朝一番の遭遇? 突然の出会いは……。
「誰だ、お前!」
いきなりビシッと指を突き付けられて、返答に困り、固まりました。
貴方こそ、どちら様?
*~*~*~*~*
時間は戻り、朝の目覚めの時です。
「………ここ、どこぉ?」
寝惚け眼で辺りを見渡し、ゆっくり回転し始めた頭が、昨日の出来事を思い出します。
あぁ。
領主邸でしたね…。
寝惚け眼を擦り、もそもそとベッドの上を移動します。
『ユナ? 起きたのか?』
薄布の向こうから、レグルスの声が聞こえます。
お姉ちゃん達を起こさない様に、念話とはいえ控え目です。
「ぉはよ~、レグルしゅ。おきたよ~」
薄布を避けて、ベッドの端へと移動すれば、ベッドの直ぐ横に、レグルスが伏せています。
頭を近付けてくれたレグルスの鼻先に抱き付けば、不意に足がベッドから浮いて、レグルスの頭に全体重が掛かった状態で、そっと運ばれました。
ちょっと驚きはしましたが、そのままベッドの下へと下ろされ、自分が移動させられた理由に思い至ります。
自宅と違い、昇降台が無いので、高さのあるベッドから、1人で下りるのは危険ですから。
「あぃがとぉ~」
へにょっと、力の入らない笑顔で、レグルスの鼻先に、再び抱き付きます。
レグルスとシリウスは、元の大きさに戻っていて、私が頭に抱き付いても、腕が回りきらずに、しがみつく形になるのは、ご愛嬌ですね♪
さて、朝の準備を始めましょう♪
今日はご飯の支度が必要無いので、ゆっくり準備出来ますね。
固有技能【無限収納】を発動させようかと考えましたが、リュックから着替えを出す事にしました。
リュックは応接間に置いてありますから、移動しましょう。
下着や寝間着は、昨夜お父さんがお父さんの【無限収納】から出してくれましたが、今日着るお洋服は、貰い忘れちゃいました。
お父さんに会わずに、昨日とは違う服を着ていると、私も【無限収納】を所持している事を、家族以外に知られかねませんからね。
ユニークスキルは、出来るだけ他の人に知られない様にすると、お母さんと約束してますから。
まぁ、親しくなって、信頼出来ると確信した相手になら、教える事も吝かでは無いですし、お母さんも“一緒に秘密を抱えてくれる友人”を作ることには、賛成してくれてます。
早く仲良くなれる“誰か”に会えるといいなぁ。
ぁ、お姉ちゃん達やお父さんとは、立ち位置の違うお兄さんズには、家族としての認識が生まれた時点で、【無限収納】所持者である事を、暴露してあります。
お父さんが【無限収納】を持っている事を知っていた為か、私が同じ固有技能を持っている事は、お兄さんズにすんなり受け入れられ、「他の人には絶対知られない様に!」と、真剣に諭されました。
さて、リュックから着替えを出しましょう♪
どれが良いかなぁ?
ぁ、これにしましょう!
撫子色のセーラーカラーのワンピース!
スカーフや腰の飾りリボンに使われてる葡萄酒色が、差し色になって、ちょっと大人っぽい。
3歳児に大人っぽさは必要無いかなと、チラリと過りますが、可愛らしさと大人っぽさが同居するデザインには、心惹かれます。
今まで着たことの無いデザインですから。
レグルスの前で着替えるのは、ちょっと恥ずかしいので、簡易浴室に移動します。
着替えと洗面を済ませちゃうのです。
ぁ…。
洗面台も高い……。
自宅の洗面所は、魔道具がありますが、そういえば、魔道具ってかなり高価な品物でしたね。
着替える前に、水を使いたかったのですが…。
「にょえ!?」
洗面台を見て迷っている内に、突然首の後ろを引っ張られ、目に写る景色が凄い勢いで変化しました。
可笑しな声が漏れたのを気にする隙もなく、洗面台の前に高さぴったりで座っています。
あれぇ?
状況を確認すると、私のお尻の下には、レグルス。
………。
どうやら、レグルスが襟首を咥えて背中に横座りさせ、洗面台の前に伏せてくれた模様。
確かにこれなら届きます。届きますが……。
レグルス…一声かけてくれても良いのでは?
「ありがとぉ」
ちょっと困惑しながらも、問題は解決されたので、レグルスにお礼を言って、そっと撫でます。
『洗顔が済んだら、声を掛けろ』
極力動かない様に気遣ってくれるレグルスに、感謝しながら歯磨きと洗顔を終え、レグルスには先に応接間に戻って貰い、着替えます。
髪は軽く梳かすだけで済ませます。
邪魔になるようなら、後で結べばよいですね。
着替えと洗面を済ませて少しした頃、小さなノックが聞こえました。
「はぁい。どうじょ~」
扉に近付き、レグルスに扉を開けて貰います。
少し開いた扉から、廊下を覗いて、ミランダさんを見付けます。
「おはようごじゃいましゅ! ミりゃンダしゃん」
あうっ。
お名前噛んじゃいました…。
苦笑混じりの照れ笑いで誤魔化しつつ、入室を促します。
ミランダさんを迎え入れ、ミランダさんが運んで来てくれたお茶をいただきます。
「ミランダしゃん。おにわに、おしゃんぽしにいっても、いいですか?」
「構いませんよ。ご案内致します」
勝手に邸内を歩くのはマナー違反だと、昨日の内に聞いていたので、ミランダさんにお庭のお散歩を強請ってみました。
いつもは朝、香草調達に出て、朝一番の日光にあたるので、今日も先ずはお外に出てみたいのです♪
お庭が駄目なら、窓の向こうのテラスにでも出るつもりでしたが、快く許可してくれたので、レグルスを連れて、早速行動しましょう♪
*~*~*~*~*
そうしてやって来たお庭で、朝露に濡れて輝く花の美しさと芳しさを堪能していたら、突然背後から「おい! そこの幼女!」と叫ばれました。
………。
いえ、はい。
確かに、私は幼女ですが……。
え? これ、返事しなきゃ駄目ですか?
恐る恐る振り向けば、冒頭の誰何です。
指を突き付けられた衝撃に、回想することで逃避してしまいました。
この状況……どうすれば?
「坊っちゃま……。人に指を突き付けるのは、礼儀を知る紳士のなさる事では御座いません。
お嬢様への非礼を謝罪なさる事を進言致します」
「なんだと!? ミランダ! 貴様、どちらの味方だ!」
「わたくしの主は、ご領主様であるディラン閣下です。
何より、お嬢様は行方知れずになっていた、ご領主様の愛猫テトラを、助けてくださった恩人の御一人ですから」
………。
あの~、私は放置ですか?
お部屋に戻っても良いかな?