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女神様の娘になりました。  作者: 峠岬 嶺
第7章─新たなお友達? それとも好敵手? 歳上の男の子は、未知の存在です!
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苦手克服? 上達条件の最初の一歩は、楽しむ事らしいです♪

「ひろ~~~~~い!」


 あちこちをゆっくり見て回り、次に来たのは全面板張りの部屋。

 入口から入って、右手奥の壁は一面全てが鏡張り。

 鏡の手前、窓際に寄せた位置に、綺麗に磨かれたピアノが2台。


 鏡張りの壁の向かい側。

 入口左手側には、鍵付きの硝子扉の据付け戸棚。

 中には整然と並ぶ、古いものから最新のものまで揃えられた、数え切れない楽譜達。


「ここは、舞踏室。と言っても、練習場のひとつだね」


 全員を部屋の中へと誘い、楽譜棚の鍵を開けながら、ルクレヒト様が説明してくれます。


 今までは、お客様を案内するルートで見てきましたが、ディラン小父様の許可が下りていたので、家族や身内認定の人間しか使用しない部屋も、案内してくれる事になって、一番最初がこの部屋でした。


 ここがお客様に見せられる、ギリギリの境界線らしいです。

 後で聞いて驚きました。

 舞踏室は、ダンスだけでなく、楽器の練習にも使用されるので、完全防音。

 そのため、お客様を“案内”は出来ても、“人払い”をする事は絶対に出来ない──密会や談合行為を疑われ兼ねない──部屋なんだって。


「貴族の子供は、成人前から夜会に連れ出されたり、他国との交流会に連れ出されたりと、大人が付き添う形で、あちこち連れ回されて、同じ年頃の子供や成人仕立ての若い人達を相手に、必ず一曲は踊らされるから、練習は必須なんだよ」


「ステップ覚えるのは兎も角、ダンスに誘うマナーも覚えないと駄目だし、踊りたくなくても練習させられて、ダンスが嫌いなヤツも沢山いるんだ」


 ルクレヒト様が舞踏室を頻繁に使用する理由を教えてくれれば、ヒューバート様が舞踏室へ来たがらなかった理由を、いじけ気味に教えてくれます。


「ふふ。ヒューもダンス嫌いだものね」


「ぁ、兄上だって、苦手だって、以前仰ってましたよね!?」


 ルクレヒト様に軽く笑われて、ヒューバート様がお顔を赤くして抗議します。


 どうやら、貴族の子供達は、ダンスへの苦手意識を、小さい頃から植え付けられちゃうみたいですね。

 まぁ、ダンスの練習だけなら兎も角、マナーや所作、男の子に至っては、リードの仕方まで、あらゆる努力を強要されれば、否応無く苦手意識が根を張りますよね。


「ダンス…たのちいでしゅよ?」


「ん? ユナは踊れるのか?」


「ぁい。ラりゅねぇしゃんに、おちえてもりゃいました」


 折角楽しいダンスも、叱責を恐れていれば、それこそ楽しくも嬉しくもありません。

 私がラル姉さんに教わった時は、「まず楽しむ事が大前提!」とステップもマナーも全て無視して、私が楽しめるまで、姉さんに大きく振り回される様に、踊らされました。

 女性側は、相手に身を任せ、リードに従って踊るのが、この世界のダンスなので、“全身を預けずに、身を任せる”という高等技術が必要なのです!


「ユナはダンス上手だぞ? ステップもマナーも覚えが良いから、何処に出しても恥ずかしく無い程度には踊れるよ」


 ラル姉さんが私のダンスの腕前を保証してくれます。


 ん~、これは、ご披露するべきでしょうか?


「…ピアノ…弾く…?」


「いいわね! 今回は楽しむ事が目的って事で、マナーは細かく言わずに、練習しましょう♪

 エディ御兄様、踊ってくださいませ!」


「げっ!? 俺、ダンス苦手だぞ?」


 ベル姉様が私の気持ちを読み取ったのか、ダンスの伴奏を名乗り出てくれます。

 フォルお姉ちゃんも便乗して、踊る気満々でエディ兄さんの手を取ります。

 エディ兄さんは、ちょっと複雑そうなお顔をしながらも、お姉ちゃんに促されるまま、踊りやすい位置へと移動します。


「僕はベルを手伝うよ。ピアノだけじゃ、寂しいから、リュートでも弾こうかな」


「では、ラル・オーリシェン嬢。私と踊っていただけますか?」


「ぷふっ。…喜んで!」


 クリスお兄ちゃんは、姉様のお手伝いに立候補。

 ピアノ伴奏だけだと、練習の印象(イメージ)が強すぎるから、他の楽器も混ぜて、印象を弱める作戦かな?


 ルクレヒト様はそんな皆を見て、ちょっと楽しそうに、少し(おど)けた態度で、ラル姉さんを誘います。

 その態度に笑いを誘われ、軽く吹き出し、肩を震わせながらも、ラル姉さんがルクレヒト様の手を取ります。


「え!? え?」


「ヒューバートしゃま、わたちとおどってくだしゃい!」


 急遽決まったダンスの様相に、置いてきぼりをくらったヒューバート様が、焦っていますが、それは無視しちゃいましょう♪

 ヒューバート様の両手を取って、正面から満面の笑みで誘います。

 問答無用でお姉ちゃん達と同じ様に、ピアノの近くで踊りやすい位置へと、ヒューバート様を引っ張って移動します。


「へ!? ユナと? 待て待て待て! 足を踏んでしまう!」


「だいじょぶでしゅ! ヒューバートしゃま、いきまちょう!」


 自分より低い位置で引っ張られ、踏鞴(たたら)を踏むヒューバート様に、根拠の無い“大丈夫”を贈り、元気に走り出します。


 お姉ちゃん達とのダンスは、本当に楽しいのです!

 シリウスはベル姉様と一緒に、ピアノの元へ行って床に伏せ、尻尾でリズムを刻みます。

 シリウスの取るリズムは、とっても正確で、メトロノームもいりません。

 シリウスの尻尾が床を叩く音をベースに、姉様が早めの曲調で音を奏でます。


 マナー等を無視するには、何かを考える余裕を無くす事が大切……と言うことで、早い曲調の音楽で、パートナーを振り回せ!

 ラル姉さんに教えて貰った通り、ヒューバート様が楽しくなるまで、振り回します!

 足を踏まれる前に、私が踏んじゃうぞ~。

 逃げろ♪ 逃げろ♪


「とわっ、お? どうだ!?」


「にゃはははは」


「うわっ!? っ、なら、こうだ!」


「はわっ!?」


「プッ。くっ、ふははは」


 くるくる回りながら、音楽に合わせて身体を揺らし、メチャクチャなステップでお互いを振り回します。

 相手の驚く様子に、お互い“驚かせる事”が楽しくなってきます。

 この“楽しい”がどんな練習にも、必要不可欠なんだって。


「…ん。…みんな…上手…♪」


「うん。楽しいね。そろそろ、曲調を変えようか」


 ベル姉様とクリスお兄ちゃんが、ゆったりした曲調へと伴奏を変えてくれます。

 早い曲調で上がった呼吸(いき)を整えて、今度はちゃんとした正しいステップで踊ります。


「ははっ。面白かったな! 今度の曲は簡単なやつだから、ちゃんとリードするからな」


 ヒューバート様が満面の笑顔で、優しく穏やかにリードしてくれるので、私はリードに身を任せ、ヒューバート様と一緒に踊ります。


 くるくるヒラリ、クルひらり。

 ターンを極めると、スカートの裾が、軽やかに翻ります。

 あぁ、やっぱり、ダンスは楽しいです。


「ヒューバーちょしゃま、たのちいねぇ」


 くるりひらりと回りながら、私より頭ひとつ分以上高い、ヒューバート様のお顔を見て、にっこり笑えば、頬をほんのり赤くして、ヒューバート様も笑ってくれます。


「ああ、そうだな。こんなにダンスが楽しいのは、初めてだ」


 嬉しそうに笑ったヒューバート様に、私も笑顔を返して、しっかり“楽しい”を堪能させて貰いました。

 楽しかったぁ~♪

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