〇〇の世界-4
ここから1日1更新です
●●●●●
結果的に言うと僕はいい夢なんて見なかった。
むしろ、
悪い夢を見た。
●●●●●
僕はなかなか寝付けないでいた。
蚊が僕の耳から離れようとしない。うっさい。
蚊が鬱陶しくて、何度もパチンと音を鳴らすが、全部不発に終わってしまった。
「ぬぐぅ……!」
うっさいうっさいうっさい。うっさぁぁいッ!
何度も寝返りをうつ。
まあ、その時だった。
バリィィィンッッ
僕はその音で勢いよく体を起こした。
今のは、ガラスの割れる音だ。蚊がガラスを割るという前代未聞の怪奇現象が起こらない限り、何者かが、僕の部屋の窓ガラスを外から割ったことになる。
時間を確認しようとしたが、真っ暗で時計なんて見えやしなかった。
僕は必死に寝起きの脳みそを活発化させ、割れた窓ガラスをにらみつけた。
一体誰が。こんなことを? 泥棒? いや、そんなガラスを勢い良く割るなんて大きな音が鳴るようなバカなことをする泥棒なんてどこにいるんだ。いるわけがない。もしいたとしたら、そいつは相当馬鹿だ。
じゃあ誰だ。
僕に恨みを持つ誰かが僕を殺しに来たとか? ……考えにくい。学校で僕はそんな恨まれるようなことをした試しがない。
じゃあ誰だ。誰なんだ?
と。そこで、窓の外からシルエットが見えてきた。形は人間。人。ただ、手に何かを持ってる。
僕は注意深く目を凝らす。
一瞬、ぎらりと光った。それで、鋭利なものだということを理解する。
斧? 槍? 鋸? 包丁??
どれも違う。
「イィヒヒィ」
その声を聞いて、僕は思考を中断して身構えた。その笑い声は間違いなく窓の外にいる『何か』のものだ。
でも。
でも。
ここは二階。なんだ。
僕はぞっとした。ぞっとしたよ。だって、人が浮いてるんだよ? ぞっとしないわけがないじゃないか。
再び、ぎらりと鋭利なものが光る。今度は僕の眼がはっきりと捉えた。
鎌だった。ひどくでかい鎌。それはまるで、ゲームだとか小説だとかによく出てくる死神が持っているような鎌だった。
「イイイィイヒイヒヒヒィ!」
窓の外にいる『何か』は、さっきよりも大きく笑った。
その声は、金属音みたいな表現できないような声だった。
本能的に感じる。逃げなきゃ、コロサレル。シヌ。キラレル。
手汗がひどい。というよりも、緊張で力が入り、体全体が熱かった。
僕は、即座にベッドからドアまで移動し、ドアノブに手をかける。
「あれ?」
そこで気づいた。
ドアがびくともしない。
……ドアには、何重にもカギが掛けられていた。
誰がこんなことを。……そんなのわかってる。もちろん、僕だ。僕が、咲に部屋に入らせないようにするために、何重にもカギを掛けたんだ。
ちらりと、窓のほうを見る。
僕の部屋に、鎌をもった誰かが侵入してきた。ゆったりとした歩行で、こちらに向かってきている。
「……ッ! 開けよッッ!」
僕は、震える手で鍵を必死に解除する。
この鍵は、解除するのにわざと時間がかかるようにしてある。
なんで、そんなことをするのかって。咲はああみえても、ピッキングの達人だからだ。前に鍵を一つだけ掛けたらピッキングされた。だから、それからは何重にもカギを掛けるようになった。
「このこのこの! 開けよッ!!」
僕は、鍵を解除するのをあきらめて、ドアに突進する。ドアをぶち破るほかない。
しかし、ドアにいくら突進しても、なぜだかぶち破ることはできなかった。
それでも、ドスンドスンと何度も息を切らしながら、突進し続ける。でも結果は同じだった。
「イヒ」
その金属音が、僕の真後ろで聞こえた。それで僕は動きを止めた。
ウゴケナイ。体が言うことを聞かない。声すら出せない。
金縛り。
僕は金縛りにあっていた。
月の光が窓から差し込んできていて、それで、後ろの『何か』の影が見えた。その影から鎌を振り上げるモーションが見える。
僕は目を強く閉じる。
もう。
たぶん。
だめだ。
「……ぐすん」
少女の泣いているような声。
だが今の少女の泣いているような声について分析する暇もなく、ヒュン、と風を切る音が聞こえた。
その音が聞こえたところで、僕は意識を失った。
●●●●●
僕:本当に悪い夢を見たよ……
咲:しんちゃん♪
僕:ん? なんだ
咲:どんな夢を見たのー?
僕:なんか死神っぽいのが僕を襲う夢
咲:死神×しんちゃんッ! ……はぁはぁ
僕:……おい