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16歳  作者: くーとん
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第四話 運命の歯車

「お巡りさん!!

そこのスーパーの所で男が包丁持って暴れてる!!

早く早く早く助けて!!」


交番に入ってきた中年の女性が、

息もつかずにわめいた。


署内に居たすべての署員が彼女を見た。


緊張が走る。


全員が彼女の表情・仕草・言動で、

「嘘」を付いていないと判断した。


「西宮!」

大塚刑事が名を呼んだ。


「はい!」

西宮と呼ばれた青年は威勢の良い返事を返した。

身長は180CMはあるだろう。

大柄だが、端整な顔立ちをしている。


「沢尻署長、我々二人が見てきます。

応援を本署に連絡して下さい。」


沢尻がうなずくのを待たずに大塚が、続けて西宮が駆け出して行く。


急がねばならない。大塚は思った。

事態は一刻を争うはずだ。



二人とも走り出した。

この辺りにスーパーは一箇所しかない。


五十メートルほど走れば辿り付ける。


やがて目前に迫るにつれ、人だかりが目に映り始めた。

悲鳴や罵声が聴こえる。


更なる緊張が二人を包む。


人だかりを押しのけ進み出ると最悪な光景が眼前に広がった。


男が人に馬乗りになり、包丁を振りかざしている。


容赦なくそれは振り下ろされた。


弾丸のように大塚と西宮が飛び出した。


「やめろぉーっ!!!!」


大塚の叫びも虚しく再び振り下ろされる。


三度目、それが振りかざされたとき


大塚が男の襟首を掴み、地面へと叩きつけた。


「お前はガイシャを見ろ!」


「わかりましたっ!!」


西宮はその被害者を見て息を呑んだ。



「なんてこった・・・」


若い高校生だ。


蒼白な顔を見ながら、彼女の脈を探った。


まだ生きてる。



西宮は携帯を取り出し、本署へ電話をした。


事態が緊迫している事と救急車の要望を告げる。


ふと見ると、

二人の高校生が恐る恐る近づいて来るのが分かった。

何やら名前を叫んでいる。

西宮はそれで被害者少女の名前を知ることが出来た。

その彼女に寄り添って、二人の少女はお互いハンカチを取り出し、

刺された傷を押さえ始めた。

そして、わめくように泣き始めた。


西宮もそのまま手を握り続けた。

この暖かさが消えないように、祈りを込めて。







地面に叩きつけられた男はすぐさま体勢を整え、

フェンシングのように包丁を大塚に突き出していた。


大塚は武器になるようなものは持ってきていなかった。

拳銃は本署に置いてきている。

迂闊(うかつ)だった。

刑事のくせに拳銃を持って歩かないとは・・・

(こりゃぁ、帰ったら始末書だなぁ)


大塚は緊迫した状況下の中、漠然と考えていた。

しかしなす(すべ)がない。


(どうすりゃいいんだ・・・)


と、男に黄色いカゴがぶつけられた。


見るとスーパーの従業員が、

来客用の買い物カゴを投げつけた様だった。


それは一つではなく、二つ目三つ目と力任せに投げつけていた。






西宮は成り行きを見ていた。

大塚は柔道九段の持ち主である。

対人格闘で負ける事はない。

しかし今回は、相手が凶器を持っているため

加勢に加わろうと思っていたのだが、

どうやら窮地(きゅうち)は脱したようだ。


西宮はふと被害者の顔を見た。


被害者は目を覚ましていた。その瞳に生気はない。


何かつぶやいたが聞き取れない。


二人の少女はわめき始める。


凝視するように彼女を見ていると、


「お父さん、ごめんね」


つぶやくように言葉がこぼれた。


思わず強く、手を握ってしまった。


少女の瞳は静かに閉じられた。


二人の少女の絶叫が響いた。





カゴを投げつけられて、


包丁を持っていた男は、顔と頭をかばう様に両手で防いだ。


救急車のサイレンが遠くから聴こえる。


男の動きが弱まった。


大塚はこのチャンスを逃さなかった。


男に飛び掛ると、包丁を持っている手をねじり上げた。


そして地面へと再び叩きつける。



男はもう抵抗は出来ない。


今度は腕をねじり上げている。


こいつはもう、逃げられない。


大塚の絶対の自信だった。


そのとき、少女の絶叫が聞こえた。


苦痛に歪む、容疑者の顔を見ながら


「ガイシャはどうなったんだろう・・・」


腕をねじり上げながら、大塚はぼんやりと思った。









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