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転生DKの帰還〜男子高校生ですがお嬢様やってたらチートな天使様になって、ついでに世界も救っちゃいました〜  作者: 森戸ハッカ
最終章 天使の覚醒

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88. エヴァII 〈2〉

 アナウンサーは情熱的に声を張った。

 空飛ぶ実況席は今や海面スレスレに降り、臨場感の伝わるカメラワークでパドックの様子を録っている。


「皆さま、ご注目ください! 今、10頭の水竜ナーガが美しく連なってパドックに登場しました。ここからは親しき隣人、シナン諸島連邦のしきたりに則ってナーガを『馬』と呼ばせていただきます。このナーガを『馬』と呼ぶことについて、タイヨウ様はいかがお感じになられましたか?」


 カメラマンに徹するタイヨウへの振りは台本にはなかったが、ノリに乗ったサザーランドはアドリブを挟んで笑顔でマイクを向ける。タイヨウはよどみなく美しい声で応え、歌う以外のことは大抵できるスーパー令嬢ぶりを披露した。


「さすが海洋大国と感動いたしました。我々が陸で馬を必要とするように、彼の国ではナーガと接しているのでしょう。その文化、そして愛が感じられる表現ですね」


「おお、まさに同じ思いを感じられた方は多いのではないでしょうか!


さあパドックをご紹介しましょう。

パドックとはレースに出走する馬が周回する様子をご覧いただき、下見していただく場所のことです。尚、本日の放送は、祖国ミカド皇国にて競馬文化が根付いておられるという観月宮の皆様に用語指導を受けております。


各馬、ゼッケンをつけて登場です。実際の実況ではこのナンバーを私が読み上げますが、各馬には名前がありますので本日はそちらも合わせて紹介させていただきましょう」

「大切な存在であるということが伝わりますね。父も愛馬には名前をつけています」

「その名前は後でぜひ教えてください。まず先頭にいるのは1番馬、『サンダーオブキラン』です。ゼッケンカラーは黄。その巨体はまるで雷神。名にふさわしく、力強い泳ぎを見せています。


次に続くのは2番馬、『ゴールデンホープ』。ゼッケンカラーは紫。金に近い青という、その輝く鱗が目を引きます。まさに黄金の希望を乗せた一頭です。


3番馬、『ウィンドグローブ』。ゼッケンカラーは青。そのしなやかな動きは、まるで風を捉えるようです。


4番馬、『レディクマリ』は優雅さをまといながらも、力強さを感じさせます。ゼッケンカラーは橙。彼女の美しい走りが楽しみです。


5番馬、『ボスフレイム』。ゼッケンカラーは赤。情熱的な心を象徴するかのように、その目には燃えるような闘志が宿っています。


続いて6番馬、『クィーンエメラルダ』。ゼッケンカラーは緑。その美しい緑青の鱗は、まるで大自然の中にいるかのような錯覚を覚えさせます。


7番馬、『シャドウオイチョカブ』。ゼッケンカラーは黒。その名前通り、影のように素早く、そして鋭い走りが期待されます。


8番馬、『ホシゾラドリーム』。ゼッケンカラーは藍。濃い色の鱗が印象的ですね。星明かりの下で夢見るような、その姿は観る者の心を魅了します。


9番馬、『アオハル』。ゼッケンカラーは桃。春の陽光のような明るさを感じさせるその歩みは、希望と活力をもたらします。


そして最後に、10番馬、『キアヌブルー』。ゼッケンカラーは白。深い青の鱗が美しく、その冷静さと力強さが際立ちます。


こうして各馬並ぶと、とても個性豊かですね」

「えぇ。ナーガは国色である水色の鱗を持つ水竜種を指すと聞いていましたが、千差万別ですね」

「この10頭が、今日のレースでどんなドラマを見せてくれるのか、ますます期待が高まります。試合開始は20分後となります。皆さま、どうぞご注目ください!」


 カメラを翻し、観客席に向かって頭を下げた実況席の2人が船の中腹にある控え室に転移して消えた。


 控え室には観月宮の忍と王国陸軍の精鋭を警備につけている。近接格闘における武器の扱いと格闘術に長けた彼等は忍と組み合わせると相性が良く、国を越えた異種格闘技大会を興業しようとブリーフィングの段階で盛り上がっていた。


 様々なことに思いを巡らせながら実況に耳を傾けていたカグヤ妃は、背を微かに叩かれ身を揺らした。


「御館様、下……」


 背後に控えるナリヒラが緊張の声で囁いた。妃の周囲を固める黒面の気配も硬化する。


 観月宮のボックスの前にアンシェント兵と白面布をつけた従者を一名つけたゲラン公が悠然と立ってカグヤ妃に呼びかけるように手を挙げていた。


 素早く周囲を確認すると、左隣の王のブースにはコーネリア妃とゲオルグ王子が入って歓談していた。ゾロゾロと連れてきた残りの侍従達は全てそちらに着いているようだ。


 片眉を跳ね上げたカグヤ妃は「……売られた喧嘩は買わにゃ、女が廃るえ」と立ち上がった。


 渡り廊下の一歩手前、ゲラン公を1段分見下ろす形でカグヤ妃は対峙する。


 ゲラン公は長年生きたものだけが出せる、生気のない、倦みきった声で「――おや、これは驚きだ。まさか女性お一人でいらっしゃるとは。さすが()()()()()()()()()()()()()だ。何事も大胆ですね」と冷笑を浮かべた。


 カグヤ妃は微かに目を細める。

 バベルジャンボ富籤の販売所にはミカド皇国語で『天道』と墨書された店頭幕がある。


 だが、観月宮が開領を目指すという話は内輪だけに限られていたはずだ。


 未詳の闇属性能力者によるものか。

 それとも内通者がいるのか。

 ただの当て推量か。


 カグヤ妃は帰宅後に検討する要項を脳内に刻みつけながら嫣然と微笑んだ。


「こうして主と見えるのは初めてじゃの、ゲラン。何の用え?」


 相手は自称200歳の年長者。

 後援を持たぬ妃と四貴家当主ではどちらが上か微妙なところだ。それを明らかな目下の者として扱う仕草に、カグヤ妃の背後に控えていたナリヒラは内心冷や汗を流した。


 ゲラン公は身分の違いもわからぬ猿に諭すとでもいうように、軽蔑を含んだ笑みで答える。


「……本日のナーガの試合を楽しむ前だが、少々退屈でね。少し刺激を求めている。そこで、貴女に賭けを持ちかけようと思いまして」

「賭け? わっちに?」


 ゲラン公は目に挑発の色を滲ませて頷いた。


「左様。先程……“実況”といいましたか。アレがミカド皇国では競馬がご盛んだと言っていた。どうでしょう。お互いこの試合でどちらが勝つかを予想し、賭けてみるのは? もちろん貴女が勝てば、それなりの対価をお支払いします。負けた場合は……そうですね ――観月宮を譲っていただけるとありがたい」


 ザッと音が立つのが聞こえるようだった。

 カグヤの背後に立つ黒面布の男達の血が怒りで沸騰する音が。


「聞けば、観月宮は未開……大層自然が多いとか……。コーネリアが、我が城の()()が狭くなってきたと馬丁から聞いたらしくてね。自然が多い土地を探していたんだ。あれは家畜人まで思いやる優しい子だから」


 ゆったりとした声音で貶める暴言を重ねられている主人の影で、ナリヒラは顔を紅潮させ拳を震わせていた。


 カグヤ妃はパチン!と音を立てて扇を閉じた。そして白い手を翻して扇でゲラン公を指す。


「面白い。その賭け、“輝夜(かぐや)”が受けて立ちんしょう」

「御館様!?」


 ナリヒラが驚愕して青褪める。

 カグヤ妃は従者を振り返らず、笑顔のまま言った。


「なぁに、わっちも先日“魔法鏡”に囲まれた馬鹿げた()を見たところでの」


 まさか受けて立たれるとは思わず、またカグヤ妃の言葉の意味する所もわからず、強者として油断していたゲラン公が怪訝な顔をする。


「聞けば、ゲラン城の……主の部屋にはデカい“魔法鏡”あるのじゃろ? ちょうどいい。わっちもあの変わった厠が欲しいと思っておったところえ」


 お前の家を厩舎にする、という挑発に対して、お前の部屋を便所にしてやると返されたとようやく認識したゲラン公の目が鋭く細められた。


 白木の権化のような、普段は冷静沈着な彼の顔の硬く結ばれた顎が、内に秘めたる怒りを物語っていた。その眼光には冷たい炎が宿り、辺りの空気を凍りつかせるような冷気が漂いはじめる。


「それは素晴らしい。しかし一等を決めるだけでは味気ないですな」


 低く押し殺した声が響き渡る。ゲラン公の全身から放たれる静かな威圧感が、彼の背後にいる従者の背筋を凍らせた。


「そうよの。競馬でそれは単勝と呼ぶ。複勝、3連単ではどうえ? 3着までピタリ当てたら勝ちじゃ。水系能力に長けた主らには容易すぎるかの?」


 怖や怖や、と芝居がかった仕草でカグヤ妃が扇の陰に隠れた。


 ゲラン公は泰然とした無表情を取り戻し、口元に笑みを浮かべる。


「紙を」


 その声に、素早く白面布の従者が羊皮紙とペンを2セット差し出した。ひとつをカグヤ妃に差し出しながら、嘲笑を浮かべてゲラン公が言った。


「闇系の契約呪文には及ばないが、無いよりはいい。ここに同時に互いの“サンレンタン”とやらを書こうじゃないか。同じ候補となった場合は……720通りあるから可能性は低いかな。やるかね?」


 ふん、と軽く鼻で笑ってから、カグヤ妃が紙とペンを受け取る。そしてそれをそのままナリヒラに渡し、耳打ちした。頷いたナリヒラはペンを走らせ、羊皮紙を丸めてカグヤ妃に恭しく差し出した。


 その間、ゲラン公は自らの手で予想を書き終えていた。


 主人同士で羊皮紙が交換され、それをそれぞれの侍従が受け取り主人の顔の前で開いた。


「3-7-1、か。さあ、試合が始まる。お互い、最高のスリルを楽しもうじゃないか」ゲラン公が冷たい月のような笑顔で笑った。


「――主は2-7-1、とな」キロリと青みがかった白眼で睨めあげてから、地獄の炎のような笑顔でカグヤ妃は続けた。


「試合が終わった後の主の顔を見るのが楽しみえ」


 ゲラン公一行が自席に戻っていき、カグヤ達も席に戻った。ボックス席は厳重な防音呪文がかけられていると聞いていた観月宮陣営だったが、席に戻った後もしばらく無言であった。


「……どうすんだよ、負けたら」


 職場であると同時に生家でもある観月宮を失うという危機にナリヒラが顔を青ざめさせていた。


「ハ! 勝ちゃいいのさ」


 カグヤ妃がつまらなそうに酒を煽った。


「そんな……! ウチが無くなるかもしれねえんだぞ!」


 すぐさま黒面布の1人がナリヒラの頭を叩いた。セミマルらしき男は呆れ声だ。


「おい、そんなケツの穴が小せぇ男に育てた覚えはねえぞ、ナリ。大体なぁ、御館様が買った喧嘩にグチグチ言うんじゃねえ」


 するとセミマルの横に立った背の小さな黒面布が腕組みをして胸を反らせた。


「あぁ。この喧嘩、得たものは大きい」

「えっ!? その声、リンゴくッ……!?」

 驚いて仰け反ったナリヒラの口をセミマルが塞ぐ。


「ミカドに競馬はあるが、能力者は参加できない。何故かわかるだろう? お前がさっきやってみせたように、馬の調子がわかるからだ。イカサマどころの話じゃない。魔獣のレースは騎手に左右されない。騎馬の能力がすべてで、優秀な能力者には勝ち馬がわかるから勝負にならないんだ。よって今日の結果は“3-7-1”からズレるはずはない。現に2着以下は奴らとお前の予想は同じだ」


 異国の特級能力者、それも規格外の力を持つチートの密入国という身内の“イカサマ”を飲み込み、ナリヒラは頭を素早く巡らせた。


「なのに、1着だけ予想が違う……? 2番は大して……まさか潰す気か!? 3番を」


 蓼丸麟五(たでまるりんご)は海上のナーガの様子を見つめながら頷いた。


「そうだろうな。あいつらはまずウチに予想をさせることで、水系能力者の力加減を探ったんだ。あの予想でこちらの能力が一級以上だと掴まれてる。その上であの態度だ。ウチを抑えて3番を始末できる自信があるんだろう。間違いなく奴らの中に特級の水系がいる。それも上位クラスの特級が。主人に噛み付く前に、お前はもう少し状況を読む癖をつけろ」


(賭けを受けたのは、それを引き出すために……!)


 ナリヒラは全身に鳥肌を立て、自分の内に湧き上がった名のつけられぬ激情に身震いした。そんな深い読み合いが行われていたことに全く気づかなかった自分を強烈に恥じる。


 周りの大人達に動揺の影はない。

 

 それはそうだろう。

 俺が選んだ3番は守り切れるのだから。

 あらゆる水系特級能力者の上を行く、人類最強の男がここにいるのだから。


「――蓬莱の玉の枝やら火鼠の皮衣やらと言い出さなかっただけマシだろ」


 怪訝な顔をしたナリヒラに、麟五は軽く肩をすくめた。


「お前もミカドの男なら、“カグヤ姫”の望みを叶えろよ。“便所”を手に入れてやれ」


 ナリヒラは感動で唇を震わせて、腰を深く折って主人に詫びた。


「御館様、申し訳ございませんでした! 親父も……俺、観月宮に生まれて本当によかった。麟五君もありがとうございます! これからも御指導御鞭撻の程、よろしくお願いします!」


 蓼丸が語ったような状況とは梅雨知らず、『ゲランの奴ら、予想を外しやがって』と内心ゲラゲラと大笑いしていたセミマルと、『どれを予想しても麟五が勝たせるじゃろ』と余裕をかましていたカグヤ妃が、驚愕を隠し切って澄んだ目をしながら鷹揚に頷いた。


「ほら、タイヨウが来た。始まるえ」


 ナリヒラの視線の先に笑顔で観客席に手を振るタイヨウがスタートラインまで実況席を飛ばしていく様子が見えた。


「ナリとタデマルはわっちの横に立て。その方が“見やすい”じゃろ」


 その言葉通りにカグヤ妃を2人が挟んだ。ナリヒラがカグヤ妃のモニターの位置を確認する。


「3-7-1だ。繰り返せ、ナリヒラ」

「はい! 3-7-1!」

「敵は2周過ぎまで仕掛けてこないだろう。それまで“見る”以外、余計な力を使うな」

「はい! 待機します!」


 首の長い水竜とそれに跨る騎手たちが10頭、スタートラインに並ぶと、会場に荘厳なファンファーレが鳴り響いた。力強く響くその音色は、まるで空気を震わせるように観客の胸に響き渡り、ナリヒラは心を一層熱くした。


「只今より、競ナプレ開催を始めます!」


 アナウンサーが声を張り上げると、会場は静まり返った。


 スタートラインはいつの間にか海上に現れた白い大きな石壁だ。片面ずつにバベル王国とシナン諸島連邦の国章が刻まれている。この即席のスタートラインは以前ルイが切り出した石の余りをヴォルフガング領の職人たちが快く改造してくれ、数時間で完成。スタートが終わればタイヨウが鉱山に転移させて戻すことになっていた。


 本物の競馬場を見慣れているタイヨウにとってはいささか面映い出来ではあったが、『海上にあるはずもない巨大な石の建造物が浮かぶ』という絵はかなりのインパクトがあり、バベル王国でパブリックビューイングを観ている者達を高揚させた。


 レースが始まる。


 アナウンサーのサザーランドが、そこで伝説となるアナウンスを行った。


「みなさん、瞬きは一度までです」


 船上も、バベル王国内の会場も、水を打ったように静まり返った。


「この3週のレースは大体2分以内に決着がつきます。ヒトは1分間は瞬きをせずに耐えられると言われております。この試合、見逃していい瞬間はございません。バベル王国、そしてシナン諸島連邦の友好の架け橋の上を駆け抜ける夢の2分間をお楽しみください」



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