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ヒーロー譚

代打ヒーロー

作者: 秋田強首

 この世界は、一般の人で溢れ返っている。そしてまた、善良なるその人たちを食い物にしようと、様々な悪者でも溢れ返っている。そして、その悪者を止めるヒーローも…。

 私は事務所の応接室で、30過ぎの、少しやせた一人の男と書類を取り交わしていた。男が、いくつもの書類に自身のプロフィールなどを書いていく。


「これで、大丈夫ですか。」


 男が書いた書類を、私は一枚一枚確認していく。名前、生年月日、国籍。

 それに、ヒーローとしての種類。この種類はいくつかの横目がある。人型だが怪力や超能力を持つ超人型。通常は一般人だが、投薬や一時的な神の加護を得て姿が変わる変身型。そして体が人型ではない怪物型に大分され、そこから事細かに分かれていく。

 男は超人型に丸を付けており、ヒーロー名には「デラックス・ガイ」と書かれていた。


「デラックス・ガイですか。となると、特定の組織や悪人との確執は…。」

「特にありませんね。私は、人々を助けることに主眼を置いていますから。」


 ヒーロー活動を行うのは、何もボランティアでない。大抵は、自身を改造した組織への復讐や加護を得た神の敵を滅することを主眼にしている。これらの行動原理は、ヒーロー界隈では日本型と言われ、事実、この日本において最も多いタイプだ。

 逆に、目の前の男のような人々を助けることに主眼を置いたヒーロー活動は米国型と言われ、日本ではそれほど多くない。学者の間では気質の違いとか、国教の違いが原因とされているが、実際のとこの理由は不明だ。

 さらに下の項目を見ると、必要事項の「弱点」が書かれていなかった。私がそのことを伝えると、男は顔をしかめた。


「この情報は、必要なんですか。あんまり知られたくないんですけど。」


 男が怪訝な顔をして聞いてきた。


「えぇ、必要です。私共サービス、代打ヒーローをご利用いただくのに、絶対に必要なのです。例えば、敵があなたの弱点を突いて、何も反応がなければあなたが戦っていないことがわかります。そうなると、世間一般は、あなたが敵前逃亡しただとか、頼りないヒーローだとか好き勝手に書き始めます。」

「あぁ、それは困る。」

「ですから、こちらの項目を書いていただく必要があるのです。」


 男は、仕方ないといった顔で弱点の欄を埋めた。

 再度、私が書類を確認すると、今度は記入漏れも何もなかった。


「ありがとうございます。では、名前の横の欄に判を…。」

「あぁ、はい。」


 男がカバンから判子を取り出し、書類一枚一枚に押していく。


「しかし、助かりましたよ。今度の学芸会、娘が「見に来てくれないとパパのこと嫌いになる!」なんていうもので。」

「お子さんが…。大丈夫です。そういったプライベートを守るために、私共の代打ヒーローはいるのですから。」


 私が微笑むと、男はほっとした顔をした。

 男から書類を受け取り、男を玄関まで見送りした後、私はスケジュールを組む。運動会や学芸会などの行事の際は多くの依頼が舞い込む。ヒーローとて人の親、子供の成長は見たいのだろう。


「む?…あー、これはいかん。」


 今の男の依頼を組み込もうとして、依頼のブッキングに気が付いた。担当の代打ヒーローは一人しかいないため、どちらかの依頼をキャンセルせざるを得ないが、それでは代打ヒーロー全体の信用を損ないかねない。


「仕方ないか。高くつくからあまり使いたくはないのだが…。」


 私は電話を取り、ダイヤルを回す。何回かのコールの後、電話が相手につながった。


「はい、こちら代打ヒーローの代打ヒーロー派遣組合です。本日はどのようなご用件で。」

「代打ヒーローの代打を頼みたい。」


 まったく、高くつくが便利な世の中になったものだ。電話口でそんなことをぼんやり思い、契約を進めていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読させていただきました。 世界観が良いと思いました。 代打にも代打が必要なんですね。
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