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その4 遭遇

 聞き逃しようのない大声に驚きながら周囲を見回すと

店の奥で二人の男女が何やら揉めていた。


 尋常ではないその様子に、

それまで静かに食事をしていた客も何事かと覗き込んでいる。



「ち、違います・・・、騙してたわけでは・・・」


「ふざけるな! だったらその乳は何だ!

この魔王の手先め!」


「そ、そんな・・・、手先なんて、私・・・!」


「手先じゃなければ生まれ変わりか!

お前みたいなのを今まで雇ってたなんて虫唾が走る!」



(なにあれ、女の人がいじめられてるの・・・?

いや違う、あれは・・・!)



 レナードが目にしたのは、大柄な男性が

店員の女性を壁に追いやって糾弾している様子だった。


 それぞれ何の変哲もない給仕服を身に着けていたが、

女性の方は少し普通と見た目が違っている。


 肩までかかる亜麻色の髪に、黒を基調とした服、

そして真っ白なエプロンという出で立ちは問題ないが・・・。


 何よりも目を引かれるのは、

その胸部が非常に膨らんでいることだった。


 服の胸元が大きく開いており、

胸の谷間が一目で丸わかりとなっている。



「魔王なんて、私にはなんの関係もありません・・・、

普通に生活をしていたら、いつの間にか胸が大きくなって・・・」


「黙れ、そんなはずないだろう!

女神様は女性に不必要なものを授けたりしない!

赤子もいないお前の胸が膨らむなんて普通はありえないんだ!」


「でも、私は・・・」


「ええい、言い訳はもういい!

今すぐに衛兵へ突き出してやる!」



(衛兵・・・!? 噂には聞いていたけど、

本当に胸が大きいというだけで罪になるなんて・・・!)



 ますます興奮気味の男性が叫んだ言葉に

レナードは動揺してしまう。


 巨乳の女性は恐れられ、嫌われるという知識こそあれど、

話で聞いていたよりもひどい現場を実際に見たショックは大きかった。


 レナードが認識の甘さを実感しているところに、

様子をうかがっていた周りの客も口を揃えて女性を批判し始める。



「ありゃここの店員じゃねぇか、

なんだこの店、巨乳の女を匿ってたのか?」


「いや、あの様子じゃ上手いこと誤魔化してたんだろう、

女神に背く輩め、いったいなんのつもりで

俺たちの町に潜り込んでいたんだ」


「あの胸に触ると命を奪われると聞いたぞ、

できれば近寄りたくはねぇもんだ・・・」


(ただ胸が大きいっていうだけでこんなにも怖がられて・・・、

お姉ちゃんも、あの女の人みたいに・・・)



 周りの心無い言葉に、そしてこの世界ではごく当たり前の言葉に

表しがたい感情を覚えるレナード。


 いなくなってしまった幼馴染のことが思い浮かび、

そしてあの女性と重なってしまう。



「ま、待って・・・」


「てっ、抵抗する気か!? その胸で何をする気だ!

クソッ! 来るなっ!」



 女性はただ相手を制止しようとしたのか、

縋るように手を伸ばしかけた。


 しかし男性の方はその行動を誤解したらしく、

動揺した様子を後ずさりする。


 そしてまな板のうえにあった食材へ手が触れた瞬間、

それを掴んで投げつけようとしていた。


 男性が振りかぶった瞬間、

レナードはその意図を理解し・・・。



「やめてくださいっ!」



 二人の間へ割って入り、女性をかばうように

男性を睨みつけた。

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