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Dormir Cafe

倒れた謎の生物、というより怪物は灰のように風に飛ばされ、地面に残されたのは赤い染みのみが残されていた。月光が反射し輝くロングソースは血に濡れ、そこから垂れる血液がぽたぽたと地を濡らす。

結城楓はそのまま立ち尽くし、フード付きマントが吹き荒れる風で靡いていた。

そのまま楓は怪物の死体のあった場所を数秒見つめると、ゆっくりと身を翻し真聡の方へ歩み寄ってくる。

真聡は楓に帰れと言われ帰らなかっただけでなく、間違いなく見てはいけないものを見てしまったのだ。嫌な汗が背中をたどる。

フードの影に隠れているせいで楓の顔はよく見えない。

2人の距離が縮まるほどに真聡の心臓は勢いを増す。

彼女はあの化け物を意図も簡単に殺した。この地球上に存在するどの生物よりも強そうに見えるほどの怪物を。

それをあんな細身で、なおかつ美貌を持ち、ただの中学生である楓が殺したのだ。しかし楓は真聡の恐れていた結果と異なり、小さな声で「帰ろう」とだけ口にするとそのまま来た道へと歩いて行った。真聡も後を追うが、隣に並ばず一歩後ろを歩いた。


「......」


「........」


そのまま静寂の時が流れ、森を超え住宅地に入っても二人は一言も言葉を交わすことなく俯いたままで歩き続けていた。真聡は楓の後を尾行するように静かに歩き、楓は一度たりとも後ろを振り向く事はなかった。森を抜け、住宅街に入ってもそれは変わらなかった。互いの家の前に来て 真聡はこのまま別れるのかと思っていたが、ようやく楓が口を開いた。


「今日はごめんね。色々と」


急の謝罪に真聡は「いやいや」と言いつつ首を横に素早く振る。


「俺の方こそ、何かまずい事しちまったみたいだし....ごめん」


許してくれたように楓は天使のような微笑みを見せた。


「明日ゆっくり話すね。今日のこと。そして私のこと。今日はもう遅いから」


「あぁ。そうだな....。おやすみ」


ようやく肩の力が抜けた真聡は微笑みながら小さく言った。


「おやすみ」


楓も負けない笑顔でそう言うと、家の中へ入って行った。

優しい夜風が真聡を落ち着かせるように吹き、そして同時に踏み入れては行けない方へと彼を運んでいるようだった。



「お兄ちゃん~!そろそろ起きてよ~」


窓の隙間から聞こえてくる小鳥の声と共に、一階から愛しの妹、玲花の声が聞こえる。

桐崎真聡はゆっくりと瞼を持ち上げる。薄暗い部屋の天井に両目の焦点が合う。

見慣れた天井だが今日は一味違って見える。

何が違うのか、なんてよく分からない。昨日のあれのせいか?生活ががらりと変わってしまうほどの。


「......あれ、ねぇ」


真聡は寝起きの寝ぼけた頭をゆっくり目覚めへと導く。冬休みは既に終わり、安らかに迎える朝はもうない。恐る恐る時計を見るが既に遅刻確定の時間だ。


「はぁ....」


小さくため息をついてからゆっくり体を起こす。起こしてくれた妹には悪いが遅刻が決まった以上、急ぐ必要もないと考えた真聡はいつも以上にゆったりとした動きで支度を始めた。

遅刻したことで先生に怒られる事は多々あるが、それでも真聡は遅刻をする事は少なくはない。本人曰く、「授業の時間にさえ間に合えば良いでしょ」らしい。成績がけして悪い訳ではない真聡だが、生活面などで罰が付くのは勿体無いとこだ。

ゆっくりとした足取りで階段を降り、サッパリとした冷水で顔を洗う。ついでに寝癖も直す。

リビングのテーブルの上に母の作り置きの軽い朝食が置いてあったので無理矢理口に詰め込む。歯を磨き、いつも通り家の鍵を確認した家を出た。

昨日はここで楓と遭遇したが今日は既に行っているらしい。昨日のこともあり、話したいことも沢山あったがこの時間登校しているのは自分だけだなと少し肩を落としながらも誰もいない通学路を春風と共に歩く。

何事もなく学校に着いたは良いが、やっぱり生徒指導担当の先生にこっぴどく怒られた。


その後の真聡の学校生活は本当にいつも通りで何も変わりなかった。授業を受け、休み時間には友人と面白おかしく話す。

楓も友人に囲まれながら幸せそうに笑っていた。そしていつも通り放課後を迎え、下校するは ず。いつもなら。

真聡は友人との別れの挨拶を交わし、教室を出ようとした時、「真聡君」と小さな声で自分の名前が呼ばれていることに気がつく。

この優しい声の持ち主と言えば一人しかいない、と後ろを振り向くと、期待を裏切ることなく、立っていたのは楓だった。


「今日時間あるかな?少し話したいことがあるんだけど....」


「別にいいけど..まさか昨日のことか?」


「......うん」


双方の了解を得た所でとりあえず学校を出ることにする。

学校一の美女なる楓は周囲の視線が集まっているのを意識して、鞄を抱きかかえ肩を縮めて真聡の横を歩く。

真聡はと言うと周りの男子陣から向けられる恐ろしく鋭い視線を浴び、自分の顔から血の気が引くのを意識した。「てめぇ、明日覚えとけよ」「ブッ殺す」などと殺意丸出しの声が呪いのように聞こえてくる。

これ以上互いの (特に真聡) の立場を悪くする前に出ようと

少し小走りで校門を出て、なるべくひと気のいない道を選びながら進む。

この時間は下校ラッシュでどこも下校途中の生徒が歩いている。すると楓は周りのことをさらに気にし出したのか滑るようにスラスラ歩きだした。

人で溢れかえる大通りを抜け、静かな裏通りに出た。楓は既に行き先を決めているらしく、迷うことなく歩いて行く。

楓の後を追い 細い路地を右に左に分け入り、やがて一軒の小さな店の前で歩みを止めた。

綺麗な木造建築の建物で、黒と白で塗られた壁に空き抜けるような窓が取り付けられた一見、ただの綺麗なカフェだ。ドアの上に付けられた木製の飾り看板には「 Dormir Cafe (ドルミールカフェ) 」と書かれている。


「さぁ、到着!」


さっきとは打って変わって上機嫌な楓に真聡は背を押され、言われるがままに、店内へと吸い込まれて行った。


カラン、というベルの音を響かせながらドアを足開ける。客はそこそこ。

コーヒーの匂いが漂う店内に入った真聡と楓は奥の席に座りひとまず休憩とした。シンプルな木造建築で、少し昔を感じさせる店内を、真聡はたっぷり見渡してから再び楓へと目を向ける。

楓は水を運んできた店員に何やら頼んでいる最中だった。


------大事な話がある。


真聡はそう言われ、ここに来た。勿論、その大事な話を早く聞きたいと思うがそれを知ることで何か大きく変化してしまいそうな気がしてならなかった。

あの怪物のとこ、それを殺した楓のこと。しかし、ここまで来て引き返す訳にもいかない。真聡は小さく深呼吸をし、気持ちを整える。


「真聡君も何か頼む?」


不意に声をかけられ、はっとすると楓が満面の笑みで問いかけてきていた。


「いや、俺はいいよ」


「そう?じゃぁ以上です」


店員はメニューの確認をすると、「失礼します」と小さく礼をし、

厨房へと歩いて行った。


「ここのショートケーキ美味しいよ?一回食べてみたほうがいいよ。あっ、でも少し高いけどね...。けど味は最高!」


「ほー、そりゃ一度くらいお目にかかりたいな」


「おっ、やっぱり頼んでみる?」


「いや、いいよ。今金持ってないし。今度友達誘って来てみようかな。お前のオススメって言えば飛びつくだろうから」


「ははは....ありがとう」


若干困った顔を混ぜた苦笑いをしつつ、水を飲み干す。

ことんと小さなコップを机の上に置き、一息ついてから向かいに座る楓は真剣な眼差しで真聡を見つめた。


「今日真聡君を誘った理由、というより本題に入りたいと思うけど..良いかな」


真聡はすぐに答えず、下を俯いてから、もう一度真聡を見つめた。


-----これを聞いてしまったら恐らく俺の生活に何らかの変化が訪れることは間違いない。あれだけの超常現象だ。知ってしまって何もない方がおかしいのかもしれない。それでも知りたい。あの怪物の事も...楓の事も。


大きく深呼吸し、たっぷり間をとってから一言。


「ああ」


楓はその答えを聞き、少しだけ微笑んでから、ようやく本題に切り出した。


「....昨日、真聡君が見たのはカプリコルヌスって言う幻獣系のモンスター。実はね、あれが最近ここらで起きていた事件の犯人なの。そこで私があれを倒すためにあそこに向かってたんだけど....まさか真聡君が着いてきていたとはね」


真聡は昨日のことを思い出すとカーを顔が熱くなるのを感じ、思わず俯く。本当の事を言うと、真聡は楓のことを半分疑っていた。あの事件に楓が関わっていたことはあっていたが、まさか楓が街の為にあれを倒しに行ってたなんて。

真聡の邪推が過ぎたようだ。


「.....すみません」


「いやっ、別に悪いことした訳でもないのに謝らないで。こっちこそ、強く当たってごめん」


二人とも申し訳なさそうに誤ってばかりになってしまう。互いに謝ることで時間を使いたくないと真聡が次の質問をする。


「じゃ、楓は一体何者なんだ」


「.....私はスパルトイ、アジア支部メンバーの結城楓」


「スパルトイって何だよ...」


「昨日のみたいな人に害を及ぼす可能性があるモンスターを狩る人たちのことよ」


「一年も前からあんなことを繰り返してたのか?」


「繰り返すってほどでも無いけどね。大体一ヶ月に一匹くらい現れるの。それを狩るのがスパルトイの役目なの。私たちはそれの日本担当ってこと」


「日本支部って...まさか楓以外にもそうゆうのがいるのか?」


真聡が一段と張り上げた声で聞くと、楓は人差し指を口にあて、声が大きいことを知らせる。自分たち以外にも客がいることを忘れていた真聡は申し訳なさそうに「ごめん」と小声で呟いた。


「いいよ、いいよ。で、話の続きなんだけど、スパルトイは私だけでなく世界中にいるの。日本以外にも、ヨーロッパ支部、アフリカ支部、北アメリカ・南アメリカ支部、オーストラリア支部、アジア支部と全6支部あるの。そのアジア支部の日本担当が私たち」


「お前以外の日本担当は何処にいるんだ?」


楓はくすりと小さく笑うと右の人差し指で下を指差す。


「ここ」


「え?」


「ここが日本支部の本拠地」



「えええええ!!??」


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