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転生DKの帰還〜男子高校生ですがお嬢様やってたらチートな天使様になって、ついでに世界も救っちゃいました〜  作者: 森戸ハッカ
第三章 敵か、味方か

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47. 大陸の実情

「ああ、だからこそ、私はシュリを後継者に望む。だが、もちろん国内外からの反発がある事は我々の後援であるシナンも考えているよ」


 王の言葉に、シュリ姫が周囲と目を合わせてから口を開く。


 彼女自身は二十四歳まで生きた記憶を失っているはずだが、振る舞いも威厳も十歳のそれではない。彼女は既に王への道を歩み始めている一人の女性だった。


「現シナン国王、ガルニ陛下は私の即位と共にシナン諸島連邦をバベル王国の属国に降らせると仰せです」

「なんと……」

「よもやそこまで大災害の爪痕が深かったとは……」


 ノーマン公、ヴォルフガング翁の言葉に、シュリ姫の侍従達の顔が暗く沈む。


「――疲弊した国にアーシリア王国が奴隷貿易を拡げ、実質支配となりつつあります。シナンを護るためにはバベル王国の庇護下に入るのが最も得策です。そしてそれは大陸の平和を守るためでもあります」


 現地の人間には、この十年は醒めることのない悪夢だった。国民の半数を喪った国内は荒れ、ようやく立ちあがろうとしていた矢先に労働者をアーシリアに奪われ、海洋業と観光業、果実を中心とした農業など主幹産業も青息吐息だ。


「私は大きくなっても有能な能力者にはなれず、王冠の顕現ができるのも重要な式典の間だけになるだろうって鑑定をしてくれたジョルジュに言われました」


 クマリとして成人した時代を知るシュリ姫の侍従達が、そっと目を伏せる。


「でも、私には歌があります! 民に、周辺国に、きっと平和を願う想いは届けられると思うんです」


 その言葉にジョルジュが頷いた。


「シュリ姫はシナン特有の水系派生“歌”の能力者であられます。体内の水に影響し、聴く者の気分を高揚させる効果があります。録音で同様の効果が得られるかわかりませんが……」


 ヴォルフガング翁が提案したパブリックビューイングに対する言葉だと察した者達が憤る。


「うまくいかなけりゃ改良すりゃええんじゃ! ウチの工房は世界一じゃよ!」

「ジョルジュはいつも気を削ぐようなことを言って! 大人が子供の可能性を信じなくてどうするの? やってみなくてはわからないでしょう!」

「チカラが足りないのであれば僕も手伝います!」


 ヴォルフガング翁とタイヨウだけでなく、マーレ夫人も声を上げたことにフォルクスが驚いた顔をする。


「……ここにいる皆はシュリが後継者でいいということか?」


 王も微かに驚いた顔で皆に尋ねた。


 四貴家当主の是非は、土地の、そして民の是非を背負う。それがわからぬ者達ではないことを知るからこその驚きだった。


「ほら、こうなるじゃろ?」


 カグヤ妃は特に感情も動かさず、椅子に反り返って座ったままだ。


「そうやって臣下や民の気持ちを問う方に、我々は王でいてほしい。そしてそんな方に次の王となってほしいのですよ」


 フォルクスの穏やかな声に、ヴォルフガング翁が頭を振る。


「ゲランはどうかしておる。一度灸を据えるべきじゃよ。先代当主が亡くなり、コーネリア妃の兄であるというヴァイス卿をアーシリアから招いてからだ」


 耳慣れぬ名前を必死に覚えようと目を大きくするタイヨウに、ハンナが耳打ちした。


「ヴァイス卿は30年前からゲラン公爵になられた自称200歳の謎の多い人物です」


 だが、その言葉に素っ頓狂な大声でタイヨウが反応する。


「えっ!? 200歳!? その妹さんのコーネリア妃はおいくつなんですか?」

「100歳……らしい。見た目は20歳前後だが」


 妻を挟んでフォルクスが小声で囁くと、「はぁ……なんというか……随分と姉さん女房ですねえ」と言いながらタイヨウは小首を傾げ、王を見る。


 第一妃やその母国を貶すわけにもいかず押し黙る大人達に代わり、王がタイヨウに微笑んだ。


「――そう、だからコーネリアもアーシリア王国も子供が出来るとは思っていなかったはずなんだ。アーシリア王家は生殖期が我々と異なるため、縁嫁も周辺属国からの養子とすることも多かった。あるいは国内の縁者の。そんな状況で魔力が豊富な王家から縁嫁を出してくれたことには感謝しているよ。一級能力者の彼女が来ることが決まらなければ、僕が王になることも出来ず、カグヤや子供達に会えることもなかったからね」


 王を動かすほど独占欲の強いカグヤ妃も、コーネリア妃が嫁いだ頃はまだ子供だ。流石に割り切っているらしく、特に表情を変えずに話を聞いている。


「振り返れば、レイが産まれたことからゲランの異常は始まったように思う……アーシリアはエルフの血が濃いほど長命だが子が出来にくいという。だが、レイが産まれた。縁嫁で子を成したのはコーネリアで歴史上2人目だ」


 王になったのは千年前に1人だけ。そのときも世継ぎができぬまま兄弟へと代替わりしたという。


「アーシリアの貴族女性は60歳〜80歳が通常の出産可能年齢とされています。100歳で、しかも異民族相手に子を成し、さらに第二子も出産した例はないそうです」


 ジョルジュの報告に、ホタルが続く。


「アーシリア王国には水属性が多く、コーネリア妃も水属性なんですよ。水を具現化するのではなく、血を操作し身体強化に特化する傾向が多い点はミカドと通じるものがございます。そのため内密に我々もジョルジュ様と検証を続けさせていただいておりました。血筋を遡れば闇属性が必ず存在するバベル王国人の魔属因子が原因かと当初は考えておりましたが、それでは過去二千年のアーシリア縁嫁達が子を成せなかった理由にはならない。現在一番有力なのは“魔素の絨毯現象”です」


「まそのじゅうたん……?」


 シュリ姫陣営は既に話を聞いていたらしく顔色を変えていないが、タイヨウはもちろんノーマン公以下周囲の人間も首を傾げる。


「ハンナ、卓上のものを下げよ。そしてテーブルクロスかシーツの用意を」


 ジョルジュの命に、「僕も手伝いますよ!」とタイヨウが立ち上がった。


 謁見の間の仕様に唯一詳しいタイヨウの申し出に、ノーマン家の使用人がホッとした顔をしながら卓上を下げ始める。リネン類が仕舞われている控室にハンナと向かうと、タイヨウがこそっと尋ねた。


「なんだか、ジョルジュさんってハンナさんに当たりが強くないですか……?」


 荊を維持させようとしたこともそうだ。久方ぶりに会う親族とは思えぬ冷たい対応だった。


「実はソーレお嬢様の御付きになると報告しに行った時に読心されて……」


 ハンナが瞳を翳らせてため息をつく。読心とは犯罪者に対して行われる当主だけの魔術のはずだ。


「ええっ……!?」

「――私の頭の中にあった叔父と王をモデルにしたBLのプロットを見て以来、ああなんです」

「なるほど、自業自得ということですね! あ、これじゃないですか?」


 純白のテーブルクロスを見つけたタイヨウが、そのままテーブルの上に転移させた。


 部屋に戻ると卓上に白いテーブルクロスがかけられている。タイヨウが席に着くのを目で確認してから、ジョルジュが説明をはじめた。


「この花瓶を大ゲヘナ、このテーブルが大陸とします」


 テーブルの端に薔薇の飾られた白磁の大きな花瓶を転移させてから、片眼鏡のかかった灰色の瞳でタイヨウを見る。


「タイヨウ様、この花瓶をテーブルクロスごと持ち上げていただけますか? 全体を持ち上げるのでなく、底の設置面のみの一点で引き上がるようにして下さい」


「あ、はい」


 ツルツルと言われるままに花瓶とテーブルクロスを持ち上げると、テーブルの端が見えてきてしまった。制止の声もかからないのでそのまま上げていくと、大きなテーブルが1/10ほど見えたあたりで白手袋が制止のサインを出す。


「この白いテーブルクロスが魔素、テーブルが大陸としましょう。大陸は魔素に覆われていますが、供給の出所は大ゲヘナであり、ご覧のように量にはムラがあります。大ゲヘナの近隣であり……」


 そう言うと、ジョルジュは花瓶の横のテーブルクロスをさらにつまみあげる。


「小ゲヘナを擁するバベルは魔素が濃く、離れたヴィロンとアーシリア、シナンは魔素が薄くなります」


 ここもこのままにしてください、とジョルジュがタイヨウに指示をする。


「近年の研究で、大陸を覆う魔素は一定量であるということがわかりました。タイヨウ様、花瓶とこの点をさらに上に」


 大ゲヘナと小ゲヘナに見立てた花瓶とクロスの山が持ち上がると、テーブルの三辺がついに露になってしまった。


「どこかが増えればどこかが減る。これが“魔素の絨毯現象”です」


 ジョルジュの言葉に、節ついた手で口を覆ったフォルクスが呟く。


「バベルの魔素が増えている……?」


 ヴォルフガング翁がフォルクスを呆れたように見る。


「フン。元々特級が産まれるのはバベルのみじゃ。そのバベル能力者達のトップラインが年々上がっておる。ノーマン、其方が伝説の騎士団長と言われたあたりからよ」


 王が頷く。


「50年ほど前から現象は始まっているようだ。私自身一級だが、王が一級であることは近年なかった。そしてジョルジュのように洗礼式を前に特級と目されるアボット家もいなかったという。私が50、ジョルジュが49、ノーマンは……」

「42歳です。私と共に特級であった副長のゴーンは45です」


 夫の横顔を見ながら、マーレ夫人も口を開いた。


「私も魔力量が多くて特級認定されております。36歳です」


 そこで言葉を切り、タイヨウを見て切なそうに言う。


「……私の姉、この子の母親も一級でした。生きていれば40歳です。元々ノーマンは高能力が産まれやすい家系ですが、積極的に能力を伸ばす傾向のない女子の等級が高いことが続くのは珍しいと褒められたと母がよく言っていました」


 カグヤ妃が頷いた。


「男も女もない。そして、その現象は続いているんえ。馬鹿げたインフレーションを起こしながらな。うちのカザンは19。あの子は5つで庭を全焼させた。そしてタイヨウじゃ」

「僕は別にすごくないですけど……15歳です……」


 小声で答える主人の頭頂を見ながら、ハンナの胸の内にかすかな疑問が生まれる。タイヨウはバベル生まれではないが、それでも魔力が増えている。肉体がソーレだとはいえ、魔法は魂に紐くものだとされているにも関わらずだ。


「自身の評価を正当に下せないのは貴女の欠点ですね」


 ため息と共にタイヨウを見下ろしたジョルジュに、保護者たちが騒ぎ出した。


「んまぁ! 何てことを言うの! うちの黒天使は下界の基準がまだよくわかってないだけよ」

「そうだ! タイヨウちゃんに欠点などないぞ! 男を見る目がないだけだ!」


 熱り立つフォルクスに、ギシリと爪に火を灯しながらカグヤ妃が牙のような八重歯を見せて微笑みかける。


「ほう? それは面白いの、ノーマン。タイヨウの見る目のなさとやらを詳しく教えてくれるかえ?」


 カグヤ妃を抑えるようにジョルジュが咳払いした。


「ンンッ! 私は事実を言ったまで。この現象は、2000年前に同様の事象が起きていたと考えられます。私たちはいわば先祖返りなんですよ」

「先祖返り……」


 ジョルジュの言葉をハンナが小さな声で反芻する。ソーレと初めて相対したとき、魔族だと思ったあの感覚を思い出しながら。


「バベル建国の百年戦争。あの時代も、恐らくバベル王国の魔素は濃くなっていたと考えられます。当時開発されたカルマを動かせるのは私たちだけ。それが何よりの証左です」

「……この現象は“どこかが増えれば、どこかが減る”もの。バベル以外の国々では今魔素が減少しています。シナンで発生した大熱禍も、ゲヘナから来た病に魔力を失いつつある身体が抵抗できなくなったことが原因だという説が濃厚です。ミカドの皆様のお力を借り、調査するとシナン諸島連邦全域で魔素の減少が確認されました」


 シュリ付きの侍従が初めて口を開いた。浅黒い肌をした年嵩の侍従の穏やかな声には、並ならぬ苦悩が伺えた。


「元々魔素の少ないヴィロン共和国ではそれほど変化はありませんでしたが、アーシリアも同様でした。さらにアーシリア王国は100年前にコーネリア妃が誕生して以来、王室本家に子供は産まれていないことがわかりました。いくら子が出来にくいとはいえ、異常事態です」


 ジョルジュが言うと、王が重々しく頷いた。


「――アーシリア王家は過去に例を見ない深刻な少子化に悩まされている。それなのに24年前にコーネリアがレイを産んだ。アーシリアは驚いたはずだ」

「子を産めない女をバベルに与えたはずなのに、とな」


 カグヤ妃の言葉は、コーネリア妃が他の男と子作りを試した上でバベルに渡ったと匂わす発言だ。ノーマン家が目を丸くする。


「何を驚くことがある。あの国は純潔にこだわらんのよ。倫理も他所とは異なるんえ。等級が合えば血が繋がった兄妹でも子を作る。そういう国なんじゃ」

「フン! 全く胸糞が悪い。子供の前で言いたくはないが……ゲオルグ王子は臨床実験の結果みたいなものじゃろうて」


 未曾有の少子化に悩むアーシリア王国に届いた、妊孕適齢期を過ぎたコーネリアの妊娠。無能力者ではあったがレイ王子は無事に育っている。


 コーネリアだけの事象なのか?

 バベル王国人となら子ができるのか?

 バベル王国で妊娠すればいいのか?


 狂った検証は続けられたはずだ。結果はどうだ。コーネリア妃は第二子を出産した。夜渡りが停止されなければ、王の子とされる子がさらに増えていたかもしれない。


 既に第一妃となったコーネリア妃が人を排して会える人物は少ない。王妃の実の兄とされるゲラン公爵の狂気の結果がゲオルグ王子であるとヴォルフガング翁は示唆していた。


「現法ではアーシリア王国に原籍を置く者はバベル王国に長期滞在が出来ない。バベルの血ではなく、地に打開策があるとゲランは考えている以上、ゲオルグが王となれば、まずその法を変えるだろう。バベルをアーシリアの属国にする可能性すらある。……だが、私にはそれを止める手段がない」


 初めて明かされた王の苦悩と本心は、面差しに深い陰を落としていた。


 平和の象徴であるバベル国王は最高権力者ではなく、後継者を選ぶことすらできない。だが、“王位継承者選挙”を命ずることはできるという。王位継承者選挙は四貴家の投票を40%、国民投票を60%とし、最上位に選ばれた候補者が後継者となるというものだ。


 しかし国民の大半が浮動層だ。ゲオルグ王子の乱行を知る者も少ない。聖誕祭が印象に残ればそれだけ優位に働く。そして王位継承選挙は四貴家当主が自領民の7割以上の同意を得れば発動できる権利を持つ。


 小さな隣国からも縁嫁は来ていたが、実質ヴィロンとシナンからの縁嫁が王位を繋いできたため、暗黙の了解で交代制となっていた。長きに渡り発動されたことはない王位継承選挙だが、ゲラン公爵は行動に移すだろう。


 カザンはまだ王位継承権を放棄していない。今選挙を行えば国民投票は間違いなくカザンに傾く。だが当人のカザンにも生母カグヤ妃にもその意向はなく、今後唯一の対抗馬としてシュリが名乗り出るまでには時間がかかる。候補者は王の子であり、洗礼式を終えていることが条件となるからだ。


「――恥を忍んで頼む」


 王は立ち上がり、深く腰を折って頭を下げた。


「陛下! おやめください!」

「坊ちゃん! いや、陛下!! 臣下に頭を下げてはなりませんぞ」


 ノーマン公とヴォルフガング翁が慌てて立ち上がるのを見て、王はようやく安堵した顔になった。


「私の頼みは、聖誕祭で鉄壁のゲラン領を崩してほしいというものだ。そして5年間、王位継承選挙を見送るよう私に頼んでほしい」


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