第八話 ため息
西宮が女子高校生と連絡を取り始めてから一ヶ月が経とうとしていた。
最初は一日遅れだったた返信も、今は一日に何度も。
・・・俺は彼女にのめり込んだのだろうか?
携帯のウィンドウを呆けたように見ている西宮に大塚が言った。
「西宮、今は勤務中だぞ。メールなんかしている暇はないだろう。
早く処理をしろ。」
処理とは書類整理である。
西宮はばつが悪そうに慌ててデスクワークに取り組んだ。
書類をチェックする西宮は、
一時間ほど前にきたメール内容を思い出していた。
「私、この間、学校に行きました。すごく楽しかったです。
友達も先生も喜んでくれました。
心配してくれてありがとうございました。
私、もう大丈夫みたい。
だけどまだメールは続けさせてください。」
彼女がどういった経緯で引きこもったのか、理由はわからない。
しかし西宮はメールを通じて、彼女を「知って」行った。
母親はすでに他界。父親と二人暮し。
家事全般をこなしていること、そして人には言えない、
恐怖を経験した事。それゆえに、他人に会うのが怖くなった事。
西宮は幾度とないやりとりで、彼女を励まし続けた。
時に厳しく、その数倍優しく。
彼女とのメールのやりとりで、一番変ったのは彼自信だろう。
勤務中にぼんやりしたり、それ以上に熱心になったり。
それは同僚達の話題になっていた。
「あいつ最近なんだか生き生きとしていないか?」
「彼女でも出来たんじゃないの?」
「俺は出来たって聞いたぞ」
「えー、あの仕事人間のつまんない男に彼女??」
「彼女じゃなくて水商売のオンナらしいぞ」
そんな噂が飛び交っていることを西宮は知らない。
西宮は彼女に「逢ってみたい」と思うようになっていた。
メールをみているだけで、まだ見ぬ彼女が愛しくなる。
この感情はなんだろう・・・
西宮は思う。想う。
不思議で仕方ない。
仕事人間のこの俺が・・・
こんなになんで苦しくて切ない・・?
西宮は席を立った。
そして足早にトイレに行く。
その後姿を石塚はやれやれといった顔で見送った。
トイレの個室に駆け込んだ西宮は即座に携帯を取り出した。
「逢ってみないか?」
ただ一行だけ。たった一行だけ。
それだけ打ち込んだ。
西宮はそれをじっと見つめた。
それから送信を押す。
大きく息を吸い込んだ西宮は、
まるでため息のように吐き出しながら、トイレを後にした。