第六話 交差する世界
西宮は、日々発生する事件・事故に奔走していた。
刑事になって一年目。
まだまだ新人だ。
その新人が最初に目にした事件が「女子高生刺傷事件」だった。
それまでは、痴漢や窃盗などに関与はしていたのだが、
目の前で起こった現実に、対処のしようがなかった。
自分は未熟だ。
そう考えるようになっていた。
今日は同い年で、同僚で同期の石塚と
仕事帰りに立ち寄った居酒屋で一杯やり始めた。
石塚は「少年課」に配属している。
「お前、まだあの子を気にしてんのか?」
石塚はビールをぐいと飲んで西宮に尋ねた。
「あぁ・・・」
西宮はグラスに目を落とした。
「あの子はもう退院した。命に問題はないんだ。
なんでそんなに気にしてるんだ?」
「退院したことは知っている。
今は引きこもっているそうだ。
・・・・外を歩くのが怖いんだそうだ。」
「そうか・・・そいつぁ、仕方ないなぁ。」
「何とかして励ましたいのだが・・」
「それはだめだ。」
石塚はごくりとビールを飲み干し、
おかわり、と再オーダーをした。
「もう事件は終わっている。
犯人は捕まったんだ。
捕まっていなかったら
身辺保護で接触できたのかもしれん。
だけどな、事件は解決したんだ。
犯人は捕まったんだ。
彼女は同じ犯人に襲われたりしない。
不必要に被害者との接触は禁止事項だろう?」
「それはそうなんだが・・・」
「お前は相変わらず煮え切らねぇなぁ」
石塚はビールが運ばれると喉を鳴らして飲み干した。
「いや、仕事の後の一杯はうまいね。」
石塚は満面の笑みを見せた。
「そうだな。」
西宮は弄んでいたグラスを
一息で煽り、再オーダーした。
「西宮、大体お前は真面目過ぎるんだよ。
ちょっとくらい遊んだらどうだ?」
「遊ぶってなんだよ?」
「お前は女遊びもした事ないんだろ?」
「そんなの人の勝手だろ?」
「まぁ、そうだけどな。」
「なぁ、出会い系って結構面白いぜ」
「はぁ??」
「別に会わなくったっていいんだ。
メールでやりとりして・・・
まぁ『メル友』感覚だな。
飽きたら返信しないで無視すりゃぁいいし。」
「・・・・。」
「あ、携帯はそれように作ったほうがいいよ。
『足がつかない』ようにしないとな。」
「・・・・。お前、そんな事して遊んでいるのか?」
「ま、たまにな。」
悪びれる素振りも見せない石塚に、
半ば呆れた西宮は急に帰りたくなってしまった。
「悪い、俺、帰るわ。」
「もうかよ。しかたねぇな。
んじゃ、俺も帰るとするか。」
店を出ると、夜の街は賑やかに華やいでいる。
駅前まで来ると、石塚の携帯をいじりだした。
「今、お前にメールにサイトのアドレス付けて送ったから。
暇なら見てみ。世界が広がるぜ。」
じゃあな、と言って石塚は改札をくぐって行った。
西宮の携帯が鳴った。
石塚からのメールだ。
西宮はため息を一つこぼした。