第五話 出会いの予感
事件から一ヶ月が過ぎた。
私の腕と背中の傷は致命傷ではなかったが、
しかし浅い傷でもなかった。
私は手術後、一週間程目覚めなかった。
それはミカと唯が怒ったように教えてくれた。
「もう目を覚まさないかと思った。」
ミカが目を吊上げた。
「ほんとに心配したんだからね。」
唯が口調を荒げた。
私の傷は医者の配慮により、
ほとんど痕が残らないように縫合された。
今は残っている傷痕も、
私が成人する頃には消えているはずだと
断言までしてくれた。
私は三週間ほどで退院した。
しかし私は、退院するのが嫌になっていた。
世間は「私の事件」を知っているからだ。
哀れまれるほど、惨めな思いはしていない。
私は生きているから。
けれど、世間は「哀れみ」という名の目線を
きっと痛いほど投げつけてくる。
私は「可哀想」なんかじゃない。
考えすぎだ。自分自身に言い聞かせ、
私は退院した。
そして私は私の事件の内容を知ることが出来た。
私を襲った男は、精神を患っている患者だった。
事件の数時間前に病院を脱走した。
脱走理由や人を襲った理由については
「意味不明」な事を話したそうだ。
私は確かに刺された。
しかし私は生きていた。
生きていたから名前は公表されなかった。
被害者といえども死者ではない限り、
警察は名前を公開しないのだそうだ。
生者には未来があるから。
そして学校側も配慮をしてくれた。
警察から連絡を受けた学校は、
すべてにおいて対策を練った。
マスコミ、生徒の保護者、PTA。
校長と先生達とPTAの話し合いにより、
私の事は生徒達にも伏せられた。
他の生徒を動揺させたくない事と
後々、私が登校しやすいようにと。
私は病気により長期欠席扱いになっていた。
ありがたかった。
しかし私は家に閉じこもった。
人の目が怖くなってしまったからだ。
父は、そんな私を気遣ってくれ、
「お前の好きにしないさい」と言ってくれた。
ありがとう。
家のリビングの窓から、激しく降る雨を見ていた。
少し肌寒い。なんだか人恋しい。
携帯をいじりだす。
メールを見ると、未開封のメールが一つあった。
到着日は私が刺された日。
時間はその数分前。
ミカからだった。
そこには「出会い系」のURLが記載されたいた。
私はためらうことなくクリックした。
注意書きを読み、
他の投稿者の書き込みを読む。
それから投稿。
「私は15歳。女子高生です。
嫌なことがあって、今引きこもってます。
誰か友達になってください。よろしくお願いします。」
こんなもんかな。
返信くるかな。
でももうちょっと女の子らしく、
絵文字とか入れたほうがいいのかな。
まあ、いっか。
私は期待と不安が入り混じった気持ちで、
送信を押した。