突然の出会いと、緊急要請。絶対、助けます!
説明文の中に、動物愛護に携わる方には、ちょっと悲しい表現があるかも…?
作者は、小型犬と暮らしているので、迷子や捨て子にちょっと敏感です。
とはいえ、行動に移せるほどの積極性は無く、一緒に暮らす子を大事にしたいなぁと思う程度です。
さて、はて、ふむむ。
私の目の前には、可愛い可愛い三毛猫さんが…。
食堂での騒動も収まり、只今移動中です。
ギルド長執務室に戻って、モル兄とセレスさんも交えて、大事なお話があるんだって。
移動に時間がかかれば、それだけ街中散策に出る時間が遅くなるので、私は大人しく抱っこされてますよ?
ところで。
街中では、動物の姿はあんまり見掛けません。
小さな動物は、疫病を運ぶ事もあるので、清潔に保てる“愛玩動物”や、レグルス達の様な“契約獣”は、稀とはいえ見掛けますが、“野生動物”は街中に放置される事はありません。
なのに、私の目の前には、三毛猫さん。
法律で、愛玩動物を“捨てる”のは禁止されているので、街中に捨て犬や捨て猫もいません。
ただし、やっぱり抜け道というか、逃げ道というか、法律の隙間は存在していて、“捨てる”事は犯罪でも、“野生に還す”のは犯罪じゃないと言って、街の外に愛玩動物を放す人は居るみたい。
街の外には、魔獣の存在があるので、放された動物は大抵生死不明となります。
まぁ、リシャの森方面──私達のお家のある森の方向──に放されていれば、生存確率はかなり高いのですが…。
それは兎も角、話を戻すと、野良犬や野良猫は街中にいる筈が無いので、あの猫さんは……多分迷子……です。
………。
と、思考が逸れてる間も、三毛猫さんはこっちを見てますね。
ぁ、目が合った…。
「……にゃあ」
抱っこで運ばれてきた私より、ほんの少しだけ低い位置に居る三毛猫さん。
どうやら、木登りの後で降りれなくなってる模様。
3階の窓を挟んで、内と外とで視線が交差しています。
私を抱っこしているお父さんが、良い位置で足を止めているので、はっきりバッチリ目が合ってます。
「…にゃん、にゃあ」
「ユナ? 猫の真似は可愛いけど、突然どうしました?」
木を見つめて突然鳴き始めた私に、クリスお兄ちゃんが声をかけてくれます。
抱っこして運んでくれているのは、お父さんなのですが、会話をしやすいのは、視線の高さが揃うお兄さんズなのです。
お兄さんズは、お父さんより頭1つ分か、それより少し低いくらいの背丈なので、お父さんに抱っこされると、ちょうど良い高さなんだよね♪
それは良いとして、お兄ちゃんは猫さんに気が付いてません。
お兄ちゃんの位置だと、微妙に壁が邪魔なのかもです。
「にぃたん、にゃんこ~」
視線は三毛猫さんに向けたまま、木の上を指差します。
私の指と視線の先を確認し、クリスお兄ちゃんも驚きます。
「あ、本当だ。猫だね。迷子かな?」
「まいご…」
やっぱり、迷子ですよね…。
どうしましょう。
迷子って事は、意図せず飼い主さんとはぐれたか、冒険しようとしてお家が分からなくなっちゃったって事ですよね?
家族の元に、ちゃんと戻れるんでしょうか……。
迷子の事実に、三毛猫さんの最悪の結果を想像して、悲しくて泣きそうです。
出来る事なら力になりたいのですが、三毛猫さんは木の上ですし、私はお父さんに抱っこされたまま。
お互い自立行動が不能の状態みたいです。
「ん~、あの猫、降りれなくなってるのかな…。人見知りせずに大人しくしててくれれば、助けてあげられるんですが…」
「『猫さん、助けたいので、大人しく抱っこされてくれますか?』」
気持ちを込めて、鳴いてみます。
スキル【獣契約】に含まれる、通常スキル【意志疎通】と、上位スキル【念話】が発動したのか、三毛猫さんに言葉が通じたみたいです。
びっくりして目がまん丸になってますよ?
『たすけてくれるの?』
ぁ、鳴き声が言葉に聞こえます。
動物の言葉が分かるのは、助かります!
「わぁお! 可愛い~♪ 三毛猫♪」
「ん? なんだ? 迷子か?」
「…猫…」
お姉ちゃん達も、三毛猫さんに気が付きました。
窓下の壁に貼り付く様にして、背伸びしながら窓の外を確認しています。
でも、今は三毛猫さんが優先ですね。
「『勿論! 助けたいだけだから、爪をたてたり、突然動いたりしないで…』」
『わかった…はやく、たすけて!』
悲しげに助けを求めて鳴く声は、大分掠れていて、長い時間助けを求めていた事が彷彿されます。
鳴きすぎて力尽きていたのかも知れません。
助けてくれる相手を見付けて、三毛猫さんも必死です。
「にぃたん、にゃんこさん、あばれないって! おとなちくしてるきゃら、たしゅけてって!」
「え!? え! ユナ、猫の言葉が分かるの!?」
「ユナは、【意志疎通】のスキル持ちだから、何と無く解るんじゃないかな」
お互いの意思確認を終え、急いでクリスお兄ちゃんに告げれば、確信を持った私の言葉に、お兄さんズやモル兄達が驚愕します。
モル兄と話していたはずのお父さんが、私の所持スキルを教えれば、皆納得しました。
通常スキルである【意志疎通】は、割りと知られている技能なので、隠す必要は無いです。
本来は、他人に所持スキルを教えるのは、自殺行為だと云われますが、通常スキル…それも、珍しいものでなければ、結構あっさり公開する人も多いです。
「暴れないなら、俺が助けるか?」
「いえ、僕が行きます。慎重を期す救出は、エディには向かないでしょ?」
俊敏な動きを自認するエディ兄さんが申し出てくれましたが、クリスお兄ちゃんが却下します。
確かに、エディ兄さんは俊敏な動きをしますが、性格的に少々雑な所があります。
なので、慎重を期す様な行動は、あんまり向いて無いのです。
ぁ、でも、急を要する救出には、クリスお兄ちゃんより、エディ兄さんの方が向いてますよ?
動物愛護の精神において、表現に不快感があった方には、この場を以て御詫び申し上げます。
申し訳ありませんでした。
触れ合える動物は家族。
そんな考え方が出来るのは、幸福だと思います。