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転生DKの帰還〜男子高校生ですがお嬢様やってたらチートな天使様になって、ついでに世界も救っちゃいました〜  作者: 森戸ハッカ
最終章 天使の覚醒

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76.コクーンの糸〈2〉 X-DAY マイナス8

 ゲオルグ王子の犯行に巻き込まれたとされる民間人は4年間で45人。いずれも15〜18歳の少女だ。発生時期のばらつきや、被害者が各領に分散していたことなどが原因で一連の被害者を関連付けて考えるのが遅れたという。


 無事が確認できた女性は25人。それ以外の20名は失踪したままだ。皆、凄惨な犯行を行った相手や場所、拉致の方法などは覚えておらず、行為自体と恐怖などの感情だけを記憶していることが共通している。


「捜査自体も後手に回っていたが、この3ヶ月は騎士団と協働することで……」


 そこでゴーダは言葉を止め、やがて自分を奮い立たせるように言い切った。


「……それでも残念ながら、犯行を未然に防ぐことはできなかったが、犯行日時にゲオルグ王子はゲラン宮にいる母妃を見舞うという名目で王宮から出ていることが確認できた。さらに3人の被害女性から同一の男性によるものと思われる体液を採取できた。メイ諜報部長の手配で、当該魔属因子が同一のものであると特定できている」  


 俗悪な部分はかなり端折られていたが、あまりの内容にタイヨウはこくりと小さく喉を鳴らした後、顔を上げた。黒天使の目は激しい炎を宿し、口元は固く閉ざされたままだ。その美しい容貌には、傷つけられた少女たちへの深い憐憫と、怒りにかられた心情が滲み出ていた。


「……そこまで揃っていて、ゴーダさんがここに来たということは、メイさんが……アボット家が確認したんですね? 体液の魔属因子がゲオルグ王子のものではないって」


 タイヨウの言葉にゴーダが重々しく頷く。


「左様。正しくは『2()0()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』そうです。ゲオルグ王子は10歳時に受けた想定診断時の体験が非常に不快だったとし、当主ジョルジュ・アボット氏を避け、ゲラン公爵付きの一級能力者によって確定診断を受けています。王宮に保管されている当時のデータは『3級水能力者』。しかし被害者に付着していた体液は『5級水能力者』のものでした」


 キランがなんとも言えない気まずそうな顔で、俺は3級の水系やけど、と割って入る。


「タイヨウの前でいうのもあれやが、平民相手に勃つならゲオルグは5級なんやろな。バレたらどうするつもりだったんやマジで。等級審査の偽装は罪がかなり重いぞ」


 無能力者の長男に続き、次男は5級。齢10にして特級のカザンを前にしたコーネリア妃やゲラン公の気持ちはわからないでもないが、偽装とは。いつまでも誤魔化せるとは思えない危険な行為だ。王にさえなれればどうにでもなると思っていたのか。


 同じく3級水系能力者であるリリガルドは吐き気を飲み込むような仕草をした後、口を開いた。


「あのさあ。確かゲオルグ王子はゲラン領に婚約者がいたわよね? エバーグリーン侯爵令嬢。確か3級の水系よ。アタシと同じ操獣系だって聞いたから覚えてる」

「え、アホやん。まじでどうするつもりなん? 王になったら縁嫁は3級で揃えられるやろ。逆に5級は3級には勃た……なんとかなったとしても子はできんやろさすがに」


 極めて俗物的だが、正直なキランの言葉に軽く吹き出しそうになっていたヒューが言う。


「――そのことなんだけど、2人は覚えてるかな? “ゲラン城去勢事件”」


 沈痛な面持ちであらぬ空を見上げたタイヨウとキランに「何、何の話?」とリリガルドが食い付いたので、ゲラン宮で発生した使用人虐待事件をかいつまんでヒューが説明する。


「は、鋏で……少しずつ……」


 白眼を剥いたリリガルド少年の頭をポンとたたくとヒューがニッと笑った。


「大丈夫! くっついたから! ミカド皇国のご支援で回復したズヨル青年はアーシリア王国に行き“家畜人”達を解放する活動家になるってさ」

「民間陸軍からだが、護衛もつけた。彼はゲラン宮で深刻な人権侵害が行われているという生き証人だ。さらに僥倖なことに、ズヨル青年はバベル生まれだった。彼は家畜人などではない。歴としたバベル人だ。元が移民だったとしても、雇用主貴族は現地戸籍を与えることが義務付けられている」


 奴らはバベルの平民を傷つけよったんだ、とゴーダが太い指を握り締める。


 糸を紡ぐように、少しずつ罪を明らかにする。その糸は平民という力のない存在の手によって編み出され、一本一本はとても儚い。だが糸を撚り合わせていけば、いつか大切なものを守る繭〈コクーン〉を作ることができる。それがコクーンプランだった。


「そんでもって、やっぱりゲランの言ってることは出鱈目だったよ。“処置”をさせられたモナハ嬢はズヨルの妹なんだって。当然彼女もバベル生まれのバベル人。ゲランに腹を立てている彼女が今奉公に上がってるのが……」   

「エバーグリーン侯爵家なのね!?」


 ヒューは察しのよいリリガルドに対して親指をグッと立てた。


「潜入した彼女の報告によると、やはり婚約者のジゼル・アデライン・エバーグリーン侯爵令嬢はゲオルグ王子とは没交渉。それどころか、当主を始め、家族は皆婚約者としての魅力が足らないせいだとジゼルに日々辛く当たっているらしい。そこで登場するのが後妻の娘、アンジュ・エバーグリーンだ」

「やっだ、テンプレすぎ」とリリガルドが舌を出す。


「3級で有能とされる姉と違って、5級水能力者である彼女は有力な結婚相手も見つからず、結婚後にジゼルの側仕えとして入宮することが決まっているらしい。なかなかやんちゃな乙女らしくてね……彼女の下着に度々本人のものではない“体液”が付着しているそうなんだ」


 タイヨウが顔を跳ね上げた。


「まさか、それが一連の拉致被害者に付着していた体液と……!?」

「ビンゴ! ゴーダさんたちがゲオルグ液だと睨んでたやつと完全一致した」

「ゲ、ゲオルグ液……」

「ゲオルグが没交渉であるはずのジゼルのためにアカデミアを訪れお茶をする日が妙に多いのも、アンジュが凡人の5級なのに魔法大学に通っている理由も見えてきたってわけ。アンジュは勉強も訓練もせず『一日一回、ささくれを治せる』ことを光魔法だとか言ってるらしい。ゲオルグ王子はジゼルではなく、アンジュとの間に子供を作る気なんだろう。お似合いではあるね」


 話を聞いていたタイヨウがはたと気づく。ほぼ無能力者のゲオルグ王子が平民の警察機構に捕らえられずに大量の拉致監禁という犯罪を犯すことは不可能だ。


 転移、認識阻害、記憶操作。

 この犯罪の裏には闇系能力者がいる。


 タイヨウが眉を顰めて問う。


「……アボット家は何してるんですか? この国は国民の9割が平民なんですよ。バベル王は平民の王です。ゲオルグ王子の行動は王位に傷をつけるものじゃないですか! 平和の象徴たる王に相応しくない。王家の、王位の守護者たる彼等が王位継承者に極悪非道な振る舞いを許すと思えないんですけど、ゲオルグ王子の担当アボットは誰なんですか?」

「……ゲオルグの担当は元当主、セバス・アボットだよ」


 その言葉にタイヨウとリリガルドが顔を見合わせる。


「え、何? あのおっさんが黒幕だったってこと!?」


 レイ王子の側を片時も離れない、忠実なアボットの老紳士の姿を思い出しながらリリガルドは口を押さえた。しかしヒューは頭を横に振る。


「それは違う。セバスさんは正確にいうとコーネリア妃の子息レイ王子とゲオルグ王子の担当なんだ。だが無能力者のレイ王子の身を優先的に護るべきだと()()()()コーネリア妃が仰って、実質レイ王子の専属になっている。王宮にいる間は現当主ジョルジュの籠の中だ。それでよしとされた、穴を突かれたんだ」


 タイヨウの脳裏に、この数ヶ月の記憶が飛び交う。


 ゲラン宮、ハンナ、メイ、ジョルジュ、セバス、ドビー、闇属性を増やしてきたアボット家、王の盾、王位継承選挙、新たなる王。


(カザンさんがウチに来た夜、僕は何て思った? カザンさんの周りにも“いいアボットさん”がいるんだなって思ったんだ)


 いいアボット。

 それは即ち、わるいアボットもいるということではないのか?


 タイヨウの背をぬるい汗が滑り落ちる。


「――新王が即位した時、アボット家当主も変わる。同性のアボットで最も力ある闇系能力者が新当主となり、守護者となる……。ヒューさん、ゲオルグ王子が即位したら、誰がアボットの当主になるんですか?」


 タイヨウの知るアボット家の人々は、それぞれ護る対象は異なっても、盾である己と互いを信じていた。どれだけ疎んでも、アボットの血を信じていた。


 『母は味方です』

 そう言い切ったハンナの言葉が蘇る。


 あのアボットに隙があるとすれば。己こそが1番の盾になりたいという欲なのではないか。

 

「――ゲラン公爵付き守護者、トラビス・アボットだそうだよ。行方不明のね」




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