87.ボーナスステージ
魔物混成軍とアキトたち人間軍が衝突するまで1時間弱となった現在、アキトたちは建築中の砦内で一箇所に集まり休憩をしている。
アキトは[知識の書]で魔物軍の勢力、動きを細かく見ながらボソッと呟いた。
「これってボーナスステージじゃないか? 」
アキトの呟きを聞いたヨンが反応する。
「ボーナスステージって? 」
「んー、その前にヨンとアカリのステータス確認させてくれ」
「いいよー」
「わかった」
アキトはヨンとアカリにそれぞれ紙を渡し、ステータスを書き出させた。
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《名前》 ヨン ギルドランク:C
《称号》 なし
《ステータス》
ATK 8
DEF 8
VIT 8
DEX 5
INT 12 +17 +13 +150% +110% = 151
MEN 14 +150% +110% = 50
SPP 5
SPD 8 +10 +100% = 36
HIT 15 +19 +13 +170% +120% = 183
《加護》なし
《ジョブ》《弓王》Lv4《闇魔法》Lv2《上忍》Lv0
《司書》Lv3《銃将》Lv3
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《名前》 アカリ・オオツカ 奴隷
《称号》 腐女子の異世界人(INT、MEN最終計算値2倍)
《ステータス》
ATK 5
DEF 5
VIT 7
DEX 5
INT 18 +18 +15 +160% +130% = 198*2 = 396
MEN 18 +18 +160% +130% = 140*2 = 280
SPP 5
SPD 8 +10 +100% = 36
HIT 5
《加護》なし
《ジョブ》《光魔法》Lv3《闇魔法》Lv3《上忍》Lv0
《司書長》Lv0
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アキトはヨンとアカリのステータスを見ながら「やっぱり余裕だな」と呟く。
「俺のINTが今154なんだが、ギガファイアLv5を撃つと半径10メートルは最低でも吹き飛ぶ。ヨンのINT151でも同じようなダメージが出るだろうし、アカリのINT396とかもうどこまで吹き飛ぶかわからないよね、マジで」
「ふじょしのちから、すばらしい。アキトも、このすばらしきせかいに、めざめるべきだよ」
アカリは何故か胸を張っている。アカリはアキトを腐った世界に目覚めさせようとしているが一体どういう脳内をしているのかアキトは知るのが怖くなった。アキトはここで突っ込むと話が進まないので気力を振り絞ってスルーする。
「でだ。今回は俺とアカリ、ヨンの3人のギガファイアLv5だけで70メートルの幅を吹き飛ばせる。隙間が数メートルあったとしても吹き飛んだ死体の肉と骨の弾丸で即死するか重傷になるはずなのだよ」
アキトはドヤ顔で言い放った。ヨンは確かにその通りだと思ったが、疑問に思ったことを聞くことにする。
「でもうまく当てたとしても前進してくる1列、いえもっと後ろまで何列も吹き飛ばせるでしょうけど、相手2万弱もいるしすぐに接近されてひき殺されちゃうんじゃないの?ギガファイア再使用まで10秒かかるし、MENの消費も一発で10も持ってかれちゃうよ? 」
ヨンの指摘にもっともだ、とレンが頷く。
「ギガファイアの射程は50メートルほどあるよね?しかも長距離で撃つとファイア弾頭が重力に引かれて弓なりに落ちる。だから魔物の先頭が俺たちの前方40メートルほどまで近づいたタイミングで弓なりに最大射程でファイアを撃つ。すると魔物の先頭から20メートル範囲が吹き飛ぶわけだ。その間死体の爆裂で動きは鈍るし、重傷になった魔物が邪魔で進軍が鈍る。足をとられた魔物がさらに後続に踏み潰されることもあるだろう。10秒程度なら足止めになるはずだ。しかも今回俺たちはMENポーションを100本も持ってきている。腹がタポタポになって気持ち悪くなるかもしれないがMEN値切れの心配はない」
「はいはい! 」
レンが手を上げたのでアキトが質問の許可を出す。
「相手にもアーチャーとかメイジがいると思うんだけどそれの対策は? 」
「さっき[知識の書]で調べた限り、アーチャーとメイジは全軍の中にバラバラに配置されている。護衛としてレン、ダスカー、ピヨちゃんが弓と魔法を盾で防御すればなんとでもなるはずだ」
「はいはい! 」
さらにレンが手を上げたのでアキトが質問の許可を出す。
「一方的に倒したら態勢を立て直すために魔物軍も逃げて行っちゃうんじゃないの? 」
アキトはニヤリと笑いながら話しだす。
「それが今回のボーナスステージといえる所以なのだよ! 」
アキトはノリノリに話していく。
「ボスのジェネラルオーガは一番最後尾でゆっくり進軍してきている。軍と言うのはすぐには止まれない。しかも指揮官が最後尾にいるということは伝令が伝わるのも遅い。前が倒されても状況がわからない後方は進軍を続ける、状況がわかって逃げたい前方にいる魔物もこの狭い渓谷内だ、味方が邪魔で後ろに逃げることもできない。指揮官が撤退を全軍にいきわたらせる間にどんどん魔物がこちらに押し出されてくる。その間ボーナスステージが続くわけだ。相手の軍勢は人型タイプばかりで飛行タイプも堀を一息で飛び越えられる魔獣タイプもいない。俺たちは危険になれば魔物軍が堀を渡る前に後方の防壁上に逃げればいいという安全策までついている。これをボーナスステージと言わずしてなんと言うのだ! 」
一息で言うには長すぎたようだ、アキトは顔を真っ赤にしてゼーハーゼーハ言っている。数分してアキトの息が整ったようだ。ヨンが気になった点があったのだろう、アキトに指摘してくる。
「じゃあなんで軍の人はその戦法を使わないの? 」
「鑑定スキルで見ればわかるけど軍の魔法兵のレベルは俺たちほど高くないよ。せいぜいメガファイアLv1か2を撃てる程度で範囲も威力も段違いだ。しかもMEN値が低いからメガファイアも何発も撃てないし、MENポーションの回復量も高が知れてる。人数が多くても魔物を一方的に倒し続けることは出来ないから同じことは出来ないことになる」
「なるほどー」
アキトは全員に作戦の内容を細かく伝え、魔物軍が来るまで時間が少し余ったのでトマスに会いに行った。
「トマスさん、MENポーションと大盾もらえますか? 」
「アキト君か、大盾は持っていっても構わないがMENポーションは高価なものだからな、先ほどみたいに緊急性が高い状況ならともかく現在は渡せないんだ。すまないな」
「そうですか、では大盾だけで結構です」
アキトは大盾を4つほどもらう、レンとダスカーにも予備を渡すためだ。
「俺たちのパーティーが先陣を切らせてもらいますがいいですよね? 」
「あ、ああ、構わないが俺たちは防壁上や砦での防衛戦だぞ。先陣とはどういう意味かな? 」
「俺たちのパーティーは堀と第一防壁の間に陣取らせてもらいます。魔法で出来るだけ蹴散らしてきますよ」
「そうか・・。でもそれは凄く危険ではないかね?堀があったとしても相手は2万規模だ。轢き殺されるぞ」
「危険になったら逃げるから大丈夫です。ご心配ありがとうございました」
「ああ、気をつけてな」
アキトはお礼を言いながら堀の手前に向かうのだった。




