お茶の時間は遅めにしますか? どこまでが “ お約束 ” ?
「「「「「『う~、苦しい~。動けない~』」」」」」
………。
はい。“お約束”ですね。
フォルお姉ちゃんにベル姉様、エディ兄さんも。
アルタイルも勿論、ヒュー様とディラン小父様までダウンです。
「…阿保だな」「阿保ですわね」「───ベル…」
無事なのは、私とお父さん、ラル姉さんにクリスお兄ちゃん、アリア小母様とルクレヒト様。
レグルスとシリウスも、勿論無事。
お父さんと小母様が、呆れたように溜め息をつき、ラル姉さんが、ベル姉様の状態に頭を抱えてます。
ご飯前に、一緒にフォルお姉ちゃんを、からかってましたもんね。
というか、ベル姉様は最初のご飯の時にも、やらかしてませんでしたか?
………。
取り敢えず、思い出すのは止めておきましょう。
溜め息が出そうな気がしますし。
「「「…うっ。胸が…ムカムカする…。うぷっ」」」
「ねぇね、ねぇしゃま。おくすり、いりゅ?」
「「……ください……」」
「お、俺にもくれ…」
「「…うぅ。…薬…?」」
もう、このさい仕方無いですよね?
人数分お薬を用意しましょう…。
「おとぉしゃん。おかぁしゃんおてせぇのいぐしゅり、だちてくだしゃい。あれにゃら、ニガニガでしゅけど、よくききましゅ」
「ん~───ぁ、これですね」
そう言って、お父さんが【無限収納】から取り出したのは、赤紫色の粉が入った瓶。
ラベルには、大きく【胃薬】の文字があります。
「しょれ!」
このお薬は、かなり苦いです。
何も知らずに処方された物を飲み、あまりの苦味に気絶した患者まで出た“最凶”胃薬です。
………。
取り敢えず、飲んでもらいましょう。
「あと、あまぁ~いかじつゅしゅいも、ろくにんぶん、おねがいしましゅ」
「ほいほい」
口直し様に、甘めの果実水も、お父さんに出して貰います。
確か、作っておいた筈…。
「あ、これ。ティクターシュですね。ユナ、いつの間に作ったのですか?」
「くだもにょがりしたとき~♪」
取り出した水差しから香る匂いに、お父さんが果実水の元の果物を断定します。
我が家の果実水は、私とラメル姉さんのお手製です。
ティクターシュは、クラウディア独特の果実で、凄ぉ~く甘いのです!
初めて食べた時は、本当に驚きました。
兎に角“甘い”!
糖度が高いのか、口に入れた瞬間から、甘味を感じる迄が極端に短い。
舌に乗せた時には、既に口の中が甘さでいっぱい。
含んだままでいたら、味覚が麻痺しそうな程の甘さです。
なのに、噛んで呑み込んだ後は、「今までの甘さは何処行った!?」と驚くくらい、綺麗さっぱり、スッキリと爽やかな後味だけが残る、不思議果物です。
後味は、マスカットに似てました。
直ぐ消えちゃいましたが…。
見た目は大きな金平糖。
大きさは、大人の男性の拳大なので、前の世界のオレンジとグレープフルーツの中間くらい。
皮には色んな色があるのに、中身はみんな綺麗な………黄緑。
………。
うん。最初に見た時は、食べるの躊躇いました。
鮮やか過ぎる程に綺麗な黄緑。
真夏の草原みたいな、爽やかで鮮やかな黄緑。
レタスやキャベツより、緑が濃くて、黄色味が強い。
この色で、あの甘味。
自然界の法則って……。
香りは、金木犀。
私の好きな花の匂いがして、香りを辿った先にあったのが、ティクターシュ。
果物だって聞いた時は、やっぱり驚いたっけ。
ティクターシュは、香りから味まで、驚きでいっぱいです♪
「アりゅタイルが、いっぱいとってくりぇたから、いろいろつゅくったの~♪」
ええ。
色々作りましたとも!
果実水を初め、ジャムやコンポート、ゼリーやムース。
シャーベットに、ドライフルーツ。
基本はデザート系ですが、本当に色々作りました。
実は、ティクターシュは、お薬の原料だったりもします。
果実も花も、葉っぱや樹液すら、乾燥させると薬効を持ちます。
それぞれ用途の違う薬効を持つので、薬師の間では、ティクターシュを育てている人も多いらしいです。
お母さんは、薬効以前に食材としても栄養価が高いため、確保してくれてました。
というか……。
私の【無限収納】に、クラウディアにある食べられる物や、薬効のある物は、粗総て【種】か【苗】で収納されてました。
魔道具【私のお城シリーズ】と、同期させた時点で、勝手に育ってたので気付きませんでしたが、同期させた場所の気候に合わせて、育つ物だけが植えられていた模様。
育つ環境が違う物は、未だ【無限収納】内に【種】や【苗】の状態で入ってます。
あと…実は、【無限収納】内に、魔道具も大量にあって、中に【シリーズ】と付くものも多数。
その中のひとつに、【環境改善シリーズ】なんていうのがあったのですが…。
フォーレお姉ちゃんに相談したところ、これって温室みたいに“室温湿度管理の出来る空間”を造る魔道具らしく、いずれ環境に関係無く、全種類の【種】や【苗】を育てる事になりそうです。
………ハッ!
話がずれました。
まずは、お姉ちゃん達にお薬を飲ませねば!
「おくしゅりは、ようほうようりょうを、まもりまちょう」
「胃薬は、1日2回、小匙で3杯」
「い~ち、に~ぃ、さ~ん。こりぇで、いっかいぶんでしゅね」
薄紙の上に、小匙と摺切りを使って量った粉薬を盛り、同じ様に人数分を用意します。
赤紫の小山が出来た薄紙を、お姉ちゃん達に渡して、飲んで貰います。
「ニガニガでしゅけど、よぉ~くききましゅ。いっきにのんでくだしゃい」
「「「『うぅ~。はぁ~い』」」」
「「うっ。苦いの〈かい〉…」」
「諦めろ。効果は保証してやるから、とっとと飲め」
「貴方。ヒューも。ちゃんと飲んでくださいね?」
「が…頑張れ、ヒュー」
お薬と白湯の入ったコップを渡せば、お姉ちゃん達は力無く受け取り、ディラン小父様とヒュー様はちょっと渋りました。
お父さんが淡々と服用を迫り、アリア小母様がにっこり笑顔で促し、ルクレヒト様はちょっと青ざめてひきつったお顔でヒュー様を応援してます。
「「「「「『──苦ぁぁぁぁぁっ!!!』」」」」」
揃ってお薬を飲んだ人達が、一様に絶叫して、悶えます。
絶叫できるなら、まだ大丈夫です。
最悪、気絶しますからね。
「ほれ」「はい、飲んで」
私がお薬を用意している間に、果実水を用意してくれていた、ラメル姉さんとクリスお兄ちゃんが、それぞれに果実水を手渡します。
「「「「「『──!? 甘!!』」」」」」
お薬の苦味を打ち消す甘さに、皆揃って口を手で覆います。
「薬に懲りたのでしたら、次からは食べ過ぎには注意なさい。次は、果実水無しで飲ませますよ?」
お父さんが厳しい眼で、お薬を服用した6人に、言い聞かせます。
お母さんが作るお薬は、苦い物が多いのですが、お母さん曰く「薬を飲むのが嫌な経験であれば、次はそれをしなくても良くなる様に、多少なりとも行動の改善を考えるでしょう?」との事でした。
思いやり故の“苦いお薬”なんですね。
まぁ、飲むのを嫌がるだけで、原因を改善させようとしない場合は、自業自得なので無理矢理服用させるらしいですが……。
「おちゃのじかんは、おしょめになりしょうでしゅね…」
美味しいお菓子も、食べれなければ、悲しいだけです。
美味しく食べれる様になるまで、今度はお外へ出てみましょうか?