11.カンタン☆獣害防止柵
先々代騎士団長『バベルの鷹』フォルクス・バロウズ・ノーマン。
その腹心であり、歴戦の盟友である元騎士団副長『炎猿のゴーン』ゴーン・ビートニク。
――約二十年前、全盛期のまま惜しまれつつ引退した、生きるレジェンド二人。
なぜ、その二人がここにいる!?
ヒューはパラソル下、カフェテーブルに置かれた小さな椅子へ腰を下ろし、隣のパラソルの下でビーチチェアに寝そべる二人とレオンを横目でうかがった。
「そういえば、今の騎士団のツートップは俺たちと同じ風と火のコンビらしいな」
ゴーンがつまらなそうに言う。
すると、タイヨウを応援していたレオンが『タイヨウちゃん♡がんばって』と書かれた母特製の応援うちわをパタパタ振った。
騎士団の頂点に最年少就任したコンビは、いまや若い貴族の男子たちの間でも注目の的なのだ。
「そうなんですよ! それもあって『伝説の再来』なんて言われているようですよ! でも団長であられた父上が風でゴーン殿が火なので、カザン殿下とヒュー殿とは逆のようですねえ。なんでもお二人とも若干16歳で『カルマ』を会得されたとか!」
すごいですよね!カッコイイです!
年相応にミーハーなレオンがはしゃぐ。
――やめてやめて、まじやめて??
ヒューは目を剥いた。
おそるおそるレオンの横を見ると、少年のテンションと反比例して、おっさん二人の禍々しさは増している。
レオンは少年特有の排他精神こそあるが、性根は真っ直ぐで「すごいものはカッコいい」と素直に認められる子らしい。
階級では下となるゴーンへも敬意を崩さない。その対応も好感が持てる。典型的な“良家で愛されて育った子”だ。こういう子は伸びる。
……だが、その強みを発揮するのは今じゃないんだ!レオン君!
ヒューが渋面でうなだれる。
おじさんは、自分より若い男が褒められるのが基本的に好きじゃないんだよ!
ちょっとは察してくれよ! この二人のおっさんから放たれる冷気で凍えそうだよ!!
「レオンはよく知っているんだね。そんな優秀な2人が王都のソマ村のこの窮状を知ったらどうすると思う?」
ノーマン公爵が問うと、レオンは帝王学の一環だと思ったのか、途端に一生懸命考える顔になる。
長めのショートカットの金髪は毛先が緑。まつげも緑――草属性なのかもしれない。
「そうですねえ。取り急ぎ、補修可能な能力者を派遣されるのではないでしょうか? 魔獣が騒ぐシーズン早々のトラブルですから放置するのも危険です。中には不埒な輩による悪質な申請もあると聞きますが……その場合は一度持ち帰らせればいいだけですしね! 通信鴉もいますし」
鷹の子は鷹か。
十四歳とは思えぬ的確な推察に、ヒューは内心で唸った。
「なるほど! よほどのバカか暇人でなければ直接出張ってはこないだろうしな。今頃、担当者も向かっている頃かもしれない。タイヨウちゃんの作業が終わったら王都に速鴉を飛ばすことにしよう。無駄足になったら可哀想だ」
父親に頭を撫でられ、嬉しそうにするレオン。その様子を見て、ヒューが小声で吐き捨てる。
「クッ……書類仕事が嫌いで現場至上主義だったあんたらが『出動要請の際、手が空いていればトップが様子を見に行く』ってルールに変えたからじゃないか……!」
「「ああん!?」」
認識阻害眼鏡の効果が絶大なレオンは首を傾げているが、二人の元ヤン、もとい先輩に睨まれ、ヒューは石になる。
「も〜!! なんとか言えよカザン! 怖いんだよ、あの2人! って、お前何やってんの!?」
ずっと無言だったカザンを見ると、記録玉を用い、猛烈な勢いでタイヨウを撮影していた。
市井に出れば蟻が砂糖にたかるようにまとわりつかれ、ワンチャン狙いで睡眠薬を盛られ……を繰り返すうちに、すっかり女嫌いになったカザン。
どんな美姫からの付け文も全て燃やし続けてきた男が、ちょっと目を離した隙に望遠機能付き最新式記録玉を二カメ体制で駆使し、コミケ歴戦の猛者の風格を醸し出している。
「ねえ、なんで?????!!!!」
ヒューの忍耐力が焼き切れそうになった、その時。
村長との話を終えたタイヨウとハンナが戻ってきた。
闇属性でありながら認識阻害を使えないタイヨウは、ヒューとカザンの存在をスルーしている。
一方、認識阻害魔法のプロフェッショナルであるハンナは、遅れてきた王都からの闖入者を片眉を上げて上から下まで眺めた。
周囲には一切悟らせず――実はハンナは人生最大級の動揺で震えていた。
(ソーレお嬢様、エマージェンシーです。あり得ないほど気持ち悪い服装しているこの2人、王国騎士団のツートップです。しかも赤髪の男は第3王子です。タイヨウ様、頼むから王家に爪痕は残さないで……!)
脳内で描いてしまった未来予想図に気を失いかけているハンナの横で、タイヨウが笑顔で報告する。
「お待たせしちゃってごめんなさい! 村長さんに相談したんですが、せっかくなら破損分だけではなく危険が及びそうなところ全部に建てちゃうことにしました! じゃあ僕だけ戻りますね~」
みなさん、ご安全にー!と言いながら、タイヨウは既に数十本ある巨大な丸太群へ向かって走っていった。
――その瞬間。
村人も含め、見守る者たちが(ヒューとカザンを除いて)一斉に両耳へ手を当てた。
ゴォッ!と、タイヨウの周囲に風が巻き起こる。
カルマの詠唱に備え、魔力の圧が跳ね上がったのだ。
かすかに少女の身体がにじんで見える。ゲヘナから流れ出る魔力が使いやすい場とはいえ、この魔力量は間違いなく特級能力者クラス。
――しかも、至高の領域の。
「行きまーす! 『はたらく車・伐採機〈フェラーバンチャ〉』!!」
タイヨウが薙ぎ払うように右手を振る。
次の瞬間、バキバキバキッと耳をつん裂く爆音が走り、伐採された無数の木々が空高く浮かび上がった。
森の一部が、そのまま天へ飛び立とうとしているかのような――あり得ない光景。
カザンとヒューは唖然とする。
「次は〜『はたらく車・造材機〈プロセッサ〉』!!」
両腕を上から下へ降ろす仕草。
浮かび上がった木々が空中で枝払いされ、つるりとした丸太へと仕上がっていく。
陽光の下、一本一本が十メートルを超える巨大な丸太群が、森の手前で等間隔に整列する。
まるで神が、空中にオベリスクを創ったかのような、神秘と荘厳。
「最後に〜『はたらく車・穴掘り建柱車〈ポールセッター〉』!!」
丸太群が見えざる手で引き上げられ、
ドンッ、ドンッ!!!!!
内腑まで揺さぶる大音量と共に、大地へ突き刺さっていく。
地揺れと地響きがようやく収まったのは、三分ほど後のことだった。
土煙を上げる巨大な柵の前で、タイヨウがペコリとお辞儀し、微笑む。
「ソマ村獣害防止柵、できました~」
どおおっ!とギャラリーから歓声が上がった。
泣く者もいる。手を合わせる者もいる。
「ハハ…ハ……」
半笑いで拍手していたヒューが隣を見ると、カザンは地面にめり込み、某Z戦士のように萌え尽きて倒れていた。
「カザーーーーーン!?」
ヒューの叫びは、人々の拍手喝采に呑まれて消えた。




