壁と同化した少女
「嗚呼、やっと見つけた……」
私は壁にそっと頬擦りする。壁はゴツゴツしているから頬が少し痛いが、その痛みすら愛おしい。
私は壁を愛している。
昔、私も多くの人間と同じく、望みに向かって壁に挑戦する者だった。だが、私は気付いてしまった。壁を見る度、胸を高鳴らせる自分に。壁にかき乱される自分に。壁を愛してしまっている自分に。それに気付いてしまった瞬間、今まで胸に抱いていた望みはガラクタ同然となった。私の目的は壁そのものになった。とは言っても、壁ならなんでも良いわけじゃない。どの壁も私の全てを奪っていく事は出来なかった。
「やっと出会えたんだ……もう離さないよ」
この壁を一目見た瞬間、落雷が直撃したような衝撃を体全体に感じた。本能的に私は悟った。この壁こそが私が求めていた壁だと。
「さあ、私と一つになろう」
私の望みは壁とずっと一緒になる事。その為にはこの人間の肉体という境界は邪魔だ。
「愛しているよ……」
私は壁にそっと唇を落とすと、右手の指先をそっと壁に触れさせる。指先はズズズッ、と壁に飲み込まれていく。壁に飲み込まれた指先はもう感覚がない。まるでこの肉体と壁との境界がなくなったように。
「嗚呼、私を受け入れてくれるんだね」
喜びのあまり、頬に涙が伝う。
この瞬間、私は確かに幸せだった。
(壁を愛した少女は人間を止め、壁と同化する事を望んだ。壁となった少女はこれからも壁と共に生き続ける)