がる殺気に宛てられ、ルクレヒトが震え出す。
一般人である彼が、これ程の殺気を身近に感じることなど、そうあることではない。
自分に向けられたモノではなくとも、恐怖を感じるのは当たり前だろう。
林立する木立の蔭から、現れたのはエルフの男性達だ。
5人程が姿を現したが、皆両手を上に上げ、無抵抗を身体で示した。
武装は各々解除している様だ。
剣は鞘に収めたまま利き手で持っているし、弓は弦を弛めてある。
「さ、殺気を収めてくれ。我々は、もう何もしない。
威嚇した理由を話す。謝罪を受け入れろとは言わん。
話しだけでも、聞いてはくれまいか?」
クリスの脅しに屈する形で、エルフの男達は交渉を試みるのであった。
◆◇─◆◇◆─◇◆
クリスくん、暴走する。の回でした。
クリスくんの殺気に、敵対でなく交渉を選んだのは、エルフの皆さん側に事情があります。
その説明は、また次の回で。