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四季の企画投稿作品

河童になった勘太

作者: 黒神譚

 昔、昔のことじゃった。

 ある暑い、熱い、あつい夏の夜のことでしたそうな。

 一組の夫婦が泣く泣く我が子を『山遊び』へやりましたそうな。


 『山遊びへやる』とは、家が貧しくて育てられなくなった子供を始末したという意味じゃ。

 今と違って食うのも生きるのも大変な時代、一人を殺して一家が生き残るという手段を取らねばいけないこともあったんじゃよ?


 死んだ子供は「勘太」という名前の子でしたそうな。

 両親はせめて子供が苦しまないようにと眠ったままの勘太を()ぶって河原に連れて行き、寝ているうちに一息に殺し、そして川に流したそうな。

 死んだ子を川に流すというのは、天地を創造された神イザナギ様とイザナミ様の手で川へと流されたヒルコ様が後に立派な神様になったように、今生(こんじょう)ではきちんと育ててあげられなかった我が子が、せめてヒルコ様のように次の人生で立派な人に育ってくれますようにという願いを込めてのことでした。


「ごめんなぁ・・・勘太ぁ・・・・・おっ(かぁ)をゆるしてくれろ~~~。」

「勘太ぁ~~~、おっ(かぁ)は悪くねぇ。甲斐性(かいしょ)のねぇおっ(とぅ)が悪いんじゃ~・・・・ゆるしてくれろ~~~。」

「次はええ親に恵まれて、立派な人になっとくれぇ~~~。」

「幸せになっとくれ~~~。」


 二人は川を流れていく勘太の姿を見送りながら、いつまでもいつまでも泣いて謝っていたそうな。


 ところが・・・・それから数年の後のことでした。この川の(ふち)で遊んでいた子供が一人、河童に淵に引きずり込まれて死にかける事件が起きましたそうな。

 溺れた子供はなんとか命は助かりましたが、長い間気を失っていたので誰もが顔を青ざめるほど、酷い事件じゃった。


 村の大人が一緒に遊んでいた子供たちに何があったのか詳しく話を聞くと、皆で泳いでいた時、急に一人、姿が見えなくなった。皆が心配して、いなくなった子を探していると、突然、水底からプカリと気絶した子が浮かんできたそうなんじゃ。

 そうしてな、その子供のそばにはなんと、河童がいて「オラァ、勘太だぁっ!」と、確かに名乗ってから淵に潜って消えたそうな。


 村の大人たちや勘太の両親はハッとしました。


「もしかして、間引きした子の怨念が河童になって村に復讐しようとしているんじゃなかろうか?」

「いいや。そうに違いねぇ。なんちゅうこっちゃ・・・・・

 なんちゅうこっちゃ・・・・・。」


 村人たちは、それから河童を捕まえて殺そうと話し合い、棒や鎌を持って川に向かいましたが、河童の姿は見つけられん。それどころか、河童を探そうと川に入った者が、足を引っ張られて危うく溺れ死にそうになる始末。


 死んだ者が相手では勝負にならん。そう思って村人たちはお寺の和尚さんにお願いして、お経をあげてもらって勘太をやっつけようと話し合い、村のお寺に向かったそうな。

 

 和尚さんは村人たちの話を聞くと、「なんと(あわ)れな子じゃ。なんと哀れな子じゃ・・・・」と、手を合わせて泣きながら、河童になってしまった勘太を(あわ)れんでやったそうな。

 そうして、哀れに思うからこそ成仏させてやろうといい、さっそく翌朝には問題の(ふち)に行って読経(どきょう)を上げると言ってくれたそうな。

 その一言に村人たちはホッとして家に帰りましたそうな。

 

 ただ、勘太の両親だけは、お寺に残って和尚さんに何度も何度も頭を下げて「苦しまないようにしてやってくだせぇ。苦しまないようにしてやってくだせぇ。」と頼んだそうな。

 和尚さんは、『こんな時代じゃ仕方なかろう。育てられなかったじゃろう。』と。子供を殺してしまった両親の苦悩を理解してやり、二人を責めることなどせずにただ抱き寄せてあげると何度も「心配ない。心配ない。」と言ってやるのじゃった。


 ところがです。その話をお寺の(えん)の下に(ひそ)んで聞いている者がおりましたそうな。

 それは河童になった勘太だったんじゃ。


「おのれ、おっ(とぅ)、おっ(かぁ)

 オラを一度殺しただけでは飽き足らず、今度は和尚に頼んでオラを消すつもりかっ!」


 すっかり話を聞いた勘太は、自分をやっつけようとする両親や村人に対する怒りが収まらず、その夜のうちに川の淵にある大石に座り込むと天を拝んで水神様に願った。


「水神様ぁ~~。聞いてくんろ~~。

 オラ、もう。全てが嫌んなったぁ~~。おっ父とおっ母が許せねぇ~~~。村の人たちが許せねぇ~。

 どうか、どうか。明日、オラが再びおっ父、おっ母に殺される前に、洪水を起こして退治してくれろ~~。

 水神様ぁ~、おねげぇしますだぁ~~~。おねげぇしますだぁ~~~。」


 そう言って夜通し天の水神様に叫び続けた。喉が裂け、血を吹こうとも叫び続けた。

 その声は悪龍の耳にまで届きましたそうな。悪龍とはな、とても荒々しい龍神のことじゃ。

 悪龍は勘太のことを酷く哀れに思い、水底から顔を出して叫ぶ勘太に言いきかせたそうな。


「わかった。お前の両親もこの村も大水で沈めてやろう。そのかわり、これからはもう悪さはしねぇと誓え。ええか? もう二度と悪さしねぇと誓うんじゃぞ?」


「ええ。ええっ! オラ。おっ父とおっ母さえ殺してもらえたら、もう二度と悪さはしねぇ。」


 勘太がそう言うと、悪龍は天に昇って大雨を降らしてくれたそうな。

 その激しい事。雷は鳴るし、団子のように大きな雨粒が勢いよく降り続けた。

 あまりの雨の激しさに村中の人が様子を見ようと家の外へ飛び出すほどでした。そして、皆、空を見て大層、驚いた。


「ああっ! 皆、見ろうっ!

 雨雲の中に龍神様がおられるっ!」

「龍神様じゃぁ、龍神様の祟りじゃぁ~~~っ!!」


 雷が暴れる雨雲の中を一匹の黒龍が踊り狂っている有り様を見て、皆は、慌てふためき、一斉に村から逃げ出した。

 その様子を見て勘太は手を叩いて喜んだ。

 そうして、自分の両親がどうしているのか、両親の家の屋根に上って中を覗き見たんじゃって。


(ひひひひ・・・・怯えておるじゃろうなぁ。

 水神様に命乞いしとるじゃろうなぁ・・・ザマぁ、見ろじゃ。)


 そう思って家の中を見た勘太は驚いた。

 家の中では何と・・・・両親が天に向かって手を合わせて祈りを捧げていたんじゃ。


「ああああっ!! 龍神様ぁっ!

 どうか、どうか。わしらを殺すのなら、河童にして勘太の下へ送ってくだせぇっ!」

「今度こそ、今度こそっ! ()え、おっ父とおっ母になりますから、あの子を幸せに育てて見せますから。

 どうか。どうか私達の魂を勘太の下へ送って下せえッ!!」


 おっ父とおっ母は、命乞いなどしていなかったんじゃ。

 それよりも殺してくれ。自分たちを勘太の下へ送ってくれと願っていたんじゃな。

 今度こそ、()えおっ父とおっ母になりますからと・・・・

 今度こそ、()えおっ父とおっ母になりますからと・・・・



「おっ父、おっ母・・・・・なんでじゃ・・・・

 なんで今頃になって・・・・」


 両親の姿を見た勘太は、驚き、悲しみ。逃げるようにして家の外へ飛び出した。

 すると、山の上の方から土砂を含んだ鉄砲水が家に向かって押し寄せてくるのが見えたんじゃと。


 その様子を見て勘太は両親のことを思い出して、再び水神様に頼んだそうな。


「悪龍様ぁっ!! もう、もうええっ!!

 もうええっ!! やめてくんろぉ~~~っ!!

 オラのおっ父とおっ母を殺さんでくれろ~~~っ!!」


 必死に叫んだんじゃが、流れてくる土砂は止まる様子を見せん。


「悪龍様ぁ~~~っ! やめてくんろぉ~!

 オラが悪かったんじゃっ! おっ父もおっ母もオラを殺したくて殺したわけじゃねぇってわかったっ!

 悪いのは、オラ一人じゃ~~! 恨みつらみで河童になって、関係のない子供を酷い目に合わせちまったぁ~!

 罰を受けるのは、オラ一人で良えっ!! オラの命はもうどうなってもええっ!!

 おっ父とおっ母の命だけは助けてやってくれろ~~~っ!!」


「オラの命はどうなってもええっ!! おっ父とおっ母だけは助けてやってくれろ~~~っ!!」


 勘太は叫びに叫んだ。


 そうしておるとな、いつの間にか激しい雨がやんで、普通の朝が来たんじゃと。

 朝日に気が付いた勘太の両親が恐る恐る家の外に出てみて、二人は驚いた。

 なんと土砂水が家を避けるように大きく進路を曲げて下流に流れていたからなぁ。

 さらに、その水流の前には冷たくなった河童の死体が倒れていたんじゃと。


「ああああああっ! 勘太ぁ~~あああああああっ!!」

「いやああああ~~~っ! 勘太ぁああああああ~~~~っ!!」


 両親は死んだ河童の体を抱きしめあって、いつまでもいつまでも泣き続けたそうな。

 村人がいくら止めても、二人は勘太の体を抱きしめて泣き続けたんじゃそうな。

 二人は我が子を二度も殺してしまったことが悲しくて悲しくて、ご飯も食べずに泣き続けていたそうじゃ。

 それで、とうとうある月の夜にそのまま死んでしまったということです。





 ただなぁ。そんな三人の姿を哀れに思われた龍神様は、今度は末永く幸せに生きていけるようにと三人の魂を安全な時代に送ってあげたんじゃそうな。そこで三人は幸せに暮らしとるそうじゃよ。

 だからなぁ。もし、あんたの近くにやたらと泳ぎの上手な勘太という子がいたら、それが河童になった勘太かもしれんよぉ?

 


 

おわり

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