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転生DKの帰還〜男子高校生ですがお嬢様やってたらチートな天使様になって、ついでに世界も救っちゃいました〜  作者: 森戸ハッカ
第一章 異世界令嬢、爆誕

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10.魔獣討伐〈王都ソマ村サイド〉

バベル王国は、国土の中央に魔獣の棲む魔境の森――“ゲヘナ”を抱えている。


 希少植物に富んだ原生林の広さは、約三万ヘクタール。

 森の中心に位置する最高峰・ウルキオラ山でさえ二〇〇〇メートルに満たず、決して険しい高山地帯というわけではない。だが、その核心域に踏み入る者は誰一人としていなかった。


 魔力を持たない平民であれば、数分で昏倒し、死に至るほどの濃密な魔力が立ち込める森。

 魔導具の材料となる魔草や魔獣が棲まう彼の地は、建国以来、正確な地図すら作られたことのない秘境である。


 その魔境の森ゲヘナを囲むように、国土の上半分に王都が広がり、海へ張り出した東半島部が四貴家の領地となっている。

 王都の東がノートン公爵領。ちなみに、ソーレの生家であるドゥフト男爵領は、ノーマン公爵領の内部に位置していた。


 ソマ村は、王都とノーマン公爵領の境界、そして魔境の森に面した村である。


 クセの強いロックファンと、コミケ前のオタクのような服装に扮した二人――カザンとヒューがソマ村へ到着したのは、朝十時だった。


 いい天気だった。


 春の日差しを受け、青々と芽吹く草原。

 森から流れる小川を利用した風車が回り、牧草を食む牛や馬が点在する。牧場の合間には小さな家々が並び、どこからどう見ても、のどかでありふれた農村の風景だ。


 ――だが。


 人の姿が、一人も見えない。


「――まさか、みんな魔獣に食べられちゃったってことはないよね」


 小川沿いの牧草地に馬を繋ぎながら、ヒューが目を細める。

 魔獣の気配に敏感な馬が落ち着いていることから、その可能性は、口にした本人も内心では否定していた。


「ないな。荒らされた形跡もないし、第一、馬や牛を見過ごす魔獣はいない」

 

 そう答えながらも、カザンの眉根は寄せられている。


 そもそも魔獣が、魔力の濃いゲヘナを離れて居住区へ現れることは稀だ。この時期、森の魔力が例年より濃くなり、瘴気にあてられた魔狼リガオンが出没することはある。だが、住民を一人残らず食殺するような事件は、前例がない。


「ヒト、かな? タチの悪いハンターとか」

「……厄介だ」


 ヒューの言葉に、カザンは無意識に剣の柄を探して左腰へ手を伸ばす。

 ――だが、そこに剣はない。


 今日使用している認識阻害眼鏡は、あくまで擬似的なものだ。闇属性で本物の認識阻害を扱える者には看破されるし、魔力が低くとも勘の鋭い者なら違和感を覚える。


 それゆえ、村人ファッションを徹底するため、二人は帯刀すらしていなかった。

 もしこの異常が人為的なものだとすれば――厄介極まりない。


 二人は属性魔法に加え『カルマ』という切り札を持つが、王国騎士団長と副長である。

 人相手には、ほとんどの場合オーバーキルだ。そもそも民間人の犯罪は、別途警察機関の管轄である。


「とりあえず、防護柵がある森の方まで――」


 ヒューがそう言いかけた、その刹那。


 ドォンッ!!


 凄まじい轟音が、森の方角から響き渡った。

 同時に、森から鳥たちが一斉に飛び立つ。


「ヒュー!」


 カザンが叫び、総務部に持たされた紙袋から、やたら目の大きな少女が描かれた布をヒューへ放った。


「総務部ーー!!? ちょっとやだ何この布……!? とりあえず行くよ! 『荒神風〈アラジン〉』!!」


 詠唱が終わると同時に、二人は布の上へ跳び乗る。

 それは、バベル王国の一部で人気沸騰中の

『マジカル令嬢⭐︎プリンチペッサ〜恋はカルマ』

の布ポスターだった。


 二人はそのまま、音のした方角へと飛び立った。


◆◆◆


「姉上、ちょっと休んでください! 働きすぎじゃないですか!?」

「レオンさん、ありがとうございます〜! でもなんだか朝からすごく元気なんで大丈夫ですよ〜!!」


 レース付きのベージュのサファリシャツにショートパンツ姿のタイヨウが、丸太の山の前で笑顔を向け、力こぶを作るポーズをする。

 ハーフアップにした頭頂では、二つのお団子が猫耳のようにまとまっていた。


 早朝からレオンも合流し、ソマ村に到着したタイヨウ一行。


 存在を知って五分で『カルマ』を会得したとタイヨウが言い出し、実際に披露されたそれに、ノーマン公爵とゴーンはしばらく放心していた。


 だが正気を取り戻すや否や、「この力を使える場所が他にもないか至急確認する」と告げ、昨夜はひとまずタイヨウを帰宅させた。


 驚天動地に強い。すなわち現場に強い。

 さすが、元王国騎士団のツートップである。


 防衛局の通信鴉を通じ、ノーマン公爵領に隣接するソマ村の防護柵が一部決壊したという報が入ったのは本日未明。

 朝九時には、盛大なピクニックセットを携えて現場入りし、タイヨウによる《黒天使の御業》が開始されていた。


 森から五十メートルほど離れた場所に、瓦解した防護壁がある。


 さらに十メートルほど後方にはパラソルが立ち、ピーチチェアを並べた即席のガーデンピクニック会場。

 昨夜と同じ顔ぶれのおっさん二人が、野次を飛ばしている。


「レオン、危ねえからお前もこっち来い! ゲヘナは魔力が強いからなあ。カルマ持ちにはホームみたいなもんなんだよな。ガハハ」

「ゴーンの言う通りだ、レオン。今は姉さんのカルマを見て勉強した方がお前のためになる。タイヨウちゃーん! ママに頼まれて記録玉たくさん持ってきたからねー! パパいっぱい撮るぞ〜!!」


 テーブルには、キンキンに冷えたソマ村特産の白ワイン。ゴーンが炎魔法で焼き上げたジビエ。そして旬の果物が所狭しと並んでいる。


 パラソルの後ろにはロープが張られ立ち入り禁止。

 だが村民百人ほどが総出で《黒天使の御業》を見に集まり、和やかに、わくわくと待機しているため、様相は完全にフェス会場だった。


 設計図を広げ、村長と話し込むタイヨウとハンナから離れ、渋々父とゴーンの元へ向かったレオンは、途中で足を止めた。


「……父上。その最古参のオタクと、癖の強い厄介ロックファンみたいな男達は誰なんです?」


 到着したばかりで状況を飲み込めず立ち尽くす、カザンとヒューを指差す。


 ビーチチェアから身体を起こしたゴーンが、サングラスをずらして睨みつけた。


「ああん? どーっかで見たことあるツラだなあ?」


 認識阻害眼鏡ごときでは衰えぬ見識を持つノーマン公爵が、笑顔で首をかしげる。


 魔圧のこもった視線に、カザンとヒューは背筋が凍るのを感じた。


「随分遅い到着だから、まさか騎士団関係者ということもあるまい。――ねえ、君たち。名前も知らないし、知りたくもないが、よかったら近くで見ていくか?」


 振り返ったノーマン公爵の、サングラスの下のアイスブルーの瞳は、微笑んでいなかった。

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