↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された聖女ですが、今さら「返して」なんて遅すぎませんか?  ~国家戦略級スカウトされたので、そちらには二度と戻りません~  作者: 桜塚あお華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/24

第21話 それでも一緒に、生きていく


 星見の塔は、静かだった。

 帝都の夜景が、遥か下で瞬いている。

 風は冷たいはずなのに、ミリアの足取りは迷いがなかった。

 この場所には、ひとりの男が――ずっと待っていると、分かっていたから。


「……ゼノさん」


 呼びかけに、塔の縁に佇んでいた青年が振り返る。

 月光に照らされたその表情は、いつになく静かで、どこか――脆い。


「来てくれたんだな」

「うん。……ちゃんと話したくて」


 二人の間に沈黙が流れたあと、ゼノがぽつりと口を開く。


「――君に、謝りたい」


 その一言に、ミリアは驚いたように目を見開いた。


「ゼノさんが、謝るなんて……」

「僕はずっと、『管理』していたつもりだった。けれど違った。……それは『恐れ』だったんだ」


 ゼノは目を伏せる。

 かすかに握られた拳が、震えていた。


「君が遠くへ行ってしまう可能性。誰かに触れられ、誰かに奪われる未来。そのすべてが――耐えられなかった」

「だから、閉じ込めた?」

「神託も、生活も、すべて把握して。周囲も、感情も、不要な接触と見做して」

「……ああ。そうだ」


 その声は、ひどく静かだった。

 冷徹でも、理知的でもない。

 ただひとりの男の、むき出しの――執着。


「僕は、君が笑っているのを見るたびに怖かった。その笑顔が、いつか僕以外に向く気がして――他の誰かに与えられるのが、怖くて、苦しくて」

「……ゼノさん」


 ミリアは一歩、近づいた。


「あなたのそういうところ、最初は『怖い』って思ってた。『異常だ』って、思ってたよ。ほんとに」


 けれど――そこで笑う。


「でも、それでも。そんなあなたが、誰より私を“見ていてくれた”ことも、ちゃんと分かってる」


 ゼノが、はじめて顔を上げる。


「……君は、離れたほうがいいと思っただろう。僕のような人間からは、逃げるべきだ」

「ううん。私は、選ぶよ」


 ミリアの声は強く、そして優しかった。


「怖くても、迷っても。私は選ばされる側じゃなくて、自分で選ぶ側でいたいの……だから私は、ゼノさんと並んで――これからを、一緒に生きていくって、決めたの」


 ゼノの目が大きく見開かれる。

 あの冷静な瞳が、ほんの少し、潤んだようにさえ見えた。


「……僕は、壊してしまうかもしれない」

「壊れたら、一緒に直せばいいよ。今までだって、あなたが『守る』ことばかり頑張ってくれたから。これからは、一緒に築くってことで、どう?」


 ゼノの足元が、わずかに揺らぐ。

 恐怖にも似た顔で、彼は問いかける。


「……僕を、『選ぶ』ことが、君の幸せになると思えるのか?」


 ミリアは、笑った。

 あの日、王都を出た朝と同じように、けれどそれよりずっと――強くて、あたたかい笑顔で。


「『選ぶ事』が、私の幸せなんだよ。そしてその選択肢の中に、あなたがいる……それが、今の私にとっての、誇りなんだから」


 ゼノは、何も言えなかった。

 けれど、次の瞬間――ミリアがその胸に、そっと額を預けた。


「だから、もうちょっと安心してよ。……ちゃんと、傍にいるから」

「……っ……」


 小さく、震える呼吸が聞こえた。

 その夜、星見の塔で抱き合う二人を、月が静かに照らしていた。

 そして、風が神託ノートをめくる。


 ――……急接近、完了

 ――次の進展は、本人たち次第。見守る体勢に入ります。

 ――あと、ノエルくんはそろそろやめ時を探してるかも。胃薬切れ


 ミリアはそれを見て、くすっと笑った。


「ねえゼノさん……この先の未来、神様も『予測不能』なんだって」

「それは――楽しみだ」


 ゼノは、はじめて微笑んだ。

 それは、支配でも監視でもなく、

 対等な絆の始まりを意味する、最初の本物の笑顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。