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転生DKの帰還〜男子高校生ですがお嬢様やってたらチートな天使様になって、ついでに世界も救っちゃいました〜  作者: 森戸ハッカ
第二章 王位継承バトルロワイヤル開幕

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25.リリガルド

 夜会を怪鳥に襲われるという未曾有の騒動の翌朝。

 ノーマン公爵邸に、早朝から土下座のまま匍匐前進めいた動きで現れたのは――オータム商会のトップ。すなわち昨夜の元凶、リリーマリー・オータムの父であった。


 サルバトーレ・オータム。代替わり後、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続け、いまや四貴家に並ばんとする資産家になったはずの男。

 だが現れたのは、小猿のような印象の背の低い中年男性だった。品のいいスーツを身につけてはいるが、どうにも着こなせていない。


 しかし――ひとたび声を発した瞬間、その印象はひっくり返った。


「この度は大切なお嬢様の一生に一度のデビュタントを、()()が……本当に申し訳ございませんッッ!!!」


 玄関先でジャンピング土下座。大理石の床に額をぶつけ、血を流しながらオータム氏は続けた。


「その上、タイヨウ様のお口添えで皆々様にご寛恕いただき、厳罰を免れたとお伺いしております! 何という優しさ、寛大さ! このオータム、終生タイヨウ様にお仕えする所存でありばずっっ!!」


 滂沱の涙と鼻水。再度、土下座で顔面を叩きつけたことで出た鼻血。先程の額の出血。


 汚い。汚いが、目が離せない。

 計算され尽くした過剰なパフォーマンスと、独特の求心力を持つ声――それが大富豪へと成り上がったオータム氏の武器だった。


 正直「こいつ苦手なんだよなあ」という顔を隠しもしないノーマン公爵。

 そして、思い描いたデビュタントが果たせなかった怒りをまだ燻らせているマーレ夫人。

 二人が返答をあぐねていると――玄関上のバルコニーから、ツインテールに水色のサマードレスを身につけたタイヨウが顔を出した。


「僕は何も……お口添えなんてしてないですよ〜!!」


「タイヨウちゃん、めっ!!」


 子猫をあしらうように叱責するマーレ夫人に、ノーマン公爵も続く。


「今日は一日、お部屋にいなさい! まだ15歳なのに、どこぞの馬の骨とも知れない男と2人きりで夜を過ごすなんて……パパまだ怒ってるんだからね!!」


「どこぞのって……だから一緒にいたのはカザンさんですし、2人きりじゃなくて楽団の皆さんもいましたし、夜というか15分ですう!! 15分後にはおうちに戻りましたー! でもごめんなさあい!!」


 怒られ慣れていないタイヨウが、大粒の涙をたたえて弁解する。

 その声に反応したのは、オータム氏の後ろで片膝をついて控えていた、ピンク色の髪の“少女”だった。――いや、よく見れば少年だ。


 パッと顔を上げる。


「15分も!? 初対面なのに婚約者面してた男と!? 平気だったの?」


 きゅっと上がった形のいい吊り目。整った顔立ち。長い睫毛に縁取られた杏色の瞳が、心配の光に揺れる。

 歳はタイヨウやレオンと同じくらいだろう。黒い細身のスーツを着ても学生服に見えないのは、少年がすでに“風格”と呼べるものを身につけているからだ。


「誰……?」


 玄関のドアの陰で盗み見ていたレオンが、怪訝な顔で少年を睨む。


「あ、リリーマリーさん! 大丈夫だったですか? 昨夜、僕が戻ったらもういらっしゃらなかったので、心配したんですよ〜」


 懲りずにバルコニーの隙間から覗いていたタイヨウが、喜色を弾けさせる。


「アタシは大丈夫! それよりあんたのことが心配!」


 そう答えながら、バルコニーの下へ駆け寄ろうとする“美少年”。

 昨夜の騒動の発端となった“美少女”のはずの姿と、目の前の存在がどうしても一致しない。

 ノーマン家の一同は、ハンナも含めて首を傾げた。


「「「……ええ〜〜〜ッッ!!!??」」」


「ごもっとも、ごもっともでございます! 昨夜ご迷惑をおかけしたのは、正真正銘これ! 我が家の末子、リリガルド・オータム。女装が大好きな男子にございます!!」


 平伏する父の言葉に、リリーマリー――否、リリガルドは、なぜか若干ポーズを決めて挨拶する。


「リリガルド・オータムです。でも女子服の時はリリーマリーって呼んで欲しいです!」


 沈黙の後、ハンナが淡々と落とした。


「斬新……」


 そしてそのまま、タイヨウへ向き直る。


「タイヨウ様、あの子が男の娘だってご存知だったのですか?」

「はい! 僕、肩を抱いたりと密着したからですかね……骨格的にそうかなとは思っていました! あと耳の形ですね」

「ほう……? で、昨夜はカザン様とどこまで密着を?」

「ミ゛ッ!? しししてませんよ! そんなに!」

「そんなに〜〜??」


 真っ赤になって否定するタイヨウと、半眼で詰め寄るハンナ。

 その攻防を見かねたノーマン公爵が、呆れたように告げる。


「もういいから、一回降りてきなさい!」


 客間に通されたオータム親子と、ノーマン公爵家の一同が腰を落ち着かせる。

 オータム氏は汗を拭きながら、今度は“朗らかな父”の顔で言った。


「いやあ、これの姉達と兄が見事に私似なんですがね。リリガルドだけは見事に母親の生写しで生まれたもんですから。可愛くて可愛くて、家族総出で着せ替え人形のように育てたら、これですわ。ハハハ」

「ごめんね、パパ。アタシが可愛いばっかりに」


 ええんやええんやと猿顔をほっこりさせながらリリガルドを眺めるオータム氏に、ノーマン公爵の声が低く落ちる。


「……反省の色が見られないんだが?」


 元騎士団長の睨みは、能天気な親子にすこぶる効いた。

 二人はぴたりと呼吸を揃え、ソファから飛び降りてジャンピング土下座。

 顔貌は似ていないが、中身はよく似ている親子らしい。


「滅相もございません!! ノーマン様にはお詫びのしようもございません! 昨夜の費用は全て当オータム商会で賠償させていただきますし、次回の仕切り直しの際はマダム・バタフライの優先派遣、およびドレス製作費用をもたせていただきます!」

「アタ……ボクも反省してます! それに……」


 リリガルドが片膝をつき、タイヨウを熱い瞳で見つめる。


 長身で筋骨隆々、武人としての佇まいを隠しきれないカザンと比べれば、華奢な美少年のその仕草は絵本の中の王子様のようだった。

 ――あくまで見た目だけではあるが。


「恥ずかしながら、昨夜アタシったら勝手に対抗して……きっとタイヨウ様は天使をテーマにするだろうから、そのコンセプトで最高のものを選んでぶちのめすつもりだったんです」

「ぶち!?」


 マーレ夫人がワナワナと震える。

 だが当人は気づかず、陶酔しきった顔のまま続けた。


「ところが完敗、完敗です! 昨夜のタイヨウ様の素晴らしさ!! 夜会服の新解釈、新境地! だってミニスカートですよ!? ミニってあり得ます!? 下品になりがちなところをトレーンで優雅さを加えてまとめ、黒で少年性も表現してって、本当どこの天才プロデューサーの偉業!? まさに天使の……ダメ! 無理無理! これ話出したらトレーン部分だけで2時間かかる! 尊い!!」

「わかるわあ」


 オタク特有の早口一本調子で悶えるリリガルドに、マーレ夫人が渋面を一転させ、驚くほど「わかる」という顔で頷いた。


「あー、リリガルド君。我が娘の素晴らしさはわざわざ説明していただかなくても……」


 ため息をつくノーマン公爵の横で、レオンもウンウンと頷いていた――そのところへ、汗を拭きながらオータム氏が割って入る。


「あいや、ノーマン様! 本日お伺いしましたのは御内密にお見せしたいものがありまして……こちらでございます」


 恭しく開かれた小さなアタッシュケース。

 中を覗き込んだノーマン公爵が、思わず息を飲む。


「これは……!」





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