第18話 王国による『聖女奪還作戦』、失敗に終わる
帝国南端、第二観測拠点――夜陰に紛れて動く一団があった。
王国の軍属。だが『正規軍』ではない。
国境の騒乱に乗じて潜入した、特殊部隊である。
目的はひとつ――帝国に匿われた元・聖女ミリア・フェルディナンドの『拉致』
それは、王国上層部によって偶発的衝突として処理される予定の、秘密裏の作戦だった。
「……いいのか? 本当に聖女を取り戻すんだぞ。追放したくせに」
「上は、あいつの神託の『価値』に気づいたって事だ……使えるものは、拾ってくる。それだけだ」
傭兵まがいの連中が冷笑を交わす中、彼らは静かに、帝国境内へと侵入する。
だが、その足音すら――すでに『読み』の中にあった。
▽
一方その頃、帝都・中央魔導庁。
ミリアは深夜の神託を受け、ノートにその内容を書き記していた。
――南方より歩む影。火のない雷、月下の煙。すべては奪うための仮面
――帝国の盾、すでに翳す。風に流される者の行方、捕縛にて終わる
――なお、ミリアさんは今日は絶対外出しないでください。ゼノさんにもおとなしく従ってください。わかってますね?
「わかってますとも神様!!私、超めちゃくちゃおとなしくしてます!!」
書き終えたミリアは即座に部屋着のまま、緊急連絡用の水晶に向かった。
「ゼノさん、来るって!王国の人!しかも、普通にヤバい感じのやつ!」
通信の向こうでゼノは既に対応を始めていた。
『承知した。既に結界展開済み。魔導網による包囲も完了している』
「ちょっと待って、もう!? さすがに先回りしすぎじゃない!?」
『二日前の神託をもとに、すでに配置は済んでいる。君の声を受けて、最終対応に入る』
「うわあ……なんだろう……ちょっと、惚れそう……」
そして、深夜三時。第二観測拠点を包囲する帝国の魔導警備部隊が、一斉に展開した。
「敵部隊、十七。魔力遮断装備あり。奇襲狙いだが……すでに全て把握済み」
「魔導結界、遮断完了。あとは、指示を」
ゼノの命で動く部隊が、寸分の狂いもなく相手を制圧していく。
魔導網に捕らえられた王国兵は、何が起きたかも理解できぬまま、次々と拘束された。
「なんだこれは……!何一つ、奇襲になっていない……!?」
「くそっ、なぜ動きが読まれている――ッ」
その答えは、ただひとつ――帝国には、『神の声』を聞く者がいるのだ。
翌朝。帝国中枢では既にこの事件の報告がまとめられていた。
ゼノは報告書を淡々と読み上げ、同時に帝国議会へ通達を出す。
「王国の越境行為と、聖女殿への強制接触未遂は、明確な侵略行為と見做す」
「外交的警告と共に、国際評議会にて訴訟手続きの準備を進める」
ざわつく帝国上層部。だが、最も冷静だったのはミリアだった。
今はもう、誰も彼女を『聖女』と呼び捨てにはしない。
「……国を動かして、私をまた『使おう』としたの?」
小さく呟いたその声に、ゼノはそっと目を向ける。
「だが君は、もうあの国のものではない……帝国にとっても、誰にとっても、『人』として扱うべき存在だ」
ミリアは目を伏せて、そっとティーカップを持ち上げた。
その表情は、かつてのような怒りも、悲しみもなかった。
あるのは、静かな覚悟だけだった。
「……ありがとう。わたし、自分を信じてくれた帝国と……ゼノさんに、感謝してるよ」
「……」
「今なら、胸を張って言える。追放されたから、今の私があるって」
ゼノの指先がわずかに動いた。
それは、何かを抑えるような――けれど、どこか安堵の気配も混じっていた。
ノエルが部屋の外から静かに呟く。
「……やっと、あの人らしさを取り戻しましたね」
「そうかもしれないな」
そのように、ゼノは静かに頷いた。
▽
――国が動いた。だけど、君の意志はそれに勝った
――次の一手は、『信じる力』だよ。自分を、そして――隣の誰かを
――……あと、ティーカップ、まだ割れてないよ。セーフ
「わかってるってば……! 割らないように死守してるんだから!!」
ベッドに倒れ込みながら、ミリアは笑った。
その笑いは、泣き笑いでも、苦笑いでもない。
心からの――『今』を受け入れた、ひとりの少女の笑顔だった。
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