第三話 暖かい手
遠くで私を呼ぶ声がする。
誰?もう少し寝させて。
呼び声は私の名前を叫び続ける。
嫌。起きたくない。寝て居たいの。
身体を揺さぶられた気がした。
まぶたが重い。
光がまぶしい。
私は目覚めた事に気が付いた。
ミカと唯が泣き喚いている。
私は・・?
ああ、そうだ。
私、刺されたんだ。
病院でもなく救急車でもない。
コンクリートの上。
まだ「現場」に横たわっていた。
腕も痛いし背中も痛い。
私の手を、誰かが握ってくれていた。
ミカと唯ではない。
大きくて暖かい手だ。
安心してしまう。
私は眠りたくなった。
とてもだるくて疲れていた。
それに、誰かはわからないけれど
重なり合っている手の平から
優しさが伝わってきて、心が安らいでいた。
目を覚ました私を、
ミカと唯は寝させまいとして
私の耳元で何かわめいていた。
「・・大丈夫だよ。」
精一杯、声に出したつもりがったが
逆に彼女達を混乱させたようだ。
さらに泣きじゃくってしまった。
男性達の罵声や怒声が聞こえる。
喧嘩でもしているのだろうか。
そんな考えも、
救急車のサイレンでかき消された。
お父さん、ごめんね。
今日、ご飯作れない。
ひょっとしたらもう、会えないかも。
涙が出てきた。
私は嗚咽を漏らし泣いていた。
「お父さん、ごめんね」
泣きながら思わずつぶやいた。
私の手を繋いでる、誰かの手が、
一瞬、ぎゅっと力が込めて握ってくれた。
私は深呼吸をした。
もう一度、深呼吸をした。
そして私はゆっくり、まぶたを閉じた。