第十話 レイプ
やっと出会うことになった西村。
急いで待ち合わせの場所に向かうのだが、
そこに彼女は居なかった。
謝罪メールをする西村。
しかし、人影見当たらぬ場所で鳴り響く誰かの携帯。
どこで鳴っている?
どこかで鳴っている。
探した西村が見た、その誰か。
西宮は彼女からの「会ってもいい」、
という返信メールに対し、鼓舞している自分に驚いた。
それでも、予定日と時間を返信する。
「ありがとう。では三日後の、金曜の18時に、
ビジネスホテル「しぶざ」の裏で待っています。
俺は紺のスーツで、白地に青のストライプのYシャツ。
ネクタイは薄い黄色で行きます。」
早く会いたい。
胸に洪水のように流れる「ときめき」に、西宮は身を委ねた。
西宮の脳裏から、「女子高生刺傷事件」の被害者は消え失せていた。
そして三日後。
予定時刻を40分も下回ってしまった。
緊急会議が長引いてしまったのだ。
あいにく、携帯電話は充電切れだ。メールで連絡する事が出来ない。
足早に署を出てタクシーへ乗り込んだ。
待ち合わせの場所へ向かう途中にコンビニで
簡易充電器を買い求め即座にメールをする。
「すまない。仕事で遅れてしまった。
今、向かっている。」
西宮はそのまま携帯を握っていた。
すぐに返信がくる。そう思っていた。
一分、二分、・・・そして五分が過ぎて
西宮は携帯を背広のポケットへ滑らせた。
「嫌われてしまったな・・」
やっと辿り着いた待ち合わせの場所。
ロビー前でタクシーを降りた。
「しぶざ」の裏は、18時半を過ぎると人通りが少なくなる。
待っていてくれるだろうか・・・
いや、帰っているだろう。
いっそのこと、帰ってくれていてほしい。
期待と不安を募らせながら、急いで裏口へ走りこむ。
誰も・・誰もいない。
誰も居ないか・・・
そうだよな・・
携帯を取り出し、ふたたびメールをする。
「ごめん。今、着いたとこだけど、
帰っちゃったんだね。当たり前か・・・
こんなに遅くなってしまったから。
またメールします。」
そして送信・・・
西宮は夜空を見上げ、肩を下ろした。
そのとき。
かすかに何かの音が聞こえた。
空耳かと思うくらい弱々しい。
ずっと鳴っている。
西宮は辺りを見回した。
人影はない。
ふと目に止まった裏口の隣。
倉庫とプレートが張ってある、扉の中から聞こえてくる。
西宮はその扉の鍵が壊れているのを確認した。
携帯の着信メロディが洩れて聞こえてる。
誰かが忘れていったのか・それとも落として行ったか・・?
念のため、ハンカチで手を覆い引き戸の扉を開ける。
開けるや否や、携帯のメロディは激しく聞こえ始めた。
空間いっぱいに鳴り響き、壁に跳ね返って共鳴している。
倉庫内の天井に非常灯のような淡い照明が付いていた。
しかしほのかに薄暗い。
椅子やテーブルが壁際に陳列されている。
掃除用具やゴミの入った袋もある。
そしてなぜか靴が片方、転がっている。
更にはハンドバックまで・・・
携帯はどこで鳴っているんだろう。
どうやら、壁際の椅子とテーブルの間、
そこでなっているようだ。
西宮は意を決して、そこを覗き込んだ。
「!!!!!!!!」
目の前には、激しく乱れた髪と、
殴られたであろう、頬が腫れていて、
上半身の衣服は破かれ、
下半身はむき出しで、
しかも陰部から出血し、内股をつたって靴下まで染めていて、
片方の靴は履いてなく、しかし手には鳴り止まぬ携帯を、
握り締めている少女が、壁にもたれるように立っていた。
その瞳に生気はない。
西宮は、その顔を見て驚愕した。
あの時の女の子だ!!
着信音が鳴り止んだ。
なぜここに居るんだ・・!!
そして少女は崩れるように倒れた。