84.領主との対談
5月17日6時半、アキトたちは朝食をとっている。
「今日は1人で領主様のところへ行ってくる。皆はとりあえず屋敷で待機していてくれ。俺が帰宅次第今日の予定の指示を出すつもりだ」
「「「了解! 」」」
「畏まりました、旦那様」
「ピヨちゃんも今日はお留守番よろしく」
「わかったでござる」
アキトは食事をすませ、領主様の屋敷に向かうことにする。屋敷から出るときクロエに手を引かれてやってきた幼女ミリルが手を振りながらいってらっしゃいと言ってくれたのはかわいかった。
時刻は7時40分、アキトは領主の屋敷にある庭の門前に到着した。門前に立っていた2名の番兵に挨拶する。
「領主様に指名依頼で呼ばれたアキトと申します。お取次ぎください」
「アキト様ですね、承っております。ご案内致します」
番兵の1人がアキトの案内をしてくれるようだ。アキトは案内に従い歩きながら周りを観察する。アキトが購入した元男爵屋敷と比べて10倍以上の敷地面積があるのだろう、庭の広さが段違いで馬車が通れるように道が整備され中央には噴水がある。10分ほど歩くと色とりどりの花が植えられた花壇に囲まれた3階建ての屋敷の入り口に到着した。番兵がノックするとすぐに長身でキリッとした顔立ちの40台男が出てくる、おそらく執事だろう。
「アキト様をお連れしました」
「アキト様ですね、ここからは私がご案内致します」
番兵から執事へ引継ぎがされたのだろう、番兵は門へと戻っていき、アキトはキビキビとした動きの執事の案内についていく。少しして執務室だろう場所へ案内された。コンコン!執事が部屋をノックする。
「入れ」
アキトは執事の先導で部屋に入る、常に空間感知で半径10メートルほどを探りながら移動しているわけだが、部屋の上部に3人4隅にそれぞれ1人ずつ空間感知に反応がある。4隅にさりげなく目をやるがアキトの目には誰も見えない。最低でも遮断が使える上忍ジョブ以上をとっている護衛がいるのだろう、いきなり襲われることはないだろうがアキトの警戒心は最大になっている。目を正面に向けると身長2メートルほどの筋肉隆々で鋭い目をした40代大男が椅子に座ったままテーブルの上で腕を組み、アキトを観察していた。
「良く来てくれたアキト君。俺がこの街の領主、アルバート・グレイだ」
「初めまして領主様。今日は私に指名依頼があるということでしたのでお伺いしました」
すでにアキトはさっさと話を終わらせ帰りたくなっている。
「そうだな、だがまずは少し話をしようか。君は先月の20日頃にこの街にやってきてすぐにギルドへ登録、瞬く間にCランクまで上り詰めた、いやすでにそろそろBランクに上がるらしいな。ここまでのランクアップ速度はこの街始まって以来最速と言っていいほどだ。さらには街中でのCランク相手の戦いでは相手を瞬殺、盗賊団を捜索時間込みで数時間で壊滅させたりもしている」
アキトのことをある程度調べているらしい。アキトはさらに帰りたくなっている。
「君は空間使いとしての力以外にも、その若さに似合わないほどジョブレベルをあげているね?一体何をしたらその強さを持てたのか私は気になったのだよ」
「特に大したことはしていませんよ。小さな頃から魔物狩りを毎日のようにしていただけです。ギルドに入った時点で今の力と大差ないだけ鍛えてきましたので効率よく狩りをした結果ランクが上がっただけです」
アキトは称号のことを正直に答える気はさらさらないので誤魔化すことにする。
「私にはそれだけには見えないな。君からは年齢以上に経験を詰んだ強者のにおいがするよ。この部屋にいる護衛の存在にも気がついているようだしな」
「それは空間使いの力で感知しただけですよ」
「まあ言いたくないこともあるのだろう、今日の本題に入るか」
一般的な空間使い(空間使いはこの街にアキト以外いないほど希少)は魔法使いタイプに発現するためMEN値の大半を攻撃や回復魔法に使う、そのためゲートやアイテムボックスを使うだけしかできないジョブとして考えられている。アキトのように索敵にまで使う者は今までいなかったためアルバートもアキトの誤魔化しとしか受け取っていなかった。
「今から2日後、この街の東門から15キロほどにあるミスリル鉱山にいる魔物の軍勢を討伐するために冒険者、騎士含め5000名以上を投入する軍事行動を起こす。その際に空間使いのゲートを使用し物資や兵士の運搬がしたい。それ以外にも今後私の部下として空間使いの力を利用したい。今回の運搬任務では報酬を1000万、部下として仕えるのなら月5000万出そう。どうだ? 」
「話になりませんね」
アキトはアルバートの依頼を切って捨てた。それを聞いたアルバートはアキトを睨んでいる。
「どういうことかね? 」
「そもそも今回の軍事行動ゲートを使用しなければ移動に1日程度かかるはずです。その際の費用として数億ポロンかかります。時間と体力と費用、全て解決できるゲートの値段としては安すぎます。また、私のパーティーは1日で5000万稼げますので話になりません」
「なるほど。確かに報酬は安いのだろう。だが私は領主であり、君に命令する権限がある。それでも断ると? 」
「今回の軍事行動に関しては断るつもりはありませんよ。それでも報酬が安すぎますので上げてください」
アキトはアルバートを逆に睨みつけるように見つめる。
「わかった、報酬は倍の2000万にしよう。これは私の誠意だ、これ以上は無理だ」
「ありがとうございます」
「ふん、それで仕官の方も倍にすれば受けてくれるのか? 」
「そちらはお断りします」
アルバートは驚いたようにアキトに問う。
「何故だ?確かに収入は減るだろう、だが冒険者と違って安全な仕事で月1億ポロンは破格な報酬だろう? 」
「私には目的がありますので」
「目的とは? 」
「強くなり魔物勢力を押し戻すことです。この街の危機であればできる限り力になりましょう。今回の件にしてもそうです。ですがそれ以外に私は領主様から依頼を受けるつもりはございません」
アルバートは唸りながらアキトを睨む、アキトも逆にアルバートを睨みつける。
「私の役に立たないなら街から追い出すとしてもか? 」
「はい、それなら他の街に行きましょう」
「お前の仲間を人質に取るかもしれんぞ? 」
「そこまで領主様が腐ったお方なら例え仲間全員が殺されたとしてもあなたを斬り捨てましょう」
アキトは本気で言っている。それがアルバートにもわかったのだろう、アルバートの眼光が力を失った。
「俺の負けだ、お前に無理やり言い聞かせるのは無理そうだな。街から追い出すことも人質を取ることもやめよう。そちらの方がメリットがある」
「お互いにそうですね」
ハハッとアキトとアルバートはお互いに笑いあった。アルバートはアキトのことを認めたようだ。
「仕事の内容はこの紙に書いてある。明日の朝8時、東門に集合だ。どうせだ、護衛として仲間も連れていけ。その分の費用は出さないがな」
「わかりました。ケチですね領主様」
「ほざけクソガキ、しっかり仕事しろよ」
アキトはアルバートと最後に軽口を言い合い、自分の屋敷に帰るのだった。
 




