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転生DKの帰還〜男子高校生ですがお嬢様やってたらチートな天使様になって、ついでに世界も救っちゃいました〜  作者: 森戸ハッカ
最終章 天使の覚醒

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84. シナンプリンス初日 X-DAY マイナス2

 夜の闇に包まれた王都ゲラン街の中央公園で、最奥に設置された巨大プロジェクターを睨みながら新聞記者のゲイリー・シルヴァンは貧乏揺すりを続けていた。芸能ページを担当する彼は、聖誕祭の花形であるゲラン座の取材から外されたことをまだ根に持っていた。


(しかも担当は新人のマリスだと! あんなやつにバルバロッサのエスプリがわかるものか)


 30歳で脂の乗り切ったベテラン記者は眉間の皺を深めた。いまやゲラン座のスター女優となったバルバロッサには端役の頃から注目をしてきた。それなのに今年はゲネプロにすら立ち合えていない。今回の演目は王の西方見聞録の中でも人気の高い“巨人族の島”編だというのに!巨人王がバベル人が乗る馬を手に乗せて見入っている間に、囚われていた酋長の娘ドラゴン・リリー(演:バルバロッサ)を救い出すシーンがどのような演出になっているのかいち早く知る権利は新人ごときが得ていいものではない。


 とはいえ、長いものに巻かれざるを得ない会社員記者として指示には従わなくてはならない。


 義務感から1週間前から始まったシナンプリンスの連続ドラマ風ティザームービーには目を通していたが、ゲラン系である彼はそこに描かれる汗と涙の青春ストーリーに鼻白んだ。


 『芸術とは、現実の仮面を外し真実の姿を映し出す鏡である』 とは、他領出身者で多くが形成される新聞社で“芸能ページはゲラン系記者で”という不文律を打ち立てることになったマリ=テレーズ・ラヴィエール女史の言葉だという。


 “シナン諸島連邦の王子でもあるフィガロ公とバベル王国の平民が立場の垣根なく愛と平和を希求して舞い踊る”


 質素なチケットには、そんな大層な“仮面”が掲げられていたが、それを剥ぎ取れば真実の姿はあのティザームービーのように泥臭いものなのだろう。そしてシナンプリンスはシュリ姫の前座だ。本編のシュリ姫コンサートのタイトルは“underconstruction”。シナン語で建設中、作り途中というような意味を持つらしい。


 シュリ・シナン・バベル。

 王の末娘、非業の死を遂げたクマリ妃の忘れ形見。未曾有の大災害に見舞われたシナン諸島連邦の希望の星が幼い身ながら民を想って歌うという“仮面”は美しいが、芸術と呼べるものになっているのかは甚だ疑わしい。王族のお遊戯会に付き合わされる自分の不遇のなんと恨めしいことか!


(まあ、いい。質が芸術の域に至ってなければシナンプリンスとシュリ姫のコンサート記事は芸能ページではなく、()()()()()で扱ってもらおう)


 巧妙な意趣返しを思いつき、ようやく気持ちの落とし所が見つかったところで、広場の照明が落とされた。会場に集まっていた者たちが期待で静まり返った。


 嵐の前の静けさの重たい静寂。


 会場は立席で、空きスペースの具合を見れば、売れたのは7〜8割といったところか。

 見れば脚元に誘導灯が置かれており、広場の周囲には王国軍が警備にあたっている様子も窺える。安全面には気を遣っているようだが、プロジェクターがあるだけで味気ないことこの上ない。お粗末と言い切っていいほどだ。


 しかし、ライブが始まるとゲイリーの意識は一変した。


 会場の照明が暗くなり、観客の期待と興奮が高まる中、プロジェクターに登場したメンバーたちは、一瞬にしてその場の空気を変えた。


 夕暮れのビーチの前に設置された特設会場の上に、立つ10人の男たち。写真で見た黒天使のデビュタントの衣装を思わせる、一風変わったデコラティブな服装だ。10人の人垣が割れると、中央で見覚えのある色気が滴るような美丈夫が立ち上がる。


 プロジェクターの前に陣取ったシナン系の男達、そして周囲を固める警備の者たちも一斉に腕を振り上げた。


「キラン! キラン! タイガー! ファイヤー! サイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!」


 聞き慣れぬコールは原始的な快感を呼び覚まし、ゲイリーは無意識のうちに両腕を粟立てた。このベテラン記者は、彼らがどのようにしてこれほどの熱量を集めるのか理解するいい機会だと考えていたが、実際に目の当たりにしたものは彼の想像を遥かに超えていた。


 音楽が始まり、彼らのキレのあるダンスが繰り広げられるとゲイリーはその見事なパフォーマンスに戦慄した。まるで機械のように正確でありながら、感情のこもった動きは観客の心をつかんで離さない。リズムに乗った一糸乱れぬ動き、複雑な振り付けを軽々とこなす姿は、ただのエンターテイメントを超えた芸術性を感じさせた。


 特にキラン王子がセンターでソロダンスを披露するシーンでは、その動きの速さと正確さ、そして表情に宿る情熱が一体となりゲイリーは息を呑んだ。彼らのダンスは単なるパフォーマンスではなく、観客との対話のようだった。


 予想以上に歌は上手い。だが逸脱したレベルではなく、歌詞は耳を滑る。


(――だが、ダンスは違う!)

 

 異次元のレベルが両目を奪ってやまない。瞬間ごとに繰り出される鋭いターンや、シンクロしたステップは、まるで言葉を超えて心に直接訴えかけてくるかのようだった。


 観客の歓声に包まれる中、ゲイリーは自分の中にあった偏見が音を立てて崩れ落ちるのを感じた。彼らの才能と努力、そしてパフォーマンスに対する真摯な姿勢に心から感銘を受けたのだ。3曲が終わる頃にはゲイリーは完全に意識を改め、今夜誕生した奇跡の男性アイドルグループへの敬意と感謝の気持ちで心を満たされていた。彼の取材ノートには熱意と敬意を込めた文章が綴られていった。


 喝采の中でペンを走らせていたゲイリーは、突然広場が暗くなったことに苛立って思わず舌打ちをした。


 視線を上げると暗い森の中に白いピアノが置かれている映像に切り替わっていた。


「なんでぶつぎりなんだ……舞台演出はどうなってる!」


 シナンプリンスの一ファンになりつつあるゲイリーはノートに顔を寄せながら怒りを書き殴った。


 しかし、まだあどけなさの残る少女がピアノの前に立つと、興奮の冷めやらぬ会場の空気が一変したのが感じられた。静寂が広がる中、彼女が最初の音を紡ぎ出すと、その美しいメロディーがゲイリーの耳に届いた。


“深い森のなかで

彼女は立ち止まり

ひとつ深呼吸をした。

大丈夫 太陽はまだ高い”


 彼の心はその瞬間に、永遠に捉えられた。澄んだ歌声は広場全体に響き渡り、まるで天から降り注ぐ光のように純粋で力強かった。少女の声には、年齢に似つかわしくない深い感情と表現力が込められていた。それはまるで、彼女の魂そのものが歌に乗っているかのようだった。


 ゲイリーは目を閉じ、全身でその音楽を感じ取った。彼の胸に、長年感じたことのない熱い何かが込み上げてきた。彼は思わず息を呑み、心の中で叫んだ。


(これだ、これこそが本物の芸術だ!)


 シュリ姫の最後の音が消えた瞬間、ゲイリーはまるで天啓を受けたかのように、心が洗われた感覚に包まれた。長い間冷静さと批判的な視点を貫いてきた彼の中に、純粋な感動が溢れ出したのだ。涙が頬を伝い落ちるのを感じながら、ゲイリーはその場で拍手を送り続けた。


 この瞬間、彼は知った。真の才能とは年齢や経験を超えて、人々の心に直接触れるものだということを。そしてその夜、彼の筆はゲラン系以外の芸術に初めて暖かい賛辞の言葉を綴り始めた。


 芸事に煩いゲラン領民は翌朝の新聞の芸術欄で、信頼の置ける芸能ジャーナリストの署名入り記事の一行目に目を細めた。


『それは人の形をした歌、いや祈りであった――』



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