誤ち
空は闇へ溶け込み、辺りでは鈴虫が精一杯自分の存在を示すかのように鳴いている。
真聡は自室のベッドで何の変哲もない真っ白い天井を見つめていた。楓への違和感が胸の奥に詰まったまま一日を過ごした。
学校で見たあの楓は冷たささえ感じた。その後は何もなかったような笑顔を見せてくれたとは言え、どっちの楓が本物なのか。
あの楓が本物なら......。進まない思考をループさせていたその時、机の上に置いてあった携帯の着信音が鳴り響いた。
ベッドに寝そべったままで手だけを伸ばし、今時のスマートフォンを握る。
今だに鳴り響く着信音が鬱陶しいので早く出ようと携帯の画面を触れようとした瞬間、手が無意識に止まってしまった。
楓からだった。メールアドレスを教えた時に一緒に電話番号も教えたのだが、今日まで一度もかけて来たことはなかった。真聡は乾いた口元から、それこそ掠れた声を出した。
「....もしもし」
「あっ、真聡君?こんな時間にごめんね。少し聞きたいことがあって。今家?」
いつもの楓だった。優しい声が聞こえ、真聡は肩の力を抜いた。
「そうだけど。どうして?」
「いや、今日寿樹君を話してたじゃない。あの町外れの廃港行こうって。あの時は寿樹君、わかったって言ったけど、実は行ってたりしたら、と思ってね」
「寿樹ならやりかねないけどね。俺は家にいるよ」
「そう。良かった。このことを確認したかったの。ごめんね」
「いやいや、楓様からの言いつけを破ることなんてできませんよ。今日は大人しく寝るよ」
「そう。本当にごめんね。こんな時間に。じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
プツンと電話が途切れる。本当にいつもの楓だった。声(、)は。
電話をかけて、在宅を確認するほどそこへは行かせたくないのか?再び悪循環の思想を貼り巡らせる。
普段の楓は成績はいつもトップクラスで性格も良く、友人にも恵まれているように見える。そして何より校内一位の美貌。
俺の頭の中では最高に美化だれている。そんな彼女が見せたあの瞳。槍のように鋭く、どこか怒りを感じさせたあの瞳。とても楓だとは.....。
すると真聡の顔に冷たい風が当たった。少し長い前髪が吹き荒れる。
朝起きた時に開けた窓がそのままになっていた様だ。現在22時。勿論。涼しいを通り越し凍るような冷たさに、真聡は思わず身震いさせた。
このままでは風邪をひくと思い、すかさず窓を閉めようと腰をあげた。すると窓越しで楓の家が見えた。
ヨーロッパ風評の家っぽい、が真聡の第一印象。ドイツなどで建てられていても違和感がなさそうな家の玄関一人の人影が見えた。目を凝らして見るが、フード付きのマントのようなものを被っており、顔どことか服装も見えない。 玄関の扉をゆっくり閉めると先ほどのゆっくりな動作と打って変わって走り出した。するとマントが靡き、黒のレギンスを履いた細い足が見えた。
まさか...楓!?そう頭の中で浮かんだ瞬間真聡の同様に走り出した。急いで靴を履き、玄関を飛び出す。途中で母の声が聞こえたがそんなものに構っている暇はない!
本能に従うがままに、真聡は走り出した。