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第12話 煌びやかな夜

 夜の帳が降り、ウィステリアの街は美しい光に包まれていた。

 街全体に散りばめられた街灯が、星空のようにきらめき街中を穏やかに照らしている。心地よい夜風が木々を揺らし、さざ波のような音を立てていた。


 テイルの敷地内にある広大なホールには、多くの人々が集まり始めていた。


 高等クラスの象徴である白い制服に身を包んだ生徒たちと、煌びやかな衣装を纏ったマスターたち。さらに、招待された来賓や関連企業の関係者たちが、それぞれ思い思いに談笑しながら会場を賑わせている。


「ご来賓の皆様、長らくお待たせしました。これより、戦術魔鉱学科、高等クラスの進級祝賀パーティーの開幕です」


 司会者の挨拶が終わると、会場には華やかな生演奏が流れ始め、続々と豪華な料理が運ばれてきた。


 色鮮やかな前菜やメインディッシュがテーブルを彩り、香ばしい香りが漂う。来賓やマスターたちのために用意されたワインやカクテルが、シャンデリアの光を受けて鮮やかに輝いている。


『制服似合うじゃん! 可愛い』

『やっぱり高等クラスの白の制服は可愛いよね! 中等のグレーのはあんまり好きじゃなかった』


 会場内では、生徒たちが新しい制服の話題で盛り上がっている。


『だってこの白の制服はみんなの憧れだもんねー。ほんと進級試験頑張ってよかった!』

『でもこの制服高いんでしょ。私なんてお姉ちゃんのお下がりだもん』

『そんな子いっぱい居るよ。私も知り合いの卒業生に譲ってもらったもん』


 楽しげな声が響く中、人の輪から少し離れた場所に、赤い髪を丁寧に結い上げ新品の制服に身を包んだシェンナが立っていた。


 ――


「これはこれは、シェンナお嬢様。高等クラスの制服がよくお似合いで」


 私を見つけてニコニコと近寄ってきた礼服姿の中年男性が声を掛けてくる。


(……はぁ。これで6人目。えっと、この人は確か――こないだお父様に連れて行かれた会食で会った……そうそう、ウィステリア・セキュリティ・カンパニーの役員の人。名前はえーっと……)


「お褒め頂いて光栄です。イーライ様も素敵なお召し物ですね」


「はは、シェンナ様にお褒め頂けるとは、礼服を新調した甲斐がありました」


 当たり障りのない会話を交わし、無難にやり過ごす。


「――では、お父上にもよろしくお伝えください」


「はい、かしこまりました」


 一礼すると、男性は去っていった。


(仕事とは言え、こんな小娘にヘコヘコ挨拶しに来なきゃいけないなんて……大人って大変ね)


 それにしても、こんな大人たちの挨拶まわりに付き合ってる程、私たち生徒も暇じゃない。


『マスター! 私、前々からマスターのファミリアに志望するって決めてたんです!』

『ねぇ、キミ。こないだの近接戦闘の授業で活躍してた子だよね? よかったらうちのファミリアに来ないかい?』


 ホールのあちこちで、生徒たちとマスターたちが、狙っていた相手に次々と声をかけ合っている。


 高等クラスに進級した生徒は、必ず一人のマスターの受け持つ教室……つまり"ファミリア"に所属しなければならない。例年、この祝賀パーティはその配置の内定を取るための戦場となっている。

 マスター側としてもなるべく優秀な生徒を確保したい訳で、成績上位の生徒や毎年人気のマスターはひっきりなしに声を掛けられ忙しそうだ。


「シェンナさん、こんな所にいらしたのですね」


 ふと数人の同級生に声を掛けられた。財閥や大手企業のご令嬢グループだ。着ているのは皆と同じ高等クラスの制服だけれど、身につけている小物などはどれも高価なブランド物ばかり。

 悪い子たちじゃないんだけれど、正直……あまり話の合う相手じゃない。


「よろしいのですか? お目当てのマスターにお声掛けにいかなくて?」

「とはいえ、主席のシェンナさんならどこのファミリアでも二つ返事で迎えてくださるでしょうけど」


 自分達はもう所属先が決まったのか、飲み物を片手に楽しそうに談笑するご令嬢たち。


「それは、分からないわよ。毎年人気ファミリアはどこも定員でいっぱいになるし」


 嫌味にならないよう、当たり障りなく返事を返す。肩肘を張らずに微笑むと、彼女たちは一瞬戸惑ったような顔をしてからまた笑顔を浮かべた。


「そんなご謙遜なさらなくても」

「それで、シェンナさんは、どちらのファミリアをご希望なのですか?」

「それはやっぱり、クァイエン・ファミリアですよね。ここ5年連続で人気No1ですもの」


 彼女たちの目線の先には、人だかりの中に立つ一人の男性が見えた。がっしりとした体格の初老の男性で、その威圧感と堂々たる立ち振る舞いは、遠目にも際立っている。


(クァイエン・ファミリア……確かにこの学園でもトップクラスの人気と実力を誇るファミリアよね)


 内心そう思いつつも、私は言葉には出さずに軽く微笑んでみせた。彼女たちがこちらに興味津々の視線を向けているのが分かる。

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