おはようございます! 新しい朝です。
─チチチチッ─チチッ─ピュイッ─
───ピュイッ─ピチチッ─ピィ──
遠くで鳥の声が聞こえる。
暖かくてやわらかな光が、瞼を刺激して覚醒を促します。
重い瞼を押し上げ、再び閉じそうになるのを、擦ることで回避する。
朝の光が天蓋から下がる薄布に遮られ、やわらかな明るさが部屋に満ていた。
上体を起こして、ベッドの端へと移動します。
薄布を開けて最初に目にしたのは、チェストの上の花を模したランプと、その横にある若草色のクッションに埋もれた小鳥が入った籠。
視線を落とせば、小鳥と同じ様にクッションに埋もれている子犬と子猫が、それぞれの籠から顔を上げてこちらを見ていた。
……………。
「おはようごじゃいます……」
(ぁ、噛んじゃった…)
『お早う御座います』
『遅よう』
シリウスは挨拶を返してくれたけど、レグルスが返してくれた返事に、ふと疑問が湧く。
「にぃ。レグルしゅ、今にゃんじ?」
『朝の8刻(午前8時)だ。先程、火の鐘が鳴った。』
「にょあっ! ねしゅごしたぁ~」
レグルスが告げた時間に、一気に眼が覚めた。
今日は、街まで出掛ける予定だったから、午前中の早い内に、【無限収納】の整理とカスタマイズするつもりでいたのに!
──って、それはそれとして。さっきから、噛み噛みだ。
寝起きで舌がまわらない…。
流石3歳児。舌足らずだね。
「早くじゅんびして、朝ごはんにしよう!
あ、その前に、おかあさんに朝のあいさつ!」
わたわたと焦りつつも、やることの順番を決める。
まずは、朝のご挨拶。
それから、身仕度を整えて、朝ご飯の準備。
ご飯を食べたら、【無限収納】を整理して、時間を見てから出掛けましょう!
お昼過ぎてたら、ご飯を食べてからじゃないと、3歳児の体には少々キツイからね。
昇降台を使って、よたよたとベッドから降りて、揺り椅子の傍のサイドテーブルへと向かいます。
その上にある、昨夜設置した【女神像】の前に立ち、両手を組んで祈りの姿勢をとった。
*~*~*~*~*
『お早う御座います! お母さん、聞こえる?』
『お早う、結愛。ちゃんと眠れた?』
『うん。ちゃんと寝たよ~。
寝過ぎて、朝寝坊しちゃったよ…。
街に行って、お姉ちゃん達とお話出来るの、楽しみにしてたのに。
ちょっと遅くなりそう…』
『落ち込まなくても大丈夫。フォーレ達なら、ゆっくり待ってるって言ってたもの』
『お姉ちゃん達が?』
『ええ。可愛い妹が出来て、はしゃいでるみたい。
森や農耕地は、フォーレの管轄だから、結愛がいるリシャの森の近くなら、街の教会に設置されてるのは、フォーレの女神像が一般的なの。
だから、フォーレ以外とお話出来るのは、結愛がもっと大きくなって、いろんな場所に行ける様になってから…と思っていたのだけど、ラメルとリュニベールが羨ましいらしくて、「フォーレだけが、ユナとお喋りするなんてズルイ!」って、フォーレの部屋に押し掛けてるみたいよ?
ふふっ。3人とも仲は良いから、喧嘩はしていないけど、ユナに会えるのを、とっても楽しみにしてるから、ちょっと騒がしくても許してあげてね』
『うん。私も早くお姉ちゃん達とお喋りしたい。
でも、その前にお片付けをしとかなきゃ…』
『ごめんね。私が【無限収納】に容れすぎたから、片付けも大変になっちゃったのよね』
楽しそうだったお母さんの声が、少しだけ落ち込む。
『違うよ!? お母さんは、私の為にって沢山考えて、いろいろ用意してくれただけでしょ?
大丈夫、ちょっと時間は掛かるかもだけど、お姉ちゃん達とお喋りするために、頑張って早く終わらせるもん!』
『…結愛…ありがとう。…それじゃ、あんまり話し込んじゃ駄目ね。
さ、朝ご飯をちゃんと食べて、準備なさいな』
『了解です! 出掛ける前に、もう1回来るからね♪
じゃ、朝ご飯に行ってきます!』
『ふふっ。行ってらっしゃい。また、あとでね』
*~*~*~*~*
朝の挨拶を終えて、早速準備開始です!
取り敢えず、クローゼットへ、れっつごぉ~♪
本日のお着替えは、白のブラウスに濃茶のベスト。
黒のレギンスに、深緑の短めキュロット。
全体的に色味が渋いので、襟元に赤の幅広リボンを結ぶ。
靴下は、踝丈の短いの。靴は赤い皮のショートブーツ。
フィッティングルームにある、扉大の姿見の前でくるりと一回り。
おかしな所は無かったので、次は洗面所です!
「お顔あらってくるね~」
起き出して、身体を伸ばしたり、簡単に毛繕いをしている2匹に声をかけます。
アルタイルは、まだクッションに埋もれてる。
扉を出て、左に向かう。正面の3つ並んだ扉の左端。
洗面所の扉を開けて、中へと進む。
下ろしたままだった髪を、クローゼットから持ってきたハンカチで、首の後ろで一纏めにする。
歯磨きと洗面をするために、踏み台に乗った。
……これ、キッチンにも在った魔道具だ。
魔力を込めて、不可視の床を踏み締めます。
水を使い終えて、ふかふかタオルで手を拭いたら、今度は髪を整えよう。
3歳児の小さな手では、凝った髪型は無理ですね……。
それ以前に、ここには髪を整える為の道具がありません!
1度部屋に戻りましょう。クローゼットの中に、ドレッサーも在ったからね♪
トイレによってから、お部屋に戻って、クローゼットに向かった。
入って直ぐにあるドレッサーには、2つの引き出しがある。
右側には、ブラシなんかの髪結い道具。左側には、化粧道具が整然としまわれてる。
……取り敢えず、化粧道具は必要無いね。私は3歳児だもん。
正面の鏡は三面鏡で、その前には、ボックスが1つと、幾つかの小瓶が並んでる。
椅子は、ダイニングの椅子と同じ魔道具だ。
椅子に座って、ボックスを引き寄せる。
やはり収納型の魔道具で、魔導鞄と同じ様な使い方だ。
ただし、こちらの容量は5種類までで、個数は30個だって。
入ってたのは、箱入りリボン2種類(幅広の華やかな物と細い紐状の物)。バレッタやシュシュ、簪まで在った。
ピンやゴムは、右の引き出しにしまわれていたから、どんな髪型も作れるだろう…。
……………。
うん。無理。
3歳児の身体で、凝った髪型なんて、やってられますか!
器用さは、お母さんが配慮してくれてたのか、普通の3歳児とは思えないけど、やりにくさはあるから、精神的な疲労が半端ないです!
ともかく、簡単なのが1番だよね。
ブラシで丁寧に解かして、左肩に流して1本の緩めの三つ編みに。
お腹の高さで、深緑の幅広リボンで纏めた。
椅子から降りて、全体を確認。
下ろしてる状態で、膝の辺りまであるから、三つ編みにしても大分長い。
リボンより下の毛先が、太腿の辺りにきます。
鏡に写った姿は、取り敢えず合格点かな?
「みんな、おきた?」
クローゼットの扉を出て、ベッドの方を伺う。
シリウスとレグルスは、既に元の姿に戻ってました。
「? アルタイルは?」
姿の見えないアルタイルが気になり、2匹に尋ねると、レグルスがアルタイルの埋もれていた籠に、鼻を突っ込んだ。
「へ?」
『ここだ。まだ寝惚けとる』
レグルスがアルタイルを啣えて、持ち上げながら、呆れた様に呟いた。虎に啣えられた小鳥……絵的にちょっとシュールだ。
「ぇ、ええっ!? だって、用意するのに、きがえも合わせて30分いじょうかかってたよ?」
『アルタイルは、朝に弱いのでしょうか?』
シリウスは、啣えられて尚、眠り続けるアルタイルを、不思議そうに観察してる。
「……とりあえず、下に降りよう。アルタイルは、わたしがつれてくね」
レグルスからアルタイルを受け取ると、そのままレグルスが伏せた。
『乗れ。階下に降りるなら、階段で時間が掛かるだろう。俺が運ぶ』
確かに、昨日も登るのに苦労して、最終的にシリウスやレグルスに運んで貰ったけど、降りるのは時間が掛かるだけで、なんとかなるのに…。
まぁ、しょうがないかな?
今日は寝坊しちゃったし。時間が短縮出来るなら、その方が良いよね。
「ありがとう、レグルス。ぁ、でも、アルタイルどうしよう? レグルスに乗せてもらうなら、アルタイルをつれてけないよ?」
両手で作った籠に丸まる、毛玉みたいなアルタイルを見て考え込む。
『? 影に潜ませれば良かろう?』
───? 影に潜ませる? って、何?
疑問だらけの私に、シリウスが答えをくれた。
『ユナ。私達【契約獣】は、本来は契約者の影に潜んで過ごすのが一般的ですよ? フェリシア様から頂いた知識にありませんでしたか?』
「ぁ、そうだった…。【けいやくじゅう】っていしきしてなかったから、わすれてた…」
『俺らを何だと思ってたんだ?』
呆れた表情で、レグルスが溜め息をついた。
「だって、みんなはかぞくでしょ? いっしょにいるの、けいやくなんて思ってないもん…」
私の言葉に、シリウスとレグルスは驚いた様に一瞬固まって、お互いに顔を見合わせたあと、両側から頬擦りしてくれた。
『行くぞ。さっさと乗れ』
影への潜ませ方をシリウスに教えて貰って、急いでレグルスの首に抱き着く。
腰の辺りを引っ張られる感じがしたら、レグルスの上にいた。
シリウスが啣えて持ち上げてくれた訳です。
………だって、3歳児に“自分の背丈”程の高さによじ登れって、無茶だよねぇ………。
『ちゃんと掴まっておけ。落ちるぞ』
レグルスに言われて、ぎゅうっと抱き着きます!
扉はシリウスが開けてくれました。
さて、朝ご飯です! 何にしようかな♪
この話から、ほんのちょっと書き方を変えました。
会話文が読み難かったので…。