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その8 マイナの怒り

「失礼、町の外へ出られるのですか?

町から離れすぎると魔物に出会う可能性がありますよ」



 町を出ようとした二人は門番に呼び止められるが、

ごく普通に声をかけられただけだった。


 恐らくはまだ通達が来ていないことに、

二人の緊張が少しだけ緩む。



「ええ、川や森で食べる物を取ってこようと思いまして、

そこまで遠くへは行きません、ご忠告ありがとうございます」


「そうですか、ではお気を付けて」



 レナードが門番の質問に要領よく答え、

そのまま道を開けてもらう。


 ひとまず無事に通過できると考えながら

二人が外へ向かって歩き出そうとしたその時・・・。



「おい待てっ! その二人を外へ出すなっ!

巨乳の女と逃走を手引きしたガキが逃げているっ!

そいつらが捕まるまで誰も町の外へ出しちゃだめだっ!」


「えっ? なんだって!?

き、きみたち、ちょっと止まりなさい!」



 通報を受けて門番へ連絡しに来たであろう衛兵に声を掛けられ

門番がすぐさま道を塞いでしまう。


 レナードとマイナは背後から迫ってくる衛兵と正面の門番、

二つの障害に挟まれてしまった。


 息を切らせてやってきた衛兵に、

門番が事情の説明を求める。



「巨乳の女って本当か? そんな恐ろしいやつが

この町に潜伏していたのか?」


「はぁ、はぁ・・・、ああ、そうらしい、

女とガキの二人連れだと聞いた、どこで潜んでるか分からない。

もしかしたらもう逃げていて町の外で魔物を呼んでるのかもしれない」


「なるほど、・・・そこの二人、

申し訳ありませんが身元を確認させてもらえますか?

人違いでしたらすぐに解放させていただきますので」


「どちらにせよ今は町の外へ出るのは危険だ、

潔白さえ証明してくれたら

お前たちの家まで送ってやるから・・・」



 二人の門番から確認を求められ、

レナードは焦りを感じてしまう。


 マイナの体を隠している外套を取られてしまえば

それだけで自分たちがその逃亡者だと察せられる。


 だが、いよいよもって強引な手段を取る他ないかと

腰に携えていた剣へ手をかけたその時・・・



「黙って聞いていれば、誰もかれもが好き放題に・・・!

胸が大きいだけで人のことを魔王だの魔物を呼ぶだの・・・!

私だって好きでこんな体になったわけじゃない!」



 マイナが語気を荒げたかと思うと、

外套を開いて自分の体を勢いよく曝け出した。


 服の上からでもはっきりと分かる、

本人の頭部と比較してもそん色ないほどの巨大な乳房。


 その大きさや開いた胸元から垣間見える谷間が、

彼女が巨乳であることを明確に示していた。


 この場にいた三人は同時にマイナへ注目し、

そしてレナードは思わず頬を染めながら目を逸らす。


 しかし残りの二人は対照的に青ざめた顔となっていた。



「ひ、ひいぃっ! きょ、巨乳の女だ!

こ、こいつが例の逃亡者だっ!」


「お、お、おいお前っ! 動くなっ・・・!

抵抗するようならっ・・・!」


「その震える手で何をするつもり?

捕まえられるものなら捕まえてみなさいよ!」



 堂々と背中を伸ばし、胸を突き出しながら

門番たちを挑発するようにマイナが言い放つ。


 二人はマイナを捕まえようと武器を構えるが、

巨乳が恐ろしいのか後ずさってばかりだった。


 この状況に虚を突かれていたレナードだが、

正気を取り戻して口を開く。



「あ、あの・・・、危ないですよ・・・?

それより早く町から出ましょう」


「そうね、じゃあ二人とも離れてもらおうかしら?

恐ろしい巨乳の女が町から出るんだから大人しく見送っていただける?」


「ふ、ふざけるな・・・! 逃がしてなるものか・・・!」


「あら、あなたたちだけで止められるのかしら?

こんなに胸が大きい女を?」


「う、うわぁ!?」



 今度はマイナが前に体を傾け、

胸の谷間を見せつけるような恰好になる。


 巨大な乳房が揺れ動く様に恐れおののいたのか、

門番たちは慌てて道を開けてしまった。



「ありがとう、さあ行きましょうか」


「あ、はい・・・」



 堂々と歩いて出ていくマイナと、小走りに付いて行くレナード。


 荒事に発展することはなかったものの、

ある程度の覚悟はしていたレナードは複雑な気持ちだった。



「お、おい待て、止まれっ!」


「くそっ、逃がしちまった! 早く連絡しねえと!」



 町の外まで追いかけてくるつもりはないのか、

門の内から必死で制止する門番たち


 その言葉に耳を貸すはずもなく、

とにもかくにも二人は町の外へ無事に逃亡したのだった・・・


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