これも日常? 少しずつでも、毎日してると慣れるものですね♪
「あらあら、どんな状況ですの?」
唐突にかけられた柔らかな声に、入り口を振り返ると、鮮やかだけれど、優しい色味が目に映る。
扉の前にいたのは、檸檬色の髪のしっとりとした美人さん。
昨日街中で会ったサランさんと、お母さんの雰囲気を足して半分にした感じかな?
しっとりしているけど、妖艶な雰囲気はなくて、ふんわり優しい感じなのに、刺さるほどに冷たい湧水みたいな冷静さがある。
ちょっと不思議な雰囲気のお姉さんだ。
年齢的には、お母さんと同じくらいか、少し上?
あれ? 下かな?
判断が難しい…。
「お早う御座います、旦那様。朝から賑やかですわね」
「おはよう、アリア。今日も麗しいね♪」
お姉さんが、ディラン小父様に近付いて、ふんわりとしたハグと、親愛を示す頬へのキスをひとつ。
ディラン小父様も、お姉さんへと同じ行為を返します。
クラウディアでは、キスする場所により、色んな意味があるのです。
親愛、憧憬、尊敬、愛情……キスする場所によって、込められる意味は其々違います。
勿論、私も家族間では、わりと頻繁に贈り合います。
最初は恥ずかしかったけど、この一月で私も大分慣れましたよ…。
お母さんからは、額や頬に。
お父さんからは、頭の天辺(というか、髪かな?)や鼻にも。
お姉ちゃん達は頬が基本で、お兄さんズは殆んどが額。
レグルス達はキスじゃなくて、頬擦りですね。
ぁ、思考が逸れた…。
また、やっちゃった…。
「お久し振りに御座います、オーリシェン様」
「久し振り。すまないが、堅苦しいのは苦手だ、以前の様に接して良いかな?」
お父さんへと淑女の礼をとってみせたお姉さんを、お父さんが制止します。
お父さんの率直なお願いに、お姉さんは「勿論ですわ」と、了承してくれました。
「改めて。久し振りだね、ルース」
「御無沙汰しておりますわ、ラズ様。お変わり無い様子に、安心致しました。
此度は、シア様は御一緒では無いのですね…」
ぁ、このお姉さんも、お母さんの事大好きなんですね!
と、あれ?
それは置いておいて、お名前が……。
アリアさん? ルースさん? どちらが正解なのでしょう?
どちらも正解なのかしら?
「シアは外出時間が限られてるからね…。けど、子供達が一緒だから、思いの外賑やかだろう?」
「そうですわね。……あら? あらあら、まあまあ!」
あや。
お姉さんに見付かっちゃいました…。
こっそりお父さんの後ろから、観察してたのですが…。
「小さなシア様ですわ! 何時の間に若返ったのですか? お可愛らしい♪」
へ!?
いやいや、待ってください。
お母さんは若返っても、縮んでもいませんよ!?
お姉さん、可笑しな誤解は止めてくださいね?
「ふふ。末娘のユナだよ。可愛いだろう?」
「まぁ、シア様ではありませんのね。本当にお可愛らしい。…あら? “末”ですの?」
「うん。4人姉妹の末っ子だよ。と、紹介は、君達の家族が揃ってからにしようか。
出来れば、一度で済ませた方が、効率的だろう。
こちらも、弟子達がまだ来てないしね」
「そうですわね♪ わたくしも、自己紹介がまだですし、息子達にも御挨拶をさせたいですわ」
小父様を放置して、お話がどんどん進んで行きます…。
いいのかな?
小父様……笑顔だ……大丈夫! ……なのかも?
ところで……。
お父さんの言葉遣いが変です。
私達と話す時は丁寧なのに、モーリスさんやディランさん等、昔馴染みと話す時はちょっと雑?
『どうした?』
「おとぉしゃん、きょうも、はなしかた…へん?」
『あれは、自衛だ。冒険者が丁寧な言葉を使っていると、柄の悪い者からは、“金持ちの坊っちゃんやお嬢ちゃんのお遊びだ”と侮られる事がある。
多少雑に崩していた方が、余計な雑事が減るのだ』
私が疑問を覚えてお父さんを凝視していたら、レグルスがそっと教えてくれました。
『フェリシア様も、クラウディアで御過ごしになる時は、常に少々雑な言葉遣いをなさいますよ。
ラズヴェルト様は、話し相手との関わり方で、言葉遣いを変えていらっしゃいますね。器用な方です』
『本来は~、丁寧な言葉遣いな方だから~、ユナ達に使ってるのが~素の言葉遣いだね~♪
相手がどうでも良い程~、言葉がぞんざいになるって感じかな~♪』
シリウスとアルタイルも、お父さん達の言葉遣いについて、それぞれの見解を教えてくれます。
ぁ、お母さんが喋り方を変えていたのも、やっぱり理由あったのですねぇ。
雰囲気がちょっと違って、綺麗より可愛いより、格好いい感じだったのです♪
私も真似してみましょうか…。
『ああ。その様な使い分けであろうな。………。ユナ、真似はするなよ?』
『真似しては、いけませんよ?』
『駄目だよ~? リュニベール様達、泣いちゃうよ~?』
お母さんの喋り方を思い出して、ちょっと考え込んだだけで、考えてた事がバレました!?
レグルスを筆頭に、契約獣が揃って私に注意して来ます。
え~。
駄目ですか?
むぅ…分かりました。
ベル姉様達が泣いちゃうなら、止めておきます。
お姉ちゃん達に、悲しい思いはしてほしくありませんからね!
『付き合いが長くなり、言葉遣いに左右されない相手であれば、常の丁寧な言葉遣いが顔を出すようだ。
女将と呼ばれていた女が、それに当たる。
逆に、以前から使っていた言葉遣いを望む者もいて、この領主夫婦や冒険者組合長などは、その典型だ』
*~*~*~*~*
暫く大人達が雑談を交わすのを眺めていましたが…。
………飽きた。
朝ご飯は全員が揃ってからなので、まだ用意されてません。
あまりにも暇なので、レグルスやシリウスと戯れます。
お手製猫じゃらしや、ボールを使って遊びます。
「失礼致します。お客様、並びに若様方が御出になりました」
ミランダさんが、扉を開けて、待ち人達を入室させます。
お兄さんズがやっと来ました!
ヒューバート様も一緒です♪
他にもう1人いますね…ヒューバート様が言ってた、お兄様でしょうか?
「遅くなりました」
それぞれが、小父様とお父さんに頭を下げます。
小父様はひとつ頷き、壁際に控えていた使用人さん達へと、目配せします。
全員揃ったので、漸く朝ご飯が準備されるみたいです。
「さあ、先ずは食事にしよう! お互いの紹介も必要だね♪」
小父様の明るい宣言に、それぞれが所定された席へと移動します。
美味しい朝ご飯に舌鼓を打ちつつ、それぞれの紹介をするのですね♪
食事中のお喋りは、御行儀が悪いと嫌な顔をされる事もあるのですが、お父さんも小父様も、私的な場での食事の際は、些細な事には目くじらを立てない人達です。
なので、和やかにお互いの紹介をしながら、用意された朝ご飯をたいらげます。
メニューは、前の世界でのモーニングセットを彷彿とさせますね。
プレーンオムレツにカリカリベーコン、腸詰め肉にグリーンサラダ。
バゲットを薄切りにしたものに、果物のジャムと常温バター。
ポテトのポタージュに、果実水。
デザートには、ヨーグルトが出されました。
どれも美味しくいただきました♪
ご飯が終われば、ヒューバート様との約束のお邸探検です!
楽しみだなぁ。