最終話:痛かったでしょう
目がちかちかして、何も見えない。
頭がずきずきして、とても痛い。
「痛かったでしょう。でも仕方がないのです。あなたは、生者のままこの輪廻の間に戻ってきたのですから」
聞き覚えのある声です……これ……神様の声ですね。
「今の名はオウカでしたね。オウカ、大丈夫ですか?」
「……あ、あ……はい」
少しずつ、戻ってくる視界。ああ、やっぱりここは前世で死んだ後に来た神様のお部屋ですね。
「もうしばらくしたら、痛みは落ち着きますから」
「はい……うっ…………おええええっ!」
ああ、また吐いちゃった。だって、頭が痛すぎますから。
「さて、どうでしたか新しい世界は」
まだ、痛み取れてないんですけど……。
「どうって……最悪だったけど」
私はなぜか、神様に対して敬語を使う気にはなれませんでした。
「そうでしょうねぇ。でも、私の真意を知ったら最高だったと思うはずですよ」
「なん……ですか」
ああ、敬語使っちゃった。やっぱり神って、威圧感凄いから。
「ライスは転生者です。前世のあなたを殺した犯人が死刑になり転生したのです」
「え」
死刑なんてすぐに執行されないですよね? 私が転生した当日に現れるなんて、おかしくないですか?
「疑問、答えてあげますね」
「心、読まないでください」
「読みますよ、神ですから」
神様、今、私の身体中を虫唾が走りまわっていることも理解してくれていますか?
「通常転生は死後すぐ行ないますが、私はあなたの魂をすぐに転生させず、冷凍しておくことにしたのです」
冷凍……?
どのくらい? お母さんはその間どんな暮らしをしていたの? まさか、お母さんの顔がぼやけちゃって……鮮明に思い出せなかったのは冷凍のせいで………?
「ライスさんは……私より先に転生したということですか…………」
ああ、なぜ私は、質問を選んでしまったのでしょう。今、冷静でいる必要がどこにありますか?
「そのとおり! 彼は十二年前に転生して、私が授けた能力『剣聖』で好き放題。魔王の盗伐にも成功! 国王から、魔物を認定する権利まで授かっています」
魔物を認定する権利?
「魔物リストに記されていない生き物を、魔物と認定する権利です。人間でもただの動物でも、彼が魔物と言えば魔物です。当然ですよね、勇者なのですから」
あれが……勇者?
「ええ。勇者だからこそ、議会だけが持つはずの権利である魔物認定権を、現場で行使できるのです。勇者には特別な力があると信じられていますからね、人間や動物に擬態した魔物を見抜く力があると」
「そんな力、ないですよね」
「ええ、ないですよ。あの世界で勝手に生まれた根も葉もないただの信仰ですから」
ですよね。ライスさん、私のことも「魔物かな?」って言ってたし。
あれ?
まさか……この神様は…………。
「そう、そうです! よく気がつきましたね! 偉いですよオウカ! 私があなたの魂を冷凍して転生を遅らせたのは、人生の絶頂期にあるライスを殺させてあげるためです。前世ではそうとう酷いことされましたからね。そのくらいでなければ、復讐として成り立たないでしょう」
「はは……めちゃくちゃだね神様」
「私は神ですから、めちゃくちゃすごいですよ」
神と人間では価値観が、まったく合わないようです。
「まぁ……でも、殺せてよかったと思いますよ」
この、一点だけは気が合うようですけどね。
「オウカよ、私は、その言葉を待っていました」
「そうですか……」
嫌な予感がする。きっと、最低なことになる。
「実はですね。ライスの魂を、私のことを大昔から敵視している夜の女神に取られてしまいましてね。まあ、邪神の類の神なのですが」
あなたは、邪神じゃないんですね……。
「神が派遣できる転生者は、十年に一人だけ」
ライスさん十二年前に転生したって言ってましたよね。
「つまり、私の転生者はあなただけになってしまったということ」
つまり、しばらく冷凍魂のこと忘れてたってことですよね。ライスさんの転生から十年経った瞬間に、転生させてくれなかったという話ですよね!
はぁ……馬鹿らしい。
神に問うても、仕方がない。
「私の転生者がいない世界であの女神の転生者が力を持ったら、世界がずーっと夜になってしまうのです」
ああ、だからあの世界、ずっと太陽が出てたんですね。へー。
「さあ勇者オウカ! 再び世界へ降り立ち、蘇えりし悪しき魂を――」
勇者?
「まさか、ライスさんが魔王に転生したとでも言うんじゃないでしょうね」
「それが、言っちゃうんですねぇ」
いいよ、わかりましたよ。
「神の名のもとに、よろしくお願いしますね勇者様」
もう一度あいつを、ぶち殺してやりますよ。