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祝辞のあとで、花嫁が公式記録を読み上げた ~「全て俺一人の実力だ」と豪語した政治家の7年分の作成履歴~  作者: そらのことのは


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第1話 切り捨て

 深夜の議員会館。廊下には凛の足音だけが響いていた。


 白石凛は、七階の個室で最後の資料整理を続けていた。


モニターに映るファイル一覧を見つめながら、彼女は感情を意識的に後回しにする。


今は事実の整理だけに集中する時間だ。


 七年間。高城恒一の政策秘書として、表に出ない仕事を積み重ねてきた。


地方創生、子育て支援、デジタル化推進。


彼の名前で発表された政策の多くは、凛が夜遅くまでかけて練り上げた原案から生まれている。


 ドアがノックもなく開いた。


「まだいたのか」


 高城恒一が入ってくる。疲れた表情だが、どこか晴れやかな空気を纏っている。


 凛は振り返らず、画面を見つめたまま答えた。


「明日の委員会資料、最終確認が終わりました」


「そうか」


 恒一は窓際に向かい、夜景を眺める。沈黙が少し続いた後、彼は振り返った。


「凛、話がある」


 その声の調子で、凛は全てを理解した。予想していた展開だ。


「九条家との縁談が正式に決まった」


 凛は手を止め、静かに椅子を回した。


「おめでとうございます」


 恒一は少し安堵したような表情を見せた。


「お前も分かっているだろう。俺たちの関係は、ここまでだ」


 凛は頷いた。感情を表に出すことはしない。


「九条麗華さんは、申し分ない。家も、資金も、顔も揃っている」


「だが、勘違いするな。俺は自分の足でここまで来た」


 恒一は凛の前に立った。


「政治は現実だ。 理想だけでは何も変えられない」


 必須のセリフが、予想通りのタイミングで出た。


「私もそう思います」


 凛の返答は簡潔だった。


「お前には感謝している。七年間、よく支えてくれた。だが、これからは別々の道を歩むことになる」


 恒一は言葉を続けた。


「政務秘書の契約も、近日中に整理させてもらう。推薦状は書く。お前なら、どこへでも行けるだろう」


 凛は立ち上がり、恒一の顔をまっすぐ見た。


「推薦状は不要です。記録だけあれば、十分です」


「承知いたしました。引き継ぎ資料は整理してお渡しします」


「そうしてくれ」


 恒一は満足そうに頷いた。


「ただし、一つだけお願いがあります」


 凛の言葉に、恒一の眉がわずかに動いた。


「私が作成したファイル群について、削除ではなくアーカイブ保存にしていただけませんか。後任の方の参考になるかもしれません」


「それだけか?もちろん構わない」


 恒一は、履歴の存在を気にした様子はなかった。


凛はその反応を確認し、静かに視線を戻した。


「ありがとうございます」


 恒一が部屋を出て行った後、凛は再び椅子に座った。


 彼女はデスクの引き出しから小さな金属製のキーを取り出す。


足元のキャビネットには、七年分の資料が時系列順に整理されている。


政策原案、会議メモ、修正履歴、メールの控え。


全てに「白石私案」という小さなラベルが貼られていた。


 凛はそれらを大きな資料箱にまとめ、新しいラベルを貼った。


「白石凛 業務記録」


 箱に鍵をかけ、カチリという音を確認する。この箱を開ける日が来るかどうかは分からない。


だが、記録は残した。事実は消えない。


 凛はパソコンをシャットダウンし、部屋を出た。


 エレベーターを待っている時、携帯が震えた。未読メールの差出人は見慣れない名前だった。


「kujo.reika」


 翌朝、凛のポストにクリーム色の封筒が届いていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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