続けて学ぼう♪ お母さんが教える常識講座・ステータス篇
すみません。
ちょっと長いです。
ゆっくり意識が浮上する。
朝の気配はまだ遠い。
うつらうつらと、意識が揺れる。
ふと、浮かぶのは、お母さんの笑顔。
◆◇─◆◇◆─◇◆
~お母さんが頭を撫でてくれた後~
「ステータスについて、もう少し教えるわね。結愛は【解析】があるから、クラウディアでも確認出来るけど、加護や称号については、早めに知ってた方が良いと思うから。……固有技能も詳しく教えるべきかな?」
「うん。ユニークスキルも、簡単でいいから説明して欲しいなぁ…」
「分かったわ。じゃあ、先にユニークスキルから説明しましょう」
「え~と。【世界言語理解】と【環境適応】。【無限収納】と【神託】、【精霊視】と……あと、なんだっけ?」
貰ったユニークスキルを、指折り数える。
確か、6つ在ったはず……。
「【攻撃無効】ね。これは、即死効果のある攻撃を、無効化出来るスキルよ。これ以外は、ほとんどそのままの意味になるわね」
「【世界言語理解】も、そのままの意味?」
「ええ。クラウディアに存在する全ての言語を理解して、使用出来る様になるわね。読むことも、書くことも、発音することも可能よ。【環境適応】も、どんな環境でも生活出来る様になるものよ」
「【無限収納】も、そう?」
「そうね。基礎保有魔力に比例して、大きくなる収納ね。結愛は眷族になるから、基礎保有魔力は無限なの。だから、このスキルは、本当に制限のほとんどが無効化されるわね♪」
「制限?」
「ええ。大抵何でも収納出来るけど、生物……自立行動が可能な生き物は、流石に収納出来ないわねぇ……」
困った様に、お母さんが溜め息をつく。
「いやいや、普通に考えて、意思のある生き物を収納しようとなんてしないよ?」
「まぁ、それが普通な筈なのだけど、稀にいるのよね……“収納に入れて、運べば大丈夫!” とか考えるお馬鹿さんが……」
「へ!? ぇ、だって、“収納”でしょ? “収納”って、密閉まではいかないけど、閉鎖空間には変わらないよね? そんな所に意思のある生き物なんて入れたら……」
お母さんの言葉に、自分が入ることを想像して、血の気が失せた。
例え広さがあったとしても、閉じられた空間では、時間の間隔があやふやになり、精神にかかるストレスは、半端なものでは無いだろう、呼吸さえ儘ならなくなりそう。
出た(出した?)時には、良くて錯乱、悪ければ精神崩壊だろう……。
「考えてみれば分かる筈なのだけど……。“意識が無ければ大丈夫だろう” なんて、思うのかしらね?」
「寝てても無理だよ…。死んでもいないのに、棺桶に入れられる様なものじゃん…」
「ね。あまり、気持ちのいいことでは、ないわよね。 取り敢えず、【無限収納】の制限は、それくらいかしら」
「あとは…【精霊視】と【神託】?」
「【精霊視】も、言葉通りのものね。精霊が視えるというものよ。クラウディアでは、精霊眼とも呼ばれてるわ。正確には、ちょっと違うのだけど」
「違うの?」
「ええ。精霊眼は、正確にはスキルじゃないの。“顕現出来る程、力の強い精霊”を、視認できる“能力”のことで、【精霊視】は“魔素に干渉することしか出来ない、力の弱い精霊”すら、感知して頭が認識する“スキル”よ。だから、【精霊視】だと、目を閉じていても、精霊が視えるのよね…」
「ふぇ? それ…全然違わない?」
「ん~。持ってる子自体が少ないし、違いを検証した子がいないから、同じスキルだと思われてるみたいね。精霊眼は、加護を受けた影響による“副産物”なんだけどね」
「【精霊視】は、なんとなく分かったけど、【神託】は?」
「【神託】も同じよ♪ クラウディアで“神”と呼ばれている存在の声を聞くことが出来るわ♪ だから、このスキルがあれば、何時でも結愛とお話出来るのよ」
「! 本当!? クラウディアに行っても、お母さんとお話出来るの!?」
「勿論♪ いくら大人と同じ様な考え方が出来るといっても、まだ小さい娘を、連絡手段すら無しに、遠出なんてさせません!」
「…お母さん…」
お母さんの気持ちが嬉しくて、言葉に詰まる。
泣きそうなくらい、胸がいっぱいだ。
*~*~*~*~*
「あとは、加護と称号だよね?」
「加護っていうのは、神と呼ばれる存在の他にも、魔素濃度の調節を司る4匹の竜達や、自然や季節を司る8体の精霊王達が、“基礎保有魔力が帯びる色”を好ましいと感じた相手に、与えることの出来る“守護の力”を指すの」
「色?」
「ん~。あとで説明するけど、それぞれが持つ基礎保有魔力には、様々な濃淡の光彩があるの。基礎保有魔力の高い子なら、その色を視ることが出来るわ。だから、竜や精霊王は、自分の好む色彩を持つ子に、加護を与えるの」
「好みの色…。お母さんは、私の色……好き?」
「ええ。勿論♪ 結愛の色は、虹色。刻々と移り変わる、淡く純粋な幾つもの色が重なってる。とても珍しい色よ。不安定に見えるのに、中心には透き通るほど綺麗な金色が存在して揺るがない。不思議と惹き付けられる色。いずれ、私だけじゃなく、他にも加護をくれる子が現れるかも♪」
「そしたら、その相手にも、好きになって貰えたってこと?」
「ええ。そうね。結愛を好きな子が増えるのは、とっても嬉しいわね♪」
「うん!」
加護が増えることより、お母さんが創った世界に、私を“好きになってくれる存在”がいるかも知れないことが、凄く嬉しい。
「私の加護は、魔道具や魔石なんかの、魔力を帯びた物に反応するわ。【管理者】である以上、直接干渉することが出来ないから…。ただ、効果が普通とは言えないかな? 他の子達の加護と比べると、ちょっと強くなっちゃうから…」
「クラウディアは、お母さんが創った世界だもんね。影響力は、間接的でも大きくなっちゃうんだね」
「称号は、神やそれに伴う存在が、対象に与える祝福や呪詛よ。だから、良い効果を持つものと、悪い効果を持つものが在るわ」
「例えば?」
「結愛の持ってる【女神の愛娘】は、スキルを防御特化で強化するのと、幸運を強化して引き寄せる効果があるわ。これは、祝福と言われる、良い効果を持つ称号ね。呪詛とされる、悪い効果を持つ称号だと…何が有名かしら? ん~。【虚弱】とかかなぁ。【虚弱】は、体力減少や免疫抑制、精神消耗なんかの効果があるから」
「お母さん……。さっき、“対象に与える”って言ったけど、生き物だけじゃないの?」
「ふふっ。気が付いた? その通り! 称号は、物品や無機物なんかにも存在するわ。【海の怒り】は、拘束用の魔道具なんかに見られる、呪詛の称号だね。麻痺効果の上昇と、状態異常継続効果をもたらすの。【大地の喜び】は、植物によく見る祝福の称号ね。これは、薬用なら薬効が高くなるし、食用なら旨味が強くなったりするわ♪」
「いろんな称号が在るんだねぇ」
*~*~*~*~*
「いよいよ、【魔力適性】について教えるわね」
「ふわぁ~♪ 楽しみ♪ 魔法が使えたら、いろんなことが出来そうだよね」
前の世界では、物語の中にしか無かった“魔法”。
自分が使えるようになるとは、思ってなかったから、凄く楽しみだ!
「そうね。いろんなことが出来るわ。でも、何でも出来る“万能の力”ではないから、それだけは覚えていてね?」
「はい。気を付けます!」
「宜しい。【魔力適性】というのは、基礎保有魔力と魔法属性の相性のことよ。親和性が高くなるほど、多くの属性が使えるわ。クラウディアには、魔素という物質が充満してる。それは、酸素や二酸化炭素なんかと同じ、目に見えないけれど、確かに存在していて、魔法を使う為には、無くてはならないモノよ。結愛がいた世界では、魔素は凄く薄かったから、魔法が使えなかったのね」
「!? ぇ、じゃあ、あの世界でも、魔素が濃かったら、魔法が使えてたの?」
驚きの真実だ……。
「ええ。そして、魔素は生き物や無機物に、蓄積しやすい物質なの。前に説明した通り、魔素の濃いクラウディアでは、多少の差はあれど、全ての生き物が魔素を魔力に変えて、保有しているわ。それが、基礎保有魔力ね。そして、さっき教えた様に、基礎保有魔力は色を帯びるの。これは、魔力の質や方向性によって異なるわ」
「お母さんの眷族は、基礎保有魔力が無限なんだっけ?」
「そう。どんな生き物でも、肉体に保有出来る容量は、ある程度の限界値が存在するわ。勿論、成長や鍛練によって、ゆっくり増えはするけどね。でも、私の眷族だと、最初から限界が無いの。それに、どの魔法属性とも相性が良くて、親和性も飽和状態に近いわ。だから、様々な魔法が使えるようになるわね」
「例えば、どんな?」
「ん~。まず、魔法属性には、【無・火・風・水・土・闇・光・時】の8つの属性があるの。結愛は、この全ての属性が使えるから、火を出したり、水を出したり、風を起こしたり何てことは、一通り出来るわ。それどころか、その上の【召喚・爆焔・豪雷・氷結・植物・幻影・回復・空間】も、覚えられるし、覚えてしまえば、直ぐにでも使えるようになるわね♪」
「16も属性が在るんだね」
「ぁ、ごめんね。それはちょっと違うわ」
「? 違うの?」
「ええ。最初に上げた8つが“属性”。ステータスウィンドウの【魔力適性】に記載されるのは、この8つの“魔法属性”よ。で、この8つは基礎魔法とも言われていて、記載されてれば、わりと簡単に使えるわ。後に上げた8つは、基礎魔法の派生というか、応用で使えるようになる“上位魔法”なの。だから、ステータスウィンドウには記載されない。ただし、自分のステータスか、スキル【解析】を持っていれば、使えるかどうかの確認は楽に出来るわ」
「属性は“8つ”だけど、魔法の種類は“16”あるが正解?」
「ふふっ。その通り。分かりにくい言い方したりして、ごめんね。自分のステータスなら、記載されてる魔法属性に触れれば、使用可能魔法が表示されるし、【解析】なら他人のステータスウィンドウでも、細かな表示まで確認出来るわ。ただ、了承も無しに他人のステータスを覗くのは、誉められることではありません。悪用しちゃ駄目よ?」
「は~い。気を付けるね」
「でも、不審者相手なら、問答無用でさっくり確認しなさい! 結愛の身を守るためには、多少のことには目を瞑るわ」
「……お母さん。心配し過ぎだと思うよ?」
「そんなことは、ありません! 結愛みたいに可愛い子は、どれだけ気を付けても、安心は出来ないわ! 悪意や害意を持って近付く者は、沢山いるもの」
「分かった。変な状況だったら、迷わず【解析】を使うよ」
「そうしてくれると、少しは安心出来るわ。ユニークスキルは、任意発動のみなのだけど、スキルは常時発動と、任意発動が選べるから、初めは全部パッシブにしておくわね。使いにくかったら、アクティブに変更してね」
「うん。ありがとう。……そう言えば、魔力の光彩って、魔力の質や方向性で、どんな風に変わるの?」
「色の濃淡と透明度で、質の高さが分かるわ。淡くて透明度の高い光彩ほど、質が良いのよ。寒暖と明暗で、方向性が分かるの。寒色は攻撃、暖色は防御に向いてるし、明るいと親和性が高くて、暗いと一方向に特化しやすい感じ。結愛の魔力は、攻防一体で親和性の高い、最高級の質を持ってるから、虹色なんでしょうね」
◆◇─◆◇◆─◇◆
お母さんの優しい声が、ゆっくりと遠退く。
次に意識が浮かぶのは、朝陽を浴びるその時だろう。
再び、眠りに落ちていく感覚に身を委ね、柔らかな幸福感に包まれた。