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転生DKの帰還〜男子高校生ですがお嬢様やってたらチートな天使様になって、ついでに世界も救っちゃいました〜  作者: 森戸ハッカ
第一章 男子ですが、異世界令嬢になりました

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タイヨウ転生(仮)

時は、一か月前に遡る。


「まって……! 情報が! 多い!!!」


 そう叫び、頭を抱えたのは、波打つ艶やかな黒髪を持つ美少女。

 ……の身体に、いきなり閉じ込められてしまったタイヨウ(十五歳・男子)だった。


 中学卒業と同時にマグロ漁船へ乗ることを決め、わずかな家財道具を抱えて古いアパートの扉を開いた――はずだった。

 だが、その先に広がっていたのは、見慣れた西新宿の街並みではない。洋館の一室だった。


 そして目の前には、“自分”が満面の笑みで立っている。


「やった! できた! できたわ!!! 私ってすごい、天才!」


 きゃあきゃあと両手を口元に当て、ぴょんぴょん飛び跳ねているのは、数分前まで自分が入っていた身体。

 瞳を覆い隠すほど長い前髪に学ランをまとった、華奢な少年の姿である。


 厚みのある敷物の上で跳ねているため、ぽすん、ぽすんと音は吸収され、足音はほとんどしない。

 タイヨウは呆然としたまま、部屋を見回した。


 ウール地に複雑な幾何学模様が編み込まれた絨毯。

 壁と部屋の隅に対になって置かれたランプ。

 レースの天蓋がついたベッドに、品のあるカフェテーブルセット。

 その奥では、暖炉の火が静かに燃えている。


 人間は危機的状況に置かれると、まず自分の持つ知識を総動員して状況を把握しようとするという。

 生き延びるために。適応するために。


 しかし残念ながら、極貧家庭に生まれ育ち、ファンタジーとは無縁。掃除屋のバイトだけはやたらと経験してきたタイヨウにできた分析は――


(部屋の広さ、約二十畳。お金持ちですね……!)


 それだけだった。


「――あんた、馬鹿ァ?」


 口をぽかんと開けたままへたり込むタイヨウの両頬を包み込み、キスするほどの距離で、タイヨウの体を持つ人物が覗き込む。


 さすがにムッと顔をしかめたタイヨウを抱き起こし、


「ごめん! ごめんね、タイヨウ。このセリフ言ってみたかったの! わたしの名前はソーレ。ソーレ・ドゥフト。あなたが今入っている体の持ち主よ!」


 そう言って、大きな鏡の前へと引っぱっていった。


 鏡を見たタイヨウは、あんぐりと口を開ける。


 夜明けの空のようなアメジスト色の大きな瞳。

 濡れたように輝く、腰まで波打つ黒髪。

 白磁色の肌を包み込む、白いモスリンのエンパイアドレス。


「ど……」


 タイヨウの喉からこぼれたのは、甘やかな少女の声で。


「ど?」


 ソーレと名乗る、タイヨウの体を持つ少女から返ってきたのは、聞き慣れた自分自身の少年の声。


「ど……」

「ど?」

「ど……ど……」


「どういうことなんですか~~~~!!!!!!」


 叫んだタイヨウの両肩を、ソーレはガシッと掴み、にっこりと笑って宣言した。


「いい質問です! 転生です! これから一年、あなたにはソーレ・ドゥフトとして生きてほしいの」


「てんせい。……本屋で平積みされている本によく書いてある、あの転生ですか!?」


 宝石のような瞳をぱちぱちと瞬かせるタイヨウに、ソーレはうんうんと頷く。


「厳密にいうと転生じゃないんだけどね。お互いのカラダを交換したの。それでお互い住む場所も交換できれば疑似転生じゃない? ニッポンのラノベを読みつくしてよかったわ! アイデアの宝庫ね。禁書よりよっぽどタメになったもの。王国図書館におさめるべきだわね」


「らのべ……待ってください、また情報が渋滞して……」


(そしてこの有無を言わさない圧力がおばあちゃんと似てて、身体が勝手に『仕事を命じられるモード』に……!)


 頭を抱えるタイヨウに、一冊のノートを差し出しながら、ソーレは窓の外を指さした。


「ここはバベル王国のドゥフト領。そこをおさめるドゥフト男爵の屋敷よ。あなたがさっきまでいたニッポンとは違う世界線なの。私がいなくなった後もあなたが困らないよう、細かいことはこのノートにまとめておいたから、落ち着いたら読んで頂戴。社会風俗の差も理解できる範疇だと思うんだけど、一番違うのは……」


 そう言いながら、ノートの文字をトントンと指し示す。

 そこには、かつて図鑑で見たメソポタミア文明の楔形文字のような、見慣れない文字が並んでいた。


「読める?」

「読めません」


 タイヨウが素直に首を振ると、ソーレは指を鳴らし、


「“ワルト!”」


 と唱えた。


 思わず、タイヨウは息をのむ。

 楔形文字が一瞬歪んだかと思うと、日本語に変換され、『タイヨウへ』と読める文字へと変わったのだ。


「この世界には、魔法が存在するの」


 そう言って、ソーレはタイヨウの右手を握り、自身の右手を心臓のある場所へ添え、そっと跪いた。

 明るい口調とは裏腹に、その手は冷たく、かすかに震えている。


 タイヨウは、まだ知らない。

 ソーレの育った国では、それが“命を捧げる”ことを意味する最上級の礼であることを。


「1年後、わたしは16になる。顔も知らない、わたし以外の誰かにとって都合にいい相手と結婚することになるの。その前に、一年でいい。自由に生きてみたい。助けてタイヨウ、わたしの魂の片割れ」

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