領主邸─客室─探検隊結成? お部屋の外には、勝手に出ちゃ駄目らしいです。
「ふんふんふ~ん♪ ふふふふん♪」
只今、お姉ちゃん達と移動中です♪
右手はフォーレお姉ちゃん、左手はベル姉様に引かれ、頭の上に小鳥姿のアルタイルを乗せて、軽くツーステップを踏んでみます♪
両側を抑えられたら、スキップよりもツーステップですよね♪
ただし、大きく踏むのは、いただけません。
こっそりツーステップ、ツーステップです♪
前を歩くのは、メイド服のお姉さん。
私の後ろには、子犬姿のシリウスを抱っこしたラメル姉さん。
お父さんのいる場所まで、明るく元気に行きましょう♪
*~*~*~*~*
目覚めた客室は、天蓋から下げられていた薄布を避けると、格式高い雰囲気の室内でした。
品よく調えられた調度品と、壁や棚に飾られた装飾品で、落ち着いた空間が演出されています。
「シリウしゅ、めがさめちゃったから、おへやたんけんちてもいぃ?」
『構いませんよ。私が動くと、ラメル様達を起こしてしまいますから、アルタイルと行ってくださいな。
知らぬ場所では、1人になっては、いけませんよ』
「ぁい。アりゅタイゆ、いっちょにたんけんちましょう!」
シリウスの許可を得て、もそもそとベッドの上を移動します。
小さな声で、誘いをかけて、ベッドから下りようと思いましたが…。
「ぁにゃ? たかいねぇ……にょ!?」
思いの外高さのあった床までの距離を、どうやって下りようかと考えていたら、襟首を咥えてシリウスが下ろしてくれました。
『これで良いでしょう?』
「あぃがと~ぉ」
シリウスにお礼を言って、アルタイルに手を差し出せば、腕を伝って頭に登ってくれます。
「いってくりゅね♪」
シリウスの鼻先に抱き付いて、頬擦りしてから離れます。
レグルスがもう一人のお父さんなら、シリウスはもう一人のお母さんですね。
優しくて暖かい。
お姉ちゃん達を起こさない様に、そっと寝室の扉を開けます。
扉の向こうは、応接間かな?
暖炉の側にはソファとローテーブル。小さめの書棚と小さな文机。
硝子扉の窓際には、ティーテーブルと椅子が二脚。
窓の外には、整えられた中庭らしき風景が広がっています。
色んな花が、色とりどりに咲き乱れ、昨日の花畑を思い出します。
あの場所とは違う、人の手で造り上げられた美しさだけど、気持ちを和ませる優しい色彩に変わりはありません。
「きれ~ぃ♪」
『ん~、そだね♪ 僕は、天然の花園のが好きだけど~、庭園は庭園で綺麗だね~♪』
窓の硝子に貼り付く様にして外を眺める私に、アルタイルも楽しそうに同意してくれます。
アルタイル達契約獣は、元々自然の中で生きる、逞しくもしなやかな種族が多いです。
なので、人工的な物より、自然のままに在る物を好むのです。
窓から離れ、書棚へと近付けば、文机の上にグラスベルを見付けました。
「アりゅタイル~、コレなぁに?」
『ん? ああ。“呼び鈴”だね~。それを鳴らすと、この家の人間……え~と、使用人? だっけ? が来るはずだよ~。
貴族の家って、隠し部屋とか~隠し通路が在るらしいんだけど~、勝手に探ったりすれば~、間諜とか~密偵とかかって~疑われるんだって~。嫌だねぇ~』
………。
アルタイル……微妙に毒舌?
アルタイルは貴族の人が嫌いなのかな?
『そんな風に疑われるのを~回避するために~、部屋から出る時は~、呼び鈴を鳴らして~、その家の人間を呼ぶんだよ~』
「そっかぁ~。じゃあ、こうきしんで、ならしちゃダメだねぇ」
『鳴らしたいなら、鳴らしてみれば? お茶とかジュースくらい、用意して貰えるかもよ?』
「ん~ん。いらにゃい。のみものなら、まじっくばっぎゅにあるし、だれかがきたら、ねぇねたちがおきちゃうもん」
*~*~*~*~*
目覚めた客室の応接間で、ホットミルクを飲みながら、待つ事数分。
お姉ちゃん達が起きたので、呼び鈴を鳴らして、案内してくれる人を呼んでみました。
「御初に御目にかかります。当領主邸にて侍女長を勤めます、ミランダと申します」
呼び鈴を鳴らして暫くしたら、背筋の伸びた、凛とした女の人がやって来ました。
落ち着いた空気を纏い、優雅な所作で挨拶をしてくれたのは、お母さんより少し歳上の、綺麗な栗色の髪のミランダさん。
「はじめまちて、ユナです!」
お姉ちゃん達が挨拶と自己紹介をするのに倣って、私も笑顔でご挨拶です。
ミランダさんは、微笑ましげに私達を見回し、早速おもてなしをと言われましたが、先にお願いをしてみます。
お姉ちゃん達と相談して、起きた以上は、お父さんと合流する事にしたんです♪
間の良い事に、お父さんの方もレグルスによるお説教が終わり、ご領主様と面会するらしいので、その場までミランダさんが案内してくれる事になりました。
*~*~*~*~*
と、いうことで、冒頭の通り、ミランダさんの後に付いて、お父さんの元へと向かっています。
お兄さんズは、あとから合流するらしいです。
怪我してないといいなぁ。
ところで、アルタイルは私の頭の上で寝てません?
念話が途切れてる上に、ちまっと丸まって、微動だにしないんですが……。
起きてますか~?
………寝てますね。
アルタイルって、バランス感覚いいなぁ…。