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転生DKの帰還〜男子高校生ですがお嬢様やってたらチートな天使様になって、ついでに世界も救っちゃいました〜  作者: 森戸ハッカ
第三章 敵か、味方か

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44. 夜明けの来訪者

「ハンナ、“荊”を起こせ」


 地響きとともに、異常な音はなおも続いていた。タイヨウを連れて最上階――主寝室の控えの間に転移し、跪いたハンナに向かって。ノーマン家当主フォルクスはナイトガウンを脱ぎ捨てながら扉を開け、低い声で命じた。


「ハッ」


 ハンナが床に手をつき、魔力を流しはじめる。緑に光る魔法陣が浮かび上がり、轟音とともに屋敷を鉄の荊が包み込んだ。窓が封じられ、室内が暗く沈む。そこへ、張りつめた緊張が重くのしかかった。


 ノーマン公が長い前髪を、節くれた武人の両手で後ろへ撫でつける。そこに復活したのは、伝説の王国騎士団元団長『鷹のフォルクス』の面差しだった。


「タイヨウ、家族を集めて王宮のノーマン領階へ移動。身の回りの品は置いてある。着いたらマーレの指示に従え」


 口調は、愛娘に向ける父のそれではない。だが、そんなことを気にする余裕は誰にもなかった。子供部屋へ侍従を走らせた養母マーレが、緊張した面持ちで頷く。


「あの〜……」


 ぺたり、と床に座り込んだままのタイヨウが、間の抜けた声で右手を上げた。


 いきなりの臨戦体制に、さすがの黒天使も驚いたのだろう。束の間、父親の顔を取り戻したフォルクスがしゃがみ込み、目線を合わせる。


「タイヨウちゃん、大丈夫だ。どんな魔獣を連れて来ようとノーマン城は落ちない。王宮には王師も詰めている。だから何も心配はいら……」

「あ、そうじゃなくて。これ、魔獣じゃなくて象さんの鳴き声じゃないですか? あと、ラッパの音もしている気がしますけど」


 耳に手を当て、首を傾げる愛娘。ノーマン公夫妻が目を丸くする。


「ハンナさん、索敵できます?」

「人、10。動物の気配が2です」


 防御壁の魔法陣起動に、思わぬ出力負担を強いられたハンナが額に汗を浮かべて答えた。魔力が高かった時代に設定された、根こそぎ吸い上げるような強靭な作り――その維持に手こずっているのが見て取れる。


 アボット家の索敵が沈黙したのを見て、タイヨウはフォルクスに問いかけた。


「ほら、攻めるにしては少なくないですか? 僕、一旦外に出て見てきていいですか?」

「……俺も行こう」


 フォルクスが、エスコートするように腕を差し出す。タイヨウはするりとそこへ手を入れ、父を見上げた。


「父様が一緒なら、飛べますね」


 にっこり笑って、タイヨウはノーマン公爵邸を見下ろせる上空へ転移する。


 地上からおよそ百メートル。早朝の強い海風が二人を煽ったが、瞬時に風を支配したフォルクスがタイヨウを片手に抱き上げ、体勢を立て直した。


 轟々と耳を打つ風の音が、すっと遠のく。肌を刺す寒さも消える。――なるほど、風能力とは便利なものだ。タイヨウが内心で感心している間に、鷹のような目で地上を睨んでいたフォルクスが野太いため息を吐いた。


「象と姫と王妃だと……?」

「すごい! よく見えますね!」


 象と人影まではわかる。だが、タイヨウがどれだけ目を細めても、そこまで判別できない。手庇を作り必死に覗く愛娘の頬へキスを落とし、フォルクスは諦めたように言った。


「身体強化を瞳にかけるんだ。洗礼式が終わったら教えるよ。ところで、邸側にいる象の前に降りられるかい?」

「はい!」


 象は二頭。タイヨウは頷き、地上へ転移する。


 巨大な象の上――櫓に鎮座ましました麗しき女性。その姿を見上げ、タイヨウは思わず大声を出した。


「カグヤ様!?」


 その声に、カグヤ妃は赤い唇の端をにい、と上げた。頬杖をついたまま、ノーマン公へ語りかける。今日は着物ではなく、赤い絹のサリーのような民族衣装。白い髪も片側に流して下ろしていた。


「ノーマン、久しいの」


 日本の動物園で見た象より二回りは大きい巨象。その背に、黄色い花と極彩色の布で飾られた木造の櫓が乗っている。象の体にも金糸の豪奢な刺繍が施された赤い布がかけられ、絢爛な巨大建築物のような存在感で荒い鼻息を吐き出していた。


「カグヤ様、ご無沙汰しております。今日はまた随分突然なお出ましで……シュリ姫、見えておりますよ」


 ふわりと浮いて礼をし、象上の人影へ目線を合わせたノーマン公がニヤリと笑う。


「申し訳ございません……! シナンとこちらは時差があるから、今行ってはご迷惑だと止めたんですけれど……!!」


 カグヤ妃の後ろに隠れていた姫君が、半泣きでぴょこんと顔を出す。褐色の肌に金色の瞳、群青色の長い髪をポニーテールに括った――バベル王国の第一王女シュリ姫だった。


 金糸で複雑な刺繍が施された、淡い水色の腹部が出る姫装束が十歳の少女を華やかに彩る。ノーマン公と目が合った瞬間、シュリ姫はたちまち顔を赤らめ、両手で口を覆って吐息を漏らした。


「はゎぁ……かっこよ……顔が良……!!」


 幼い頃からなぜか年上の男性にばかり目がいくシュリ姫は、十歳にして『三十五歳以上の男性でないと昂らない』という特殊な性癖を拗らせていた。それが武を尊ぶバベル王国の王族教育と融合し、『引退した武人こそ至上主義過激派』というマイナー民へ昇華している。


「姫、ノーマン公には奥様が……」


 姫の後に控えていた乳母らしき女性が耳打ちすると、シュリ姫は胸を張る。


「もう、ばあやったら! 何度も言いますけど、シュリはおじさま達をそんな眼で見ているわけではないのです! ノーマン様はこの国の至宝です! 遠くから拝むだけで生きる活力が得られるのです!」

「シュリ姫、うちの旦那も40を超えておりますよ?」


 カグヤ妃の後ろから顔を出したホタルが、にこりと微笑む。するとシュリ姫は腕を組み、しれっと答えた。


「うーん、セミさんはなんか違うんですよね……」


「なんでカナ!? おじさん泣いちゃうよ!? もしかして、おじさんまだバリバリの現役だからカナ?」


 傘を被り、象を操っていたセミマルが振り返る。今日は忍びの黒装束ではなく、南国風の白いお仕着せだ。人の良さそうな素朴な中年男性――そこに漂うおじさん構文を嗅ぎ取ったシュリ姫が、袖で鼻を覆った。


「あ、無理……」

「残念じゃったのぉ、セミマル」


 キャッキャとはしゃぐ、馬上ならぬ象上のやんごとなき方々。


 その中心へ、タイヨウがセミマルの背革に転移し、象の頭で正座した。


「あの〜……父様を見に来たということでよろしかったですか? あの荊、維持が大変みたいなんで解除させてあげたくて……あ、僕タイヨウです。シュリ姫、初めまして」


 屋敷を覆い隠す無数の鉄の荊を指差し、寝巻き姿の令嬢はぺこりと頭を下げる。シュリ姫の瞳が、きらりと輝いた。


「はじめまして! ということはカグヤ様、こちらがカザン兄様の……?」

「そうえ。ノーマン、孫の顔が楽しみじゃのぉ?」


 白い喉を晒し、カグヤ妃が呵呵と笑う。ノーマン公の笑顔が引き攣った。


「ハハッ、カグヤ様もご冗談を。まだまだ嫁に出す気など……ねえ、タイヨウちゃん。パパの顔を見なさい。なんで今視線を逸らしたんだい? ねえ」


 巧みに風を操って娘の顔を覗き込もうとするフォルクス。拒まれている哀れな攻防。

 その様子が公式の解釈違いすぎて、シュリ姫は青褪め、再び長い袖で鼻を覆った。そこへ、カグヤ妃がまた大笑いする。


「ン゛ン゛ッ! タイヨウ様、今しばらく荊はそのままに」


 象の横――いつの間にか、黒い執事服の長身の男が立っていた。灰色の髪と瞳、表情の抜け落ちた鉄仮面フェイス、片眼鏡。


 絶対アボット家の人だ。タイヨウは見下ろしながら、こくりと頷く。


「ジェイ!? まさか……」


 急いで地に降り立ったノーマン公を見る。男は一つ頷き――その背後に、王その人が現れた。


 ノーマン公が跪くのを見て、慌ててタイヨウも象から飛び降り、隣に跪く。


 褐色の肌、金の髪。獅子と讃えられる見事な二メートルの長身。

 そして何故か、ぐったりとした甥キランを背負っている。


 王アグニ・シナン・バベルはノーマン公に、すまなそうに言った。


「ノーマン、悪いが少しの間謁見の間を貸してくれないか?」

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