ぽん太郎の能力
〜登場人物紹介〜
・ぽん太郎(仮)
記憶を失った、異世界からの来訪者。色々あって、“イーター”狩り専門グループ「チームレイン」に加入することとなった。どっちかというとイケメン寄りのフツメン、だと自分では思っている。肌はかなり綺麗。
・リエド
『チームレイン』のリーダー。男性。優しいお兄さんに見えるがそこそこ腹黒い。がっしりとした逞しい顔面に、細マッチョボディ。ついたあだ名は「タンパクエリンギ」。
・ルーノ
『チームレイン』の一員。女性。自称インテリ枠。口数は多いが感情の起伏は控えめで大人しい。自身のルックスに興味はなく、常にすっぴん。服も数種類しか持ってないが、伊達メガネだけは20種類以上所持している。
・イェリー
『チームレイン』の一員。女性。元気で大雑把な性格の持ち主。過激派な一面を持つ。ファッションの流行にまあまあ敏感であり、その度に散財している。そこそこモテているらしい。
・イトミズ
『チームレイン』の一員。男性。大抵は無言で不干渉、根暗な印象を持つ生粋のスケベ。目にも止まらぬ速さで盗撮を行う。本気を出せば結構イケメンらしく、「宝の持ち腐れだ!」とイェリーはよく嘆いている。
・ヒーテ
『チームレイン』の一員。男性。容姿端麗、頭脳明晰で何でもそつなくこなす超絶クールイケメンであり、事実上のアイドル枠。ビジュアルだけでなく、性格も他の追随を許さない程に高レベルである。すぐに女性が集まってくるため、外出時は地味な格好を心掛けている。
・ラックバーン
『チームレイン』の一員。男性。横暴ですぐキレる単細胞。頭はとっても悪い。平均以上の肉体美、そしてヤンキー風の容姿により一部界隈で密かに話題になっている。が、話題になってるだけ。それ以上はない。
「ふざけんな!!!クソがァァァゴラァァ!」
俺とラックバーンさんは結局、カエルのイーターに食われ、都市部へとテレポートを受ける羽目になった。
「だぁぁあはははははは!ごめんごめん!肉美味すぎてお前らのこと忘れてたわ!」
「リエドてめぇぜってぇワザとだろゴラァ!ざけんな!俺の分の肉どこだゴラァァ!」
「あれれー?確かー食材って元々5人分しかなかったよねぇー?」
「イェリーてめぇワザとらしーんだよ嘘つくなゴラァァァ!」
どうやら俺たちが戦っている間にBBQは終了したようで、みんな本部に帰ってきていた。
「だああああオラァァァ!誰か今すぐ俺に肉寄越せ!!!」
相当肉を食べたかったらしく、ラックバーンさんは最高にイライラしていた。
「ラックバーン、うるさいです。膨れたお腹に響きます」
「知るかゴラァァァァ!黙れルーノゴラァ!」
しかも、みんなが火に油を注ぎまくる。ラックバーンさんは机や椅子、大きなソファーまでをもぶん投げまくって暴れ回っている。
「……それで、ぽん太郎。お前はいいのか?」
「いえ……」
そんなラックバーンとは対照的に、俺は静かに過ごしていた。
「お前の歓迎会だったのに、肉食えなかったんだぞ?1つくらい文句言ってもいいんだぞ」
ヒーテさんが、俺の事を心配して親身に話しかけてくれる。
「……肉食ってた俺が言うのもアレだけどさ、探したんだぞお前らのこと。俺しか探しに行かなかったけど。どこまで行ってたんだよ」
確かに、お肉が食べられなかったことは悔しい。でも、それ以上に込み上げてくる感情が圧倒的に勝っていた。
「あれが……錬成……!」
初めてナイフを錬成した、あの時の感触が未だにくっきりと身体中に焼き付いている。無限の可能性って……凄いって言葉じゃ収まらないくらい凄いっ……!
「ほぉー、なるほどな。文句言わねぇなって思ったら…浸ってたのか」
「はい。凄かったです」
何かを察したのか、ヒーテさんがニヤリとしながら肩をポンポン叩いてくる。
「そうだな……丁度いいな。よし、ぽん太郎出かけるぞ。ちょっと着いてこい」
「え?あ、はい」
そうして、ニヤニヤしているヒーテさんに連れられ、本部を後にする。
「ほらー、バカにして悪かったって、夕暮レベルにボコボコにされたラックバーンくん」
「テメェェふざけんなゴラァァァ!」
「……あれは無視でいいんですか?」
「あぁ。無視でいいぞ。関わらない方が吉だ」
……いつまで暴れてるんだ、ラックバーンさん。
「よし、着いたな」
しばらく飛行車で移動した後、到着した場所は『都市部』に限りなく近い『未開地』だった。
「ここってなんですか?公園……?スタジアム……?」
俺とヒーテさんは今、だだっ広い円形の広場のど真ん中にいる。周囲には所々にベンチが設置されているが、誰も座っていない。貸し切り状態って感じだ。
「まあ、そんなもんだ。俺達は『訓練場』って呼んでる」
「訓練、ですか?」
「ああ。ここでは武術や錬成、その他様々な訓練を行えるんだ。すぐ隣が『都市部』だからS瓶はすぐに補充できるし、何も無い広いスペースだからこそ創造力が膨らむ。今のぽん太郎にうってつけな場所ってことだな」
「お、おぉ!」
つまり、ここでは好き勝手に錬成がし放題ってことだ。やりたい、あの錬成の楽しさが忘れられない。今すぐに錬成したい!
「まー、まずはぽん太郎の錬成の力を見せてもらおうか。ほら、これ使え」
「あ、ありがとうございます」
と、ヒーテさんが俺にS瓶をいくつか渡してくれた。
「錬成ってのはな、人それぞれ個性が出るもんだ。スピード、大きさ、繊細さ、効果範囲、密度……細かく分ければキリがない。とにかく、何が得意で何が苦手なのかは人によって違うってこった」
「へぇー……あ、ヒーテさんの場合は確か……」
「確かルーノが教えてたな。俺はスピードに秀でてる。質より量ってタイプだな。とにかく錬成のラッシュを押し付けてイーターを追い詰めるんだ」
と、いつの間にか錬成されていた椅子に座りながらヒーテさんは話す。
「……凄い、いつの間に」
「大体のものは1秒以内で錬成できる。サイズが大きくなったり構造がややこしいともう少しかかるがな」
「いやそれでもめちゃくちゃ早いですよね」
「まーな」
確か、ラックバーンさんは数十秒かけて金属バットを錬成していた。ルーノさんも狙撃銃を錬成するのに数分はかかっていた。そう考えるとヒーテさんの錬成のスピードは規格外なんだと分かる。
「ま、俺の話はここまでにして。ぽん太郎、お前の力を見せてほしい。今から指示を出すから、それを錬成してみてくれ」
「わ、分かりましたっ」
今までの錬成の経験は、あの時のナイフ……と、含めていいか分からないけど、ムカデを一刀両断したアレ。イマイチ自分の個性を把握しきれていない。俺の個性はどんな感じなのか……
なんだか、知らない自分を知れるっていいな。心理テストを受けているみたいだ。
「じゃ、これから何本かナイフを錬成してもらう。まずは……できるだけ硬いナイフを錬成してくれ」
「硬いナイフですか」
「ああ。硬ければ別にナイフじゃなくてもいいが……錬成できそうか?」
「あ、はい。大丈夫です」
硬いナイフか……どうすればいいのかイマイチピンと来ないが、とりあえずS瓶を割ってシャインを解放する……
「おぉ……キタキタ」
創造力がみなぎってきて、心が踊り散らかしている。よし、行けるぞ!
「ナイフ……ナイフ……」
「なるべくスピードも重視してくれ。そこも確かめたいからな」
「は、はい!」
俺は広いスペースに向かって手をつきだす。
「ええと……こうやって……」
頭の中で、ナイフを描き、心の手で形作る……何言ってんだ、自分。なんだよ、心の手って。
でも、心の手が1番表現としてしっくりくる。焦る必要は無いんだ。落ち着いて……
「……ふっ!」
数秒後、白い光と共にナイフが目の前に現れた。
「おー、できたか」
「ど、どうすか」
やっぱり、錬成は心が踊る。正直楽しい。イェリーさんが楽しそうにゴツい投石機を錬成するのも今なら納得出来る。
「硬さは……おぉ、俺よりも密度あるな。いいじゃねーか」
「てことは……俺の個性は硬さってことですか?」
「いや、標準よりちょい上くらいだ。まぁ、普通って感じ」
「……はーい」
硬さは俺の個性ではないか……何も個性がない、どのパラメータも平均的とかになったらどうしよう。何かしら尖った部分が欲しいなぁ……
「そう落ち込むな。まだ始まったばかりだろ」
「そ、そうっすね!」
それから俺は、ヒーテさんに指示されるままにナイフを作り続けた。
「素早く10本錬成してみろ!」
「でやー!」
「標準的なスピードだ!」
「個性的じゃないっすね!次ぃ!」
「とにかくデカいナイフを錬成しろ!」
「どりゃー!」
「標準的な大きさだ!」
「個性的じゃないっすね!次ぃ!」
「できるだけ離れた場所にナイフを錬成してみせろ!」
「ていやー!」
「標準的な効果範囲だ!」
「個性的じゃないっすね!次ぃ!」
「形大きさデザインが全く同じのナイフを3本錬成してみろ!」
「そいやー!」
「標準よりやや下の精密性だ!」
「下振れしちまったぁぁぁぁぁ!」
「…………ぐすん」
「ま、まぁ、標準的なのは悪くないことだぞ。できることが多いからな」
その後も色々と錬成し続け、見定めてもらった結果……俺は尖ったステータスは無く、高水準にまとまっているわけでもない、ごくごく標準的な一般ピーポーだということが分かった。
「もしかすると身体強化は飛び抜けて凄いかもしれないだろ。まだそのテストはしてないから。なっ?」
「……はい」
……いや、いいんだ。低すぎるわけじゃないから。贅沢は言わない。でも、やっぱり何かに尖ってた方がカッコイイ気がするんだよなぁ……
「……だが、ひとつ気になるのが、ムカデをぶった切ったアレだな」
と、ヒーテさんの一言で忘れかけていた事実に気がつく。
「そ、そういえば俺よく分かんないことしてましたね」
「あぁ……もしかすると特殊な例かもしれないな」
「特殊ですか?」
「そうだ。能力値が尖っている、というよりは特性を持つ、って感じだ。ラックバーンの爆発だったり、リエドの道具強化だったりっていう、数値じゃ測れない唯一無二の能力だ」
「唯一無二……」
つまり、能力値とは全くの別枠のスキルってことか。なんだそれ、ちょっといい響きじゃないか。
「数値で出ないなら、あの大切断は特性って考えるのが妥当だろうな。ぽん太郎、今すぐあの技出せって言われて出せそうか?」
「えーと……感覚が思い出せないです。あの時は追い詰められていたし、パニクってたんで……」
あんなんできると思ってなかったし。というか頭真っ白だったし。
でも、あれが自分の好きなタイミングで出せるようになったら……俺最強になれるのでは?
「じゃあ、パニクらせるしかないか」
……ん?なんか不穏な言葉が聞こえた気がしたんだけど。
「うし、やるか」
と、突然準備体操を始めるヒーテさん。
「……何するつもりですか?」
「何って……テストだぞ。さっきからやってるじゃないか」
「いやその割にはなんか……気合い入ってますね。どんなテストするんですか?」
「今から、俺はS瓶を使いまくってぽん太郎を全力で潰しにかかる。だからぽん太郎も全力で迎え撃ってほしい」
「えぇー!?」
つまり今から俺ボコボコにされるわけ!?
「安心しろ。テレポート送りにしない程度で収めてやるから」
「いやそういう問題!?」
「うし、行くぞー」
「しかもいきなり!?」
俺まだ心の準備が……!
と、次の瞬間!
グオォォォォォォッ!!!
「ひぃっ!?」
突如として岩石でできた巨大な拳が俺めがけて飛んできた!
「アブねぇっ……!」
俺は本能で、横にダイビングヘッドをかまし、スレスレで躱す……!
ドガガガガガッ……!
巨大な拳は、地面を抉りながら数メートル進み、停止した。
「錬成早すぎだろ……」
あんな巨大なもの、俺が錬成しようとすれば1分以上はかかるだろう。経験の差もあるだろうけど、あの速さは異常だ……!
「早いのが俺の取り柄なんでな。だが、破壊力と持続力が控えめが玉に瑕なんだ。ほら」
と、ヒーテさんの錬成した岩石の拳に目をやると、既に半分近くが霧散して消えていた。なるほど、持続力が控えめっわけだ。
「でも、あれで破壊力控えめなのか……」
「ああ。イェリーならもっと広く深く地面を抉っていただろうな」
「ひっ……」
怖すぎる。1人が出していい破壊力じゃないだろ。
「そんなことより、ぽん太郎。お前も何かしないとテストになんねーぞ」
「あ……そっか」
俺もやられっぱなしってわけにはいかない。
「……よっと」
とりあえず、今1番簡単に作れるナイフを錬成する。このくらいなら慣れてきたな。
「さて、あとは……あの大切断だよな」
最強と謳われる深夜レベルのイーターを一撃で撃破したあの技。1度出せたんだ、不可能じゃないはず。でもどうやって出せばいいんだろうか……?
「いくぞ!」
「うおっ……!?」
と、ヒーテさんが次の一手を繰り出してくる。
ドンッ!ガガガガガガ!!!
「今度は丸太!?」
巨大な棘の生えた丸太が俺に向かって凄い勢いで転がってくる!範囲が広すぎてさっきみたいにダイビングヘッドでは避けられそうにない……!
「くそっ……一か八か……!」
回避するには、この丸太をどうにかするしかない!ムカデの時みたいにぶった斬ってやる……!
「だあああぁっ!!!」
俺は、編成したナイフを片手に丸太へ突撃し、豪快に縦に腕を振り下ろした……!
が、しかし。
「ぼげへぇっ……!?」
ナイフは丸太に弾かれ、鈍い音と共に思いっきりぶっ飛ばされてしまった。
「……出ないか、斬撃は。おーい、大丈夫かー?」
「……い、生きてまぶ……」
幸い、テレポート送りにはならなかったようだ。だが、全身に痛みが走る。すぐには立ち上がれそうにない。
「ぽん太郎、回復する時にもS瓶を使えよ。ほら、割ってみろ」
「は、はい……」
ヒーテさんのアドバイスを受け、プルプルと震える腕を無理やり動かして何とかS瓶を割る。
「おっ、あったかい」
陽の光を浴びた時のように、身体中に温もりが広がる。それと同時に痛みが霧散していくようだ。
「便利っすね、S瓶」
「イーターの攻撃で失った腕や足も元に戻るから便利だ。ただ、回復に消費した分攻撃できなくなるから注意だ」
「やっぱ怪我のスケールでかいっすね……」
そんな簡単に四肢失うとか言わないで……擦り傷とか打撲は怪我に含まないってか。
「とりあえず、治ったなら次行くぞー」
「ち、ちょっと待ってください!」
「なんだよ、どうした?」
「あの、コツとかないですか?現状だと出せそうにないんですけど……」
どうも、『斬る』って動作に馴染みがなさすぎてイメージが湧かない。俺個人の気づきだけど、錬成ってのは明確にイメージが成されないと出せないんだ。そして、イメージができるかどうかは調子にも左右されるけど……創造力にかかってる。
つまり何が言いたいかって、『中途半端な錬成は存在しない』ってことだ。創造力が足りなければそもそも錬成が進行しない、0%か100%かの世界だ。99%ではダメなんだ。大切断のイメージが曖昧なせいで、出すことができない。まずはここの問題を解決しないと話を進めることができない。
「なるほど……ふーむ」
1度戦闘が中断され、ミーティングが始まる。
「もう一度きちんとあの時の状況を思い出してみるか。どんな状況だった?」
「えーと……ナイフを突き立てたら、ムカデが真っ二つになっていて……」
「どう真っ二つになったんだ?斬撃が飛んだのか?」
「確か飛んでなかったと思うんですけど……」
「ふむ……だとすると、“物体そのものに働きかける能力”か……?」
「そのものに……えーと、つまりそれは……」
「まあ、もしそうだと仮定するなら、ぽん太郎の能力は『触れた物体を真っ二つにできる』ってことになるな」
「おぉ!」
つまり、問答無用でどんなものでも一刀両断できるということに……!すげぇ、なんかカッコイイ!
「でも、それだとおかしいんだよな……」
「え?」
「“物体そのものに働きかける力”は、本人や相手の力によって効力が変わってくる。今のぽん太郎の能力値で考えると、深夜レベルのイーター相手には遠く及ばないと思うんだがな……」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。実際見ただろ。ラックバーンの能力も、『殴った箇所が爆発する能力』っていう、“物体そのものに働きかける能力”だ」
「そういえば……そうですね」
確かに、ラックバーンさんの能力は、バット自体が爆発する訳では無い。爆発の影響を自身も受けてしまうのもそういった理由があるのかな?
「今計ってみて、現段階では錬成の能力値はぽん太郎よりラックバーンの方が上だった。そのラックバーンの爆発でもあのムカデには傷一つつけられなかったんだ」
「な、なるほど……」
つまり、ラックバーンさんでもダメージを与えられなかった俺が切断なんて出来るわけがないと。
「じゃあ、もっと別の視点で考える必要があるってことですかね」
「そうだな……何か思い当たることないか?」
「うーん……」
と、色々と悩んでいると……
「コラー!リーダーを差し置いて2人でイチャイチャするとは何事じゃー!」
本部に残っていたチームレインのメンバーが訓練場に現れた。
「あ、リエドさんだ」
「ラックバーンの姿がねーな。あいつはどうしたんだ?」
「ラックバーンはあまりにも騒ぎすぎるのでルーノが開発した『超絶即倒メンタル木っ端微塵薬』を飲ませました。現在昏睡中です」
「すごく物騒な名前の薬だねー……」
「ルーノはネーミングセンスも天才的なのです」
「……ヒーテ・何・してた」
「あぁ……ぽん太郎の錬成の練習に付き合ってたんだ」
「錬成ぃ?あぁ、あの噂の大切断か」
「丁度いい。皆も協力してくれ。実はかくかくしかじかで……」
と、今までの経緯と共に現在の状況を皆に伝える。
「……アイ・アム・把握」
「なるほどねぇ〜……でも、私はその瞬間を見れてないんだよねー」
「他に見てたのはルーノか。どう見えた?」
「はい。状況については、ぽん太郎が言った通りなので特に言及することはありません。大切断についてですが……不自然な点が見受けられます。思いつくことで言えば、断面が綺麗すぎたことですね。イーターを真っ二つにしている瞬間は時々目にしますが、あそこまで綺麗なのは初めて見ました」
「へー、そいつは凄いなー、ぽん太郎」
「はい。『斬る』よりも『割る』という表現の方が当てはまる気がします」
『割る』か。うーん……それでもイマイチピンと来ないな……ちょっとは近づいた気がするんだけど。
「確かその時はナイフを持ってたんだよね?」
「ああ。だがルーノの錬成の強度的に考えて、あんな大切断を出せるとは……」
「はい。やろうとすればナイフでも斬撃を飛ばすことは可能ですが……その可能性は限りなく低いですね」
その後も皆が色々とアイデアを出し続けるが、答えは出そうになかった。うーん、俺の能力は一体何なんだろうな……
「相手をふにゃふにゃにする能力とか?」
「ぽん太郎の能力値じゃ無理だな」
「じゃー、相手をクッキーにする能力だ!」
「おい」
「いや、プリンでしょ!プリンを一刀両断する能力!」
「普通のナイフでいいだろそれは」
「……服・消す・能力」
「お前の願望じゃねーか、イトミズ」
「変態ですね」
議論が行き詰まって、各々がふざけ出した。
「ふぅ……」
俺自身も色々と考えているが、なかなか閃かない。うーん、どうしたもんかなぁ……
と、ボーッと地平線の彼方を見つめていると、何かが視界に入った。
「ん……?」
なにやら向こうの方で砂埃が立っている。
「んん……?」
しかも、あの砂埃、近づいて来てる……?
「ちょ、リエドさん、あれ……」
それに、結構あの砂埃デカいぞ……!?嫌な予感がする!
「なんだよー、クッキープリン変態太郎。今議論中だろーが」
「いやどんな名前……じゃなくて、あれ!あれ!」
「んん……?」
明らかに俺達の方に向かってきている砂埃を見て、皆は警戒態勢に入った。
「……イーターじゃね?」
「イーターっぽいねー」
「イーターだな」
「イーターですね」
「……アイ・アム・イーター」
みんな顔つきが変わった。驚く程に冷静だ。各々が既に錬成を開始している。
「あの感じは夕暮だな。よーし、ちゃっちゃと終わらせるか」
「まだ姿も見えてないのに……どうして分かるんですか?」
「ん?あぁー……何となく?」
「ぽん太郎もいずれ分かるようになります。これに関しては理屈ではなく、勘ですので」
「そういうもんすか」
こうしてみると、やっぱり場数を踏んできた人達なんだな、と感じる。余裕があるんだよな、ちょっと安心する。
「さあ、来るぞ!」
そして、砂埃が目の前まで迫ったきたその瞬間!
ボゴォォォォ!!!
地面からイーターが勢いよく飛び出してきた!
「魚……いや、サメ!?」
特徴的な背ビレと鋭い歯、そしてスラッとしたそのフォルムは、間違いなくホホジロザメの特徴を捉えていた。
「サメが地面を泳いでる!?」
「おそらく周囲の土を粒子化させて泳いでいるのでしょう。足場が悪くなるので素早く仕留めたいですね」
と、ルーノさんは狙撃銃を構える。ちょうど錬成が完了したようだ。
「魚なんだから潜らせなけりゃいいんだな……!」
最初に飛び出したのはヒーテさんだった。太いロープでできた巨大な網をサメの落下地点に広げて待ち構えている。
「よーし、でっかいサメを捕まえるぞー!」
次に、イェリーさんがバカでかいクレーン車を錬成し、ヒーテさんの錬成した網を先端に繋ぐ……!
「網にかかったところをクレーン車が吊り上げるってことか……!」
すごい連携だ。これを相談もなしにやってのけるなんて……やはり『深夜レベル専門』の名は伊達じゃない!
「おぉー、オーライオーライ」
網の近くにはリエドさんが待機している。その手にはハンマーが。確かリエドさんの能力は、道具の威力を何倍にもするってやつだったな。
「シャアアアアアアッ!」
高く飛び上がったサメは、落下地点の近くにいたリエドさんに向かって一直線に飛びかかる……!
「ちょっと違う!もうちょいこっち!」
「ジャガァァァッ!?」
しかし、リエドさんのハンマーで頭部をぶっ叩かれ、軌道が網の方へと修正された!
「そのためのハンマーだったのか……!」
能力も凄いけど、リエドさんって臨機応変に対応する力もあるな。さすがリーダーって感じだ。
「イェリー!いいぞー!」
「よーし、引き揚げるよー」
「ジャァァァアッ」
計画通り、サメは網の上へと落下し、漁業のように吊り上げられた。
「……アイ・アム・トドメ」
「流石のルーノでもこの距離なら外しません」
そして、身動きが取れないサメの正面には、太刀を構えたイトミズさんと、銃を構えたルーノさんが。瞬間火力に特化した2人だ。
「さすがに決まったか……!」
流れるような連携に、俺は心を奪われていた。それぞれの強みが活かされていて、無駄がない。これが、チームレインの力……!
「撃ちます……!」
「……突撃」
そして、2人は同時にサメへと攻撃を仕掛ける……!
バァァァン!
しかし、俺は見てしまった。
「……あっ」
ルーノさんの射撃がサメに的中していないところを。
ガコン!ブチブチッ!
ルーノさんの放った弾はサメではなく、網とクレーン車を繋ぐフックの部分に的中した。
その結果、何が起こったかと言うと……
「……ぬぉぉぉぉ……」
サメを捕らえた網は、フックを撃ち抜かれたことで支えを失い落下し、それにより攻撃を空ぶったイトミズさんはお空の彼方へ吹っ飛んでいった。
「そういえば……イトミズさん、止まれないんだったな」
イトミズさんの得意な能力である身体強化は、加速は凄いが、減速ができないという、ブレーキの効かない暴走機関車のようなものだ。なにかに激突するまで空を旅することになるだろう。
「おいー、ルーノ何やってんだよ」
「……イトミズがルーノの作戦についてこれなかったみたいですね。決して言い訳ではありませんよリエド」
「おい、言い訳じゃないならこっち見て言ったらどうだルーノ。どこ見てんだその角度」
「イトミズ飛んでっちゃったねー、もう見えないや」
「それよりどうすんだあのサメ。俺の網消えてまた潜っちまったぞ」
仕留め損なったサメは、背ビレを見せびらかしながら俺達の周囲を回り続けている。チャンスを伺っているんだろうか。
「じゃー……魚らしく、釣りといくか」
と、リエドさんがこっちを見た気がした。
「……えっ」
「おいぃぃぃぃぃぃ!」
その後、何故かリエドさん取り押さえられた俺は縄で縛られ、クレーンに吊るされていた。
「おー!活きのいいエサじゃねーか!」
「離せー!こらー!」
「いやー、俺も可哀想だと思うんだがな!役割が余ってそうなのぽん太郎しかいなかったわ!すまん!」
前言撤回。さすがリーダーっての取り消すわ。外道め。
「ヒーテは網を広げてもらわなきゃならんし、イェリーはクレーン車を動かす。俺は軌道修正しなきゃだし、ルーノはトドメの一撃で必要。つまりそういうことだぽん太郎!」
「だからってエサ係はおかしいだろぉぉ!?」
「……ここはヒーテが助けてあげるべきだとルーノは思います」
「あのロープ、リエドが錬成したやつだろ。ガチガチすぎて俺には解けねぇよ」
「確かにそうですね。諦めましょう」
「諦めるの早いって!もうちょい頑張ってよ!?」
俺の抵抗も虚しく、背ビレの描く円が、俺を中心にどんどん狭くなっていく。
「ひぃっ……!」
いつ飛び出てきてもおかしくないこの状況。俺に出来ることは、ポケットに入ったS瓶を割ることのみ。
幸いというべきか、手首から下は自由に動かせる。錬成は不可能では無さそうだ。
ナイフを錬成してロープを切るか……?でも、このロープを切れる自信が無い。手首しか動かせないんだから、力が入らないに決まってる。錬成するだけ無駄か。
それなら、サメを迎撃できるだけの物を錬成するか?でも今から錬成して間に合うか……?それならせめて今すぐに錬成できるナイフだけでも作っておくか……?
「……くそっ!」
考えが纏まらない……!どうすりゃいいんだ俺は……!!!
そして遂に……
「シャアアアアアッ!!!」
「うわああああああああっ!」
サメが巨大な口を開いて俺に襲いかかってきた……!!!
「もうダメだぁぁぁぁぁっ!」
と、その時。ムカデと退治した時の記憶が鮮明に蘇る。
「ナイフ……縦に突き立て……」
これが、走馬灯……ってやつか。初めて見た。
「縦に、真っ二つ……」
本当に縦に、真っ直ぐ真っ二つなんだな。縦に包丁を入れられたリンゴのように、右と左にムカデが半分ずつになった。
「どうやったんだろうな、これ……」
何度思い返しても、手がかりになりそうなものは思いつかなかった。走馬灯を持ってしてもダメか……
と、考えもしなかったある点に俺は走馬灯を見て気づく。
「あれ……ちょっと変だな……」
縦に包丁を入れられたリンゴ……って表現したけど、何かが違う。もっとこう、根本的に……『斬る』でも『割る』でもない、なんだろう……
「……まさか」
えーと、もしかして……こういうことなのかな……?
「…………ハッ!」
走馬灯が消え、襲いかかるサメが視界いっぱいに広がる……!
「うおぉっ!?」
「あぁー!ぽん太郎が食われるー!」
「吊るしたのリエドだろーが」
もう、やるしかない!走馬灯を見て感じたことをやるしか……!無抵抗でやられてたまるか……!
そして、俺はポケットのS瓶を割り……
「この辺だろ……!!!」
サメに向かってシャインを解き放ち、錬成を繰り出した!
「おぉ!ぽん太郎が何かしたぞ!」
「錬成をしたようですね。何を錬成したかは分かりませんが」
そして、次の瞬間。
「グォァァ…………」
サメの体は、あの時のムカデと同じように真っ二つになり、地面にドサッと倒れ伏せた。
「……えぇ!?ぽん太郎凄っ!」
「おぉー!やりやがったぽん太郎!」
「……ふぅ」
俺は理解した。あの大切断の秘密、俺がどんな能力を持つのか。
「イェリー!ぽん太郎下ろしてやってくれー!」
「あ、はいはーい」
「おいぽん太郎すげーじゃねぇか!どうやったんだ!」
「それは……」
リエドさんに縄を解かれながら、俺は説明する。
「俺の能力は、『空間を錬成する』というものでした」
「空間を……?」
「はい。言い換えるなら……指定した場所の空間をいじる、という感じですかね」
「うん……?」
「ルーノも理解不十分ですが……今回の場合は、サメの体がある場所に、薄い板のようなものを錬成した、という認識で間違いないでしょうか」
「はい、ほぼほぼあってます……が、若干違います。錬成と言っていいのか分からないんですけど……『サメの体がある場所の空間を、薄い板状にくり抜いた』って認識です」
「くり抜くって……それって空間を抉ったってことか……?」
「そういうことになりますね」
「お前すげぇな!そんなことできたのか!」
「理屈は分かりませんが、イーターの能力値に影響しないところを見ると、本当に空間のみに作用しているみたいですね。硬さを気にせず破壊できるのはこれ以上ない強みですね」
走馬灯をみて、俺の能力が『斬る』でも『割る』でもなく、『消す』だったことに気がついたのは、本当にたまたまだった。よく気づいたよな、俺。
でもまさか、俺の能力が『空間抉り』だったなんて……身体と頭では理解できているけれど、感情が追いついていない。普通に考えて殺意が高すぎるだろ、この能力。
「いやー、凄まじい能力だな……って、そう考えると俺のロープもやろうとすれば簡単に切れたってことじゃねぇのか!?」
「あー……そうですね」
「ひぃ!」
「……珍しくリエドがビビっています」
「凄いね〜、それってもう無敵ってことじゃない?」
「いや、でも制限もありますね、これ」
「制限?」
「何となく、体感で分かったことなんですけど……一度に抉れる空間の体積には上限があります。大体自分の体丸々1人分くらいが限界です」
「へぇ〜、じゃあ大きなイーターをやっつける時は薄くして面積を増やしてるってことだね!」
「そういうことです!あと、抉るだけで錬成に実体は無いので、防御としては使いづらいですね」
「確かに、大きな岩から人一人分の体積が減ったとしてもそんなに大差ないな」
「壁にもならないってことか。つまり攻撃に全振りした感じだな!俺は好きだぞそういうの!だははは!」
とりあえず、今回の件で俺の能力が判明した。大切断を自分の意思で使えるようになったんだ。これからがとても楽しみだ!
それからしばらくして───
「じゃ、ぽん太郎の能力判明を祝って……乾杯ッ!」
「カンパーイ!」
「かんぱい!」
「乾杯です」
本部に戻った俺達チームレインは、俺のために乾杯してくれた。
「……乾・杯」
イトミズさんも本部に戻っていたみたいだ。テレポートで帰ってきたみたいだけど……
「ラックバーンさんはどうなったんですか?」
「まだ昏睡してるぞ」
「強烈だな……ルーノの薬」
「私の『超絶即倒メンタル木っ端微塵薬』の効力は2、3日は持続しますので」
「怖っ」
「それよりぽん太郎は記憶戻らないのー?」
「あー……」
そういえば、ここでの生活に慣れるのに精一杯で、記憶を失ってることを完全に忘れていた。
「……戻らないですね。名前も思い出せないです」
「ルーノはいいと思いますよ。ぽん太郎のままで」
「ルーノさん!?」
「すっぽんぽんのぽん太郎だー!あはははは!」
「ぐ……くそう……!」
「錬成もできるようになって戦えるようになったんだ。これからちゃーんと働いて罪を償ってもらおうか……!」
「なんであの時俺裸だったんだよ……!くそう……!」
まだまだこの世界は分からないことだらけだな。学ぶことが多すぎる。それに、俺自身の謎も解き明かさないと。大変だ。
「でもまあ、何とかなるよな」
なんてったって、ここには『無限の可能性』が満ち溢れてるんだもんな。
「ぽん太郎!ジュースおかわり欲しいか!」
「あ、はい!お願いします!」
こうして、俺のハンティング生活が真に幕を開けることとなった。
こんにちは!ようやくプロローグ完結しました!これからやっと普通のお話になります!
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!とても長い、自分ワールドの説明に付き合って下さりとっても嬉しいです!これからもぽん太郎の活躍にどうぞご期待ください!
最後になりますが、感想や評価、お待ちしております!また、この作品を気に入って頂ければブックマークの方もよろしくお願い致します!励みになります!
それではまたお会いしましょう!