閑話 護衛兵は見た ~俺の上司、ヤバくないですか?~
これは、帝国魔導師ゼノ・クローネ直属の護衛兵、ノエル・ヴァイス個人の非公式記録である。
※ただし、非公開予定は未定。
――あの夜、俺は完全に油断していた。
まさか、森の奥でソロキャンプをしていた元・王国の聖女を『スカウト』するとは。
しかも上司が、「年俸交渉あり、即契約」からの「国家機密指定人物化」をその場で提案するとは。
いや、前からちょっと変な人だとは思ってたよ、ゼノ様。
天才ってのはどこかしら常識がぶっ飛んでるもんだし、過去にも「夜中に魔導式の夢を見た」とか言って研究所を爆破しかけたこともあるし。
でもさ――今回のはその比じゃなかった。
まず第一に、あの『元・聖女』ことミリア嬢。
第一印象は、「あー……テンション軽っ」だった。
でも、観察してわかった。あの明るさは本物だ。
何を言われても、どんな目に遭っても、前向きに受け止めて笑っている。
普通の人間なら精神崩壊してるレベルの仕打ちを、「ざまぁ☆」って笑って済ませてるの、すごすぎる。
それでいて、魔力封印状態にもかかわらず、あの魔力の『にじみ出方』。
まるで封じ込めたはずの魔力が、無意識に呼吸してるみたいだった。
ゼノ様が食いついたのも、無理はない。
でも――食いつきすぎでは?
スカウト後の帰り道、馬車の中。
俺はあの会話のログを今も持っている。
記録用魔晶石は、軽く熱を持つほど働いた。
――君が眠っている時も、起きている時も、ずっと見ているつもりだから
その瞬間、俺の護衛魂が震えたよね。
おいそれストーカーじゃん、と。
つい口から出た。止められなかった。
「それ、ストーカーって言うんですよ」って。
でもゼノ様、即答で「違う。観察だ」と来た。
……いや、そこ違いませんから。
しかもその直後、完全に目が据わってた。
“対象”を見てるというより、『対象物』を見てた。
そういう目で人を見ると、恋愛感情と研究対象の区別、たぶん自分でもついてないんだと思う。
あれは……ヤバい。
論理的にヤバい。
けれど――俺は知っている。
ゼノ様は、人を本気で信じることが少ない。
裏切られるのが嫌なんじゃない。ただ、誰かと“感情で”関わるのが苦手なだけだ。
なのに、ミリア嬢には、完全に心を持っていかれてた。
「必要だ」と言ったときの声。
「誰にも渡したくない」と言ったときの、あの感情の乗り方。
あれは『魔導師』じゃなく、『男』の声だった。
――あの人が本気になった相手を、俺たちはどう守っていけばいいんだろうか。
守るべきは、ミリア嬢か?それとも帝国か?
時々、本気で悩む。
まあでも、ミリア嬢はミリア嬢で、笑いながらゼノ様にツッコミ入れてるし、たぶんすごく強いんだと思う。
そうだな。
いっそこのまま、ゼノ様が誰にも手を出さず、ミリア嬢一筋でいてくれるなら、むしろ平和かもしれない。
ただ――「他の男に笑いかけたら焼く」みたいな発言をし始めたら、さすがに全力で止める必要がある。マジで。
というわけで、俺は今日も上司の暴走を止めるために、記録を続ける。
もしもの時のために。
このデータが、誰かの命を救うかもしれないから。
――以上、護衛兵ノエルの日誌という名の『告発文』より。
読んでいただきまして、本当にありがとうございます。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
ぜひよろしくお願いします!