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転生DKの帰還〜男子高校生ですがお嬢様やってたらチートな天使様になって、ついでに世界も救っちゃいました〜  作者: 森戸ハッカ
第一章 異世界令嬢、爆誕

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15.夜会がはじまる


「何が黒天使よ! アタシのがぜーったい、かわいいんだから!!」


 夢のような白のドレスをまとった、ピンク色の髪の少女が、メイクの最終確認を終えると馬車から降りた。

 ピンクのショートヘアに杏色の瞳。その個性的な組み合わせは、ただでさえ目を引くが、ややキツめの顔立ちながら、十人いたら十人が振り返る美しい少女だった。


 羽を思わせるふわりとした袖に、レースを重ねた軽やかなドレス。デザインテーマは『天使』。

 打倒・黒天使を掲げて制作されたドレスを身につけたリリーマリーは、フン!と鼻を鳴らし、馬車の前でエスコートの手を差し出した人気舞台役者の腕を取る。


 金で雇ったパートナーだが、彼がリリーマリーの美しさに目尻を下げているのが気に入らない。安っぽい男は大嫌いだ。


 飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けるオータム商会の末っ子、リリーマリー。

 ノーマン公爵家からの依頼が入ったと知るや否や、マダム・バタフライのメゾンの“めぼしい新作ドレス”を買い占めた犯人である。


 ――黒天使と呼ばれるタイヨウ嬢は、おそらく天使を想起させるドレスを選ぶに違いない。


(つまり、間違いなく姫系デザインの白!)


 パーティー慣れした彼女は即座に判断した。

 姫系デザインが最も映えるものをマダム・バタフライから押さえ、その中で最も自分が美しく見える『姫系デザインの白』を選ぶ。


 それは、他人の結婚式にウェディングドレスを想起させる白を着ていくような、明確な喧嘩の売り方だった。


 歳の離れた末っ子として、両親はもちろん姉や兄たちにも溺愛されて育ったリリーマリーは、当初、領主家に突如現れたという『黒天使』に純粋な興味を抱いていた。

 美しいものが好きで、気品ある存在にはなおさら惹かれる性分だったのだ。


 だが、上流階級の誰もが来たがるリリーマリーのお茶会の招待を、にべもなく断られたことで、その興味は怒りへと変わった。


(田舎から出てきてデビュタントもまだだって言うから、パーティ慣れしたアタシが色々教えてあげようと思ってたのに!)


 本来なら、タイヨウがその時期、海岸で土木工事を行い、王都外れのソマ村で大規模工事に汗を流していたことも耳に入ったはずだ。

 だが彼女が掬い上げたのは「黒天使はすごいらしい」という上澄みの評判だけだった。


(しかも、パーティ嫌いなあの方まで来るって噂じゃないの!!)


 人波をかき分け、ノシノシと会場であるノーマン公爵家の庭へ向かっていたリリーマリーは、


「おおっ!!!」


 という周囲のどよめきに、思わず顔を上げた。


 数千のランタンが、月のない夜空へいっせいに舞い上がっていく。


 今日は新月だ。


 風系能力者の手が入ったランタンは流されることなく、城を中心とした中空に留まり、人々の恍惚とした表情を照らしていた。


 薔薇の如き美しさと讃えられる白亜の『薔薇城』ノーマン邸。その奥に広がる海からは、大輪の花火が次々と打ち上がる。


「〜〜ッッ!!」


 美を愛するリリーマリーの背に、鳥肌が立つ。

 半ばヤケになりながらも、


「でも、アタシが勝ぁつ!!!!!」


 と叫び、彼女はパーティ会場へと歩を進めた。


◆◆◆


 一方その頃。


 ノーマン公爵邸裏の海岸で、カザンとヒューは夜の砂浜に膝を抱えていた。

 会場からは、楽団の音楽が風に乗って届いてくる。


「俺はともかく、なんで招待状もらったお前まで隊服で来ちゃったわけ!?」


 仏頂面のまま、ソマ村で撮った記録玉を延々と見返すカザンに、ヒューが声を張る。


「……隊服は騎士団の正装だ。パーティーにも出られる。それに、何か手伝えるかもしれない。動きやすい方がいい」


 海上の花火用ボートでは、ゴーンが火系能力を駆使して花火を上げていた。

 数千のランタンに火を入れたのも彼だ。


「いや、どう考えても出番ないだろ……」


 ヒューはため息をつく。


「……彼女は、ソマ村で村長や村人の話を聞いていた」


 答えになっていない返答と共に、カザンが記録玉を映写する。

 地図を広げ、村長と話すタイヨウ。牧場主、老人、子供――誰に対しても同じ眼差しだ。


 自らの地位にも能力にも驕らず、ただ人に尽くす。


 掠れた声で、カザンは問う。


「ヒュー。天使に……()()()()が声をかけていいと思うか?」

「なるほど〜。そう思っちゃったわけね」


 ヒューが溜息をついた。


「今日はあの子のデビュタントだよ。ファーストダンスを、他の男に渡せるのかどうか――そこだけ考えな」


 灰青色の瞳が、覚悟を問う。


 カザンのトパーズ色の瞳に、迷いの奥から闘志が灯る。


 夜空に打ち上がる花火の音が、その沈黙を飲み込んだ。


 ――後世に語り継がれる、伝説の夜会が、いま幕を開けようとしていた。


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