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不敗のダフラン

掲載日:2025/11/29


 不敗の神将「コスト=二コラ・ダフラン」……彼は醜かった。


 男にしては頭一つ低い身長に、短い脚とそれに似合わない長い腕、醜く出た腹に若くして薄くなった頭頂部。遠目にみれば、どこかで興行師達が連れていた”サル”のように見える。

 顔は目尻に向かって情けなく下がった眉に、細い目と重たい瞼。低く横に広い鼻に、薄い唇と主張の小さい顎、その下から余計な脂肪が顔を見せて、二重顎となっていた。

 彼が猫の額ほどの領地を持つ”男爵家の次男坊”だと告知してから、100人に姿を見せても彼の容姿を褒める者はいないだろう。


 一方の性格と言えば、良ければ救いようがあったかもしれないが、これがまた最悪だった。

 誰に対しても辛辣で高圧的な態度。友人と言える存在は、彼の従者であり、普段最も近くにいる私でさえ見たことが無い。更に仕事についてもダフラン自身が優秀であったことによって、周囲にその基準を求めてしまうのだ。それも厳しく。

 一度言ったことが理解できない部下が居れば叱責し、自らが正しいと考える意見や命令に不服があれば、上司であっても容赦なく口答えする。彼は周囲の人間から煙たがられた。

 戦場で背後まで敵になるような行為は、軍隊において致命的な筈だ。だが、彼が権力を握るようになるまで私刑に処されることも、背後から刺されることも無かった。それは、彼の実直さに由来する平時の事務能力による物であった。


 そんな彼にも長所がある。


 彼は”戦”に負けなかった。

 

 小隊を率いるようになり、大隊を率いるようになり、軍団を率いるようになり、全軍を率いるようになっても、彼は”不敗”であった。

 他の全てを持ち合わせていないと言っても良い彼だが、ただ戦に負けないという一点で王国中の尊敬と敵からの畏怖を集めた。世が乱れ力が全ての基準になるこの世界で、彼は最もその部分に長けていたのだ。



「エルヴェ」


 ダフランは、ただ一言馬上で私の名前を呼び、手をこちらに突き出す。私も余計な事は言わず、手の上に遠眼鏡を置いた。

 その遠眼鏡を素早く目に当てると、ダフランは右、正面、左と周囲の地形を確認している。それが彼の強さの秘訣であった。

 ダフランはどんなに切迫した状況でも、必ず自らの目で戦場にする予定の場所を確認する。確認できていない場所は、決して戦場に選ばず、多少不利な地形であっても確認できている場所を選んだ。そして彼は自分の確認した地形から、山ふたつ向こうまでの地形を読むことが出来る。地形を予想し、様々な方法で得た情報から敵の動きを予想し、計画を立てて確実に勝利を手にする。


「…ふむ」


 ダフランは短く息を吐くと共に、先程渡した遠眼鏡を私に向かって突き出してきた。それを受け取り、静かにケースに入れて自分の馬の荷物入れに片付ける。

 隣では、自分と共にダフランが小隊長を務めていた12年前から従者をしている、オレールが暇を持て余し、彼の武器である両手剣の柄に巻いてある布から出た細かい糸を引きちぎっている。

 オレールはダフランの従者であり護衛、私、エルヴェはダフランの従者という身分に徹している。その差であった。彼は従者という体を取った護衛であるために、私よりも叱責された回数は圧倒的に少ない。本当に羨ましい限りだ。

 もっとも、ダフラン男爵領にある孤児院でも、金髪、緑目、超大柄で目立つ存在だったオレールと、商家の三男で、男爵家に下働きに出された茶髪、茶眼で、どこにでもいるような見た目の自分とでは、圧倒的に素材が違うので、羨むことしか出来ない。


「……そうか…そうか、そうか」


 ダフランが3度同じ言葉を呟いたところで、私は思考から現実に意識を戻された。彼が”そうか”と3回呟いた時は、次の戦争で勝てる想像が出来た時だ。

 つまり、今我々は次の戦争に勝利し、生き残り、王都に凱旋することが決まったと言っても過言ではない。これは、一切の誇張でもなく、既に決まったことなのだ。


「…帰るぞ」

「はっ!」


 そそくさと馬首を返して、来た道を戻るダフランをオレールが直ぐに後を追い、下馬してダフランの馬を御していた自分は、少し遅れた。


「エルヴェ!!遅いぞ!!」


 たった数瞬の遅れでも、ダフランからいつも通りの叱責が飛んだ。



 と、ここまでが不敗のダフランの従者であり、彼の唯一の友人(書いた本人は絶対に否定するのだろうが)である、エルヴェの手記を基にした話の一部である。

 エルヴェは、12歳で生まれの商家から、ダフラン男爵家に下働きに出たわけだが、彼はその時に既に十分な読み書きを習得していたと残されていることから、下働きをする下男という扱いというよりも、文官の卵と商家とダフラン家のコネクションとして男爵家に入れられたと考えるのが妥当だ。

 彼が14歳で”コスト=二コラ・ダフラン”に出会う時には既に、十分な能力を備えた文官であったのだろう。でなければ、他人の仕事の出来に非常に厳しいダフランが、それから16年間も側付の従者として、身辺に置くはずがないのだ。

 一方で従者としての立場の彼が、ダフランの容姿や性格を情け容赦無く書いているのは、失礼すぎやしないかと思うが、彼らが深い友人関係(もしくは戦友)にあったからとすると、納得できるものである。

 そもそも、エルヴェは個人の手記が後世の歴史家に、好き勝手読まれ、参考にされるとも思っていないのであろうが……



はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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