第20話 祝福と自由の光の下で
帝都中央、白銀の宮殿に連なる大広場。
本日は年に一度の『帝国功績叙勲式典』――だが、今回は特別だった。
壇上に立つのは、ただ一人の少女。
ミリア・フェルディナンド。
その肩には、帝国最高位の紫紋のマントがかけられている。
「ミリア・フェルディナンド殿――汝の神託は、帝国に幾多の災厄を知らせ、国を守り、多くの命を救った。よって帝国皇室は、その功績を称え、汝に『星冠勲章』を授与する」
皇帝が自らの手で、ミリアの胸元に輝く銀青の勲章を掲げ、ゆっくりと留める。
「また同時に、汝には特別に『自由権』を授ける」
ざわめきが走った。
帝国において“自由権”とは、皇族に準ずる地位を意味する――
「この権は、帝国のいかなる法も拘束せぬ。汝は、国のどこにいても、何をしていても、帝国の干渉を受けることはない。汝は、民の守り手であると同時に、『汝自身の意志』によって生きる者である」
ミリアは、ほんの少しだけ目を伏せた。
胸元の勲章が、陽光を浴びて柔らかく輝く。
(ああ……本当に、私は認められたんだ過去に振り回されることもなく、誰かのものでもなく――今、この国で。私として。私のままで)
拍手が沸き起こった。
そして、それはやがて、民衆の歓声に変わる。
「聖女様!」
「ありがとう!本当にありがとう!」
「帝国を救ってくれて……!」
彼女は人々の言葉に、深く、静かに頭を下げた。
胸の奥が、あたたかく満ちていく。
誰にも見つけてもらえなかった自分が、今こうして――自分自身の『自由』を勝ち取ったのだと実感した。
「……ありがとう」
そう小さくつぶやいた言葉は、ようやく心からのものだった。
一方、広場の片隅。
式典の喧騒から少し離れた回廊で、一人の青年が立っている――ゼノ・クローネ。
彼はミリアを静かに見つめていた。
遠くから、誰よりも深く、彼女の姿を目に焼きつけるように。
ノエルがそっと隣に立つ。
「……壇上には立たなかったんですね」
「彼女の光を遮るのは、ふさわしくない」
「……変わりましたね、ゼノ様も」
「否。僕は最初から、ただ彼女のすべてを見ていただけだ」
「……所有じゃなくて、共に在るために?」
ゼノは答えなかった。ただ、ふっと口元をゆるめる。
「――これでようやく、君は自由になった」
彼の呟きは、祝福のようで、祈りのようでもあった。
▽
その夜、式典を終えたミリアは、屋上庭園でひとり星空を見上げていた。
胸元には、まだ勲章の重みが残っている。
そこに、風と共に一枚のノートが舞い落ちる。
それは神託ノートの新しいページ。
――『聖女』でありながら、『ただの女の子』でもある日々が、ようやく始まります
――次の選択は、あなたの心が決めてね……運命、見守ってるよ
ミリアはくすっと笑い、小さく呟く。
「神様も、今日は少し優しいんだね」
その目に、迷いはなかった。
『聖女』としての肩書きでも、『帝国の象徴』でもなく――自分の意志で歩いていける、
新しい人生の一歩を、彼女はついに踏み出した。
月は静かに、銀の光を注いでいた。
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